アシュリー・オルセン(Ashley Olsen)とメアリー・ケイト・オルセン(Mary-Kate Olsen)姉妹が手掛けるブランド「ザ・ロウ(THE ROW)」が資金難に陥っているとの憶測が広まっている。
複数の情報筋によれば、これは新型コロナウイルスの影響によるものだけでなく、以前から資金繰りに不安があったという。ロックダウン(都市封鎖)が解除された後、同ブランドのニューヨークとロサンゼルスにある旗艦店も営業を再開しているが、ブランド全体で大幅な人員削減が行われているようだ。
主なところでは、ウィメンズウエアの共同デザイン・ディレクターであるジェームズ・ロビンソン(James Robinson)とアナ・ソフィア・ホーブナー(Anna Sophia Hovener)、メンズウエアのデザイナーであるポール・エルバース(Paul Helbers)が退任したとみられている。かつて「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「メゾン マルタン マルジェラ(MAISON MARTIN MARGIELA)」のメンズウエアを率いていたエルバースが退任したことで、2018年10月にスタートした「ザ・ロウ」のメンズ・コレクションも終了するのではないかと推測する関係者も多い。またデザイン、制作、営業などの部門でも人員整理が進められており、チームによっては以前の半数以下となっている。これらに伴い、現在はアシュリーが最高経営責任者を、メアリー・ケイトがクリエイティブ・ディレクターを務めているという。
資金繰りという点では、19年8月に米バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEW YORK以下、バーニーズ)が経営破綻したことも「ザ・ロウ」にとって不運だった。バーニーズは同ブランドの主要な卸先だったため、破綻の際には370万ドル(約3億9200万円)の売掛金が未回収となり、2番目に大きな債権者となっている。
06年に設立された「ザ・ロウ」は、上質な素材使いやミニマルでモダンなデザインに定評がある。ロンドンのサヴィル・ロウに敬意を込めて付けたというブランド名が示す通り、コートやジャケットが2300~4900ドル(約25万~51万円)、シャツが650~2000ドル(約6万8000~21万円)、スカートが1600~2500ドル(約16万~26万円)と高価格帯の商品を扱っており、公式インスタグラムなどでもラグジュアリーでアーティスティックなイメージを打ち出している。しかし信頼できる情報筋によれば、同ブランドは手元資金を確保するために、相当な量の在庫をディスカウントストアなどに売却したようだ。
こうした資金難に加えて、「ザ・ロウ」は人種差別的なブランドだと従業員らから指摘されているという。本社に黒人の専門職は一人もおらず、アジア系の従業員もごくわずかしかいない上に、昇進や昇給の機会もほとんどないと告発されている。
米「WWD」がこれらについて問い合わせたところ、同ブランドは、「現在は20年プレ・フォールおよび秋冬コレクションの生産を行っているほか、21年春夏コレクションの制作にも着手している。新型コロナウイルスの影響によって発生したサプライチェーンでの遅延や混乱に対応するため、ほかのブランドと同様に『ザ・ロウ』でも間接費の削減に取り組んでいる。また当ブランドでは以前から多様性や包括性を推進しており、それを否定するような不正確なゴシップに対するコメントは差し控えたい。メンズウエア、アクセサリー、ECなどを含め、今後も利益を上げられるブランドとして成長していくものと確信している」と回答した。
オルセン姉妹は最近、公私ともに困難に直面している。メアリー・ケイトは15年に銀行家のオリヴィエ・サルコジ(Olivier Sarkozy)と結婚したものの、20年5月に離婚。また19年10月には「ザ・ロウ」の社長を務めていたデイビッド・シュルト(David Schulte)が退任したが、同氏はオルセン姉妹と「ザ・ロウ」、そして親会社のデュアルスター・エンターテインメント(DUALSTAR ENTERTAINMENT)を相手に訴訟を起こしている。