2020-21年秋冬シーズンに東京を拠点とする新たなブランド「イレニサ(IRENISA)」がデビューした。「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」でパタンナーとして経験を積んだ小林祐と、「サポートサーフェス(SUPPORT SURFACE)」で企画から生産、デザインまでを担当した安倍悠治の実力派デュオが手掛けるメンズブランドだ。
技術とユーモアの調和
ブランドコンセプトは“CHIC WITH SARCASM”。“皮肉のあるエレガンス”と解釈できるこのコンセプトには、「シックな服作りを基本としながら、それに止まらない面白さを発信したい」(小林デザイナー)という思いが込められている。「例えばナースコートは、コットンなどの軽い素材で作られるのが一般的。そこをヘビーなウールで仕上げることで新しい見え方を提案した。また付属のレザーも通常は裁断しただけのものを採用することが多いが、レザーブランドの『モト(MOTO)』に製作してもらったベジタブルタンニンなめしのコバ処理済みレザーを使った」と小林デザイナーは語る。安倍デザイナーは「真面目すぎる服って意外と飽きちゃう。ただのオーセンティックでなく、今の時代らしい意外性も加えたい」と説明する。
ファーストシーズンは、前述したナースコートのほか、ショールカラーのゴージラインをくり抜いた襟と身頃のプリーツラインが特徴のジャケット、生地の折り込みでセンタープレス風に仕立てたパンツなど、全8型を用意。価格帯は3万円〜15万円ほどで、取り扱いは国内2店舗だが、「予約完売するアイテムもあり、上々な滑り出しだ」と小林デザイナーは語る。
黒やカーキなどを基調としたデビューコレクションと異なり、2021年春夏シーズンは色と柄も使ってコレクションの幅を広げた。しかし、意外性のある素材選びは継続し、軽い装いでカジュアルなムードが加速する春夏でも上品さを忘れない。「ウール表面のスケール(キューティクル)を取り除く“スケールオフ加工”を施し、羊毛とは思えないなめらかなタッチとハリを生むオリジナル生地をはじめ、上品な風合いは秋冬以上に大切にした。柄やモチーフを使うとどうしても子どもっぽくなってしまうから、僕ら世代でもなじむような服にはこういった素材が必要不可欠」と安倍デザイナーは考える。
ブランド名の意外な由来
ブランド名の「イレニサ」は、会社の設立日である10月23日から名付けたもので、特別な意味はない。「既存の言葉を用いると、どうしてもブランドにイメージを持たれてしまう。それを避けたかった。自分たちのブランドだからこそ、真っ白なところからスタートさせようと思った」(小林デザイナー)。
小林デザイナーは大学卒業後、文化服装学院の夜間コースで服作りを学び、「ヨウジヤマモト」に入社。ウィメンズとメンズラインを5年ほど担当した。阿部デザイナーは「サポートサーフェス」で企画、生産、パターン、デザインとブランド運営にまつわる幅広い分野を担当した。「会社員である以上、ある程度の制約は付き物。一定のルールの下で服を作るのも楽しいけど、やっぱり自分のブランドを持ちたかった」と小林デザイナーはブランド立ち上げの経緯を振り返る。
ウィメンズ畑でキャリアを積んだものの、メンズブランドに着手した理由を安倍デザイナーに聞くと、「ウィメンズは、どこか空想というか、“他人が着るもの”として作る側面がどうしても出てしまう。でもメンズは自分が本当に着たいと思えるものを作り込める。だから自分たちが本当に共感を呼べるものづくりはメンズではないかと考えた」と答える。
2021年春夏の展示会は「このご時世ながらファーストシーズンより多くの人に来てもらっている」と手応えを感じる2人。“着て初めて本当の良さが分かる服”だと自負するから、「成長スピードは早くなくていい。店舗で実直に世界観を伝えて、ファンを増やしていきたい」と笑顔を見せる。