フランス発ジュエラー「ブシュロン(BOUCHERON)」を率いるエレーヌ・プリ・デュケン(Helene Poulit・Duquesne) 最高経営責任者(CEO)は、新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン中にフランス・ノルマンディの自宅で同社の指揮を執っていた。彼女はコロナ感染拡大の予兆が出てすぐに、リモートワークができるよう全てのスタッフにPCを調達。また、ヨーロッパでロックダウンが始まる前にジュエリーの在庫を主要市場であるアジアに贈った。プリ・デュケンCEOは、「3カ月間会社運営ができなかったとしても、(アジアで)在庫切れにならないようにした」と話す。また、彼女が行ったのはデジタル施策の強化だ。高級ブランドを扱うECサイト「ファーフェッチ(FARFETCH)」とタッグを組み販売をスタートさせた。日本では5月25日から、自宅にいてジュエリーのオーダーができる「ブシュロン リモート ショッピング サポート」を銀座店と心斎橋店で開始した。このサービスは、公式ウェブサイトにアクセスしメールやチャットでオーダーすることができるもの。クライアントサービスに電話すれば専任スタッフがショッピングをサポートし、希望する顧客には、スタッフが要望に合わせてビデオ電話で商品を提案するという内容だ。
ロックダウン中も、プリ・デュケンCEOは、重役らとコロナ危機におけるマネジメントおよびコロナ終息後について頻繁にブレーンストーミングを行ったという。「『ブシュロン』は、女性が中心を担うジュエラーであることに気付いた。それを十分に発信できていない」とプリ・デュケンCEO。「ブシュロン」では同CEOをはじめクリエイティブ・ディレクターのクレール・ショワンヌ(Claire Choinne)も女性だ。「コロナ危機で、人と人のつながりというシンプルなことにフォーカスすることができた。スタッフや顧客は大丈夫かと思いやる気持ち、このように感情を大切にする面が『ブシュロン』のプラットフォームにはあると感じた」という。
同CEOは、「ブシュロン」はとても誠実なブランドだと強調する。そんな彼女がロックダウンで感じたことは、VIP顧客との強い絆だ。「今までこれほど、VIP顧客とつながりを感じたことはない。ロックダウンが始まって10日間で、私をはじめ、担当営業はメールや『ワッツアップ(WhattsApp)』、『ウィーチャット(微信、WeChat)』などのSNSを通じてVIP顧客とコミュニケーションを取った。ビジネス目的ではなく、ロックダウン中どうしているか、家族は大丈夫かと思いやる気持ちからだ」。プリ・デュケンCEOからのメッセージを受け取って感動したという顧客も多い。「顧客から数日返答がないと気がかりでならなかった。私は、彼らとつながっていたいと心から思っていたから」。
同CEOは、顧客とのこのようなコミュニケーションが絆をつくったと考える。コロナ感染拡大が収束すれば、安全確保を万全にして、パリ・ヴァンドーム本店でVIP顧客向けに小規模のランチやディナーイベントを開催する予定だ。ロックダウン中に、他者との気持ちのつながりの重要性を自ら感じ、それをチームに伝えて顧客との絆を深めたプリ・デュケンCEOのしなやかなリーダーシップに学べることは多いかもしれない。