ファッション

佐藤繊維がレース企業の社員と技術を継承 下請けから顧客の最前線へ、新しいビジネスの在り方を探る

 山形県寒河江(さがえ)市を拠点にする紡績・ニットメーカーの佐藤繊維は、レースに特化した旧カツミ産業から全従業員と技術を継承し、新たにクマムレース(KUMAMU LACE)を設立、佐藤繊維グループ企業として運営すると発表した。

 佐藤繊維の佐藤正樹社長がクマムレースの代表取締役となり、檜尾典子旧カツミ社長は、社員として引き続きレース事業に携わる。旧カツミ産業は大阪府堺市で1977年に創業。ベーシックなニット糸とファンシーヤーンを組み合わせる独自のトーションレースを開発し成長した企業だ。同社が今春倒産したことで、これまで取り引きのあった佐藤繊維が、希少な技術を継承すべく事業を引き継ぐ決断をした。

 佐藤社長は「コロナ禍以前からモノ作りの環境が変化し、どちらかというと低コストでいかに原価を下げるかに傾倒し、新しいクリエイションが受け入れられなくなってきた。ブランドも守りに入り、リスクのあるものを作らない、そんな10年だった。それに伴い急速に廃業、倒産するメーカーも増えた。今春倒産した旧カツミ産業は、ラッセルレース、トーションレースに特化したメーカーで、極端に異なる色や素材を組み合わせて独自に編んだレースを作ることができる。人材、機械を含め、一度失ってしまうとその技術は二度と再現することはできない。ヨーロッパにもない技術であり、もっと広い視野、分野で見たときに売り方を変えれば可能性があるのではと思い、会社と設備、技術者を引き受けて再生に向けて準備を進めてきた」と話す。

 グループとしてのシナジー効果としては、海外での展示会出展の際に、佐藤繊維の糸と一緒にクマムレースを提案することで、提案の幅が広がるということだ。「ヨーロッパにはない世界観のレースを素材と一緒に提案することで、レースをきっかけに糸を買ってもらったり、その逆も在りうる。また、レースと糸を組み合わせた商品提案も可能だ」。

 加えて新しい試みとして、B to Bのみならず、一般に向けたB to Cのビジネスにも取り組む。渋谷にある佐藤繊維のショールームに来れば、一般の人でも1mからレースを購入することができるようにする(カスタム、オーダーは別)。「個人のデザイナーやアーティスト、舞台衣装の衣裳担当や人形作家などのクリエイターでも、個人の趣味でモノ作りをしている人でも購入しやすいように1m以上からは50cm単位で買えるようにする。現在約4000種類のストックがあり、廃盤となっている希少なレースも含まれる。在庫は大阪にあるので、翌日以降配送可能だ。デザイナーたちはこのような特殊なレースがあることを知らないのではないか。インテリアのファブリックでも需要があるかもしれない。誰でもネットでも購入できる環境を考えている。それによりモノ作りのハードルを下げることになればいいと思う」。

 旧カツミ産業はこれまで完全にB to Bのビジネスだった。「従来の下請けビジネスでは賃金が低く、後継者が減っていく。自分たちが前に出てきて直接顧客とビジネスをする時代だ。メーカーだからこそできる独自のビジネスを進めていくべきで、ビジネスの在り方が変わりつつある。すでにこれまで佐藤繊維で2社の紡績会社を引き受けているが、現場の職人は一度倒産を経験すると、どんな環境でも乗り越える強い意志を持っている。オーダーでオリジナルのレースを作ることも可能で、クリエイションの幅を広げることもできる。さまざまな分野の人たちに活用してほしいし、今後コラボレーションも積極的に取り組んでいきたい。今後、クマムレースの売り上げの3~5割がB to Cの売り上げになるように持っていきたい」と佐藤社長。

 佐藤繊維は、糸づくりの紡績、オリジナルブランドやOEM、ODMにおけるニットプロダクトの開発、寒河江市では、地元の食材メインとするレストランやセレクトショップ「ギア」の運営を行い、素材から小売りまで一気通貫でビジネスを行っている稀有な企業だ。オリジナルブランド「コーン(KONE)」では、中間業者を通さないことでコストを抑え、受注した分のみ生産し商品を直接消費者に届ける“Factory to Closet”によって、余剰在庫をつくらない売り方にもチャレンジしている。川上から川下まで、グローバルにビジネスを行っている同社だからこそ、一度失ったら取り戻せない日本の職人や技術、機械の重要性を訴える。それらを生かして新たなビジネスにチャレンジする同社の取り組みに注目したい。

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