コロナ禍による外出機会の減少やリモートワークの普及で、これまで通勤着やお出掛け着を得意としてきたウィメンズのリアルクローズブランドやショップは、どこも厳しい状況にある。コロナ以前から、オフィスのカジュアル化、ライフスタイル志向やサステナブル意識の高まりといった変化は進んでおり、それが供給される商品との間にミスマッチを引き起こしてきたが、コロナ禍がこの溝を一気に広げることになった。ここでは、百貨店を軸に出店するバロックジャパンリミテッドの「リムアーク(RIM.ARK)」と、セレクトショップの「エストネーション(ESTNATION)」のディレクターに、2021年春夏商戦の戦い方を聞いた。(この記事はWWDジャパン12月14日号に加筆しています)
RIM.ARK
リムアーク
「寄り添う」より、私たちのスペシャルを届けたい
2016年春夏にスタートした中村真里ディレクターの「リムアーク(RIM.ARK)」(バロックジャパンリミテッド)は、名古屋パルコへの初出店から三越銀座店や阪急うめだ本店などにも販路を広げ、海外デザイナーズブランドなどを購入する客にも市場を広げている。トレンドにとらわれず、アートなどから着想を得たデザインが特徴で、中でも顧客からの支持が厚い“コレクションライン”の先行受注は、シーズンを追うごとに受注数・受注金額ともに大きく伸びている。21年春夏には、20年春夏に販売機会を失った商品を持ち越して正価販売する。
自粛中は売れ行き動向から、ファンの関心の変化を感じとったという。「これまで売れ筋ではなかったカットソー素材のワンピースが5、6月になって急に売れだした」。ブランドの強みは布帛を使ったかっちりとした服。だが、「柔らかくイージーな着心地の、リアルクローズが求められていると感じていた」。
2021年春夏の企画では頭を捻ることになる。「世の中の流れに逆行している?」「等身大のニーズに寄り添うことが大事なのでは?」。そんな迷いもあったが、最終的に背中を押したのはファンからの言葉。「外出できない状況の中でも、『これを着る日のためなら毎日頑張れます』というメッセージが、いつにもまして増えていた。こんな状況でも『リムアーク』の服をとっておきと感じてくれている方がいるのだから、私たちが届けるべきものは自ずと見えてきた」。春夏の新作の主役に据えるリネンウールのポンチョ(2万8000円)は、ベージュやグリーンなどを組み合わせたカラーに上品に開いた首元、ドレープが特徴的な、「1年温めていた」渾身のアイテムだ。
「リムアーク」は19年春夏からシーズンテーマを設けることをやめている。「トレンドにとらわれず、『リムアーク』というもっと大きな器の中で自由にモノづくりができるようになった」と中村ディレクターの表情は晴れやかだ。「どれもブランドのファンに向けて自信を持って作った商品だから、(シーズンを持ち越しても)自然に受け入れてもらいたい」。
ESTNATION
エストネーション
「とにかく在庫を残さない」、ベーシックを再構築
サザビーリーグが手掛けるセレクトショップの「エストネーション(ESTNATION)」は、2020年10月に銀座店1階をオフプライスストアに転換するなど、コロナ禍の中でセレクトショップビジネスのあり方を模索している。21年春夏も、カジュアルからドレスまでそろうバリエーションの広さや、女性らしい華やかさ、上質さといった元来の持ち味を表現しつつ、同時に適時・適品・適量の追求を徹底し、無駄のないMDを目指す。
シーズンテーマは“フレア フォー ファッション”。「ファッションの持つときめきやパワーをポジティブに表現していく」(藤井かんなエストネーション ウィメンズディレクター)といい、特に色の打ち出しを重視した。1月はパープルとイエローなどの色×色の組み合わせで、冬物コートの中に着られるニットトップスやプリーツスカートを提案。徐々に色調を変え、4月以降はネオンカラーなども取り入れる。
MD面のテーマとして掲げるのが「適時・適品・適量の強化」だ。役割が重なっていた品番などを整理することで、シーズン全体として仕入れ数量は引き続き従来の8割前後に抑制。また、実需型になっている消費傾向に合わせて、「気温やライフスタイルを想定しながらリアルな提案を行っていく」。その中でカギとなるのが、シーズンを超えて着られるベーシック品の再構築だ。「これまでも色を変えながらリピートするような定番品はあったが、改めて今求められるベーシックが何かを考えた。単にシンプルなデザインではなく、『エストネーション』流のベーシックを追求した」という。
具体的には、シルク・ウールのハイゲージニットのカーディガンやプルオーバー、ノースリーブトップなど、「3シーズン着られる」ベーシック商品を、オリジナルレーベルで企画。カーディガンは胸元の開き具合や丈などにもこだわり、今季新たに作ったニットノースリーブは「大人の女性にとって、Tシャツ以外の夏のトップスとして着こなしに幅が出る」商品として期待する。ほかにも、ECを含めリピート購入につなげやすいボトムスで、家の中でも外でも着られるキレイ目なリラックスパンツなどをそろえた。
「とにかく在庫を残さない。『エストネーション』の客は(環境問題など)社会に対する意識の高い人も多い。(廃棄を減らすなどの)メッセージをあえて客に伝えることはしないが、欲しい時に欲しい商品があって、それが年間を通して着られる、しかもファッションとしてのワクワク感もある、ということは店として非常に重要」と強調する。
20年秋から、オリジナルレーベルで従来よりも上質な素材、仕立てを取り入れた高額ラインもスタートしている。21年春夏はメンズの縫製工場で仕立てたテーラードジャケットや、「カリアッジ」のカシミヤ糸を使ったアンサンブルニットなどを企画。セレクトショップという業態が始まって約30年が経ち、「セレクトショップのあり方や、セレクトショップのオリジナル商品といえばこういうもの、といった考えが固定化してきている部分もある」。そうしたムードを受けて、「改めて、今求められる価値ある商品は何か」を問い直す中で生まれたラインだという。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。