2021-22年秋冬シーズンのロンドン・ファッション・ウイーク(LONDON FASHION WEEK 以下、LFW)が2月19〜23日に開催されました。ここでは19〜20日に発表された中から注目度が高いブランドを紹介。ロンドン・メンズ・コレクションを取材している大塚千践「WWDジャパン」デスクと「WWDジャパン」のSNSを運営する丸山瑠璃ソーシャル エディターが対談形式でお届けします。
東京6ブランドがロンドンコレに!
丸山:ロンドン・ファッション・ウイークはオンライン開催であることを活かして、より多くのブランドを短時間で見せる方針のよう。10〜15分間隔で発表やプログラムがあってなかなか忙しいですね(笑)。
大塚:本当に。全部見るのが大変なんだけど、変に空き時間があるよりはいいのかな。にしても多すぎるわ。
丸山:なので、ここでは中でも注目度が高いブランドをピックアップしていきたいと思います。まずは、「東京ファッションアワード 2020(TOKYO FASHION AWARD 2020)」のサポートで今回ロンドンコレに参加した6ブランド「フミエ タナカ(FUMIE TANAKA)」「イン(IHNN)」「ミーンズワイル(MEANSWHILE)」「リコール(RE:QUAL≡)」「シュープ(SHOOP)」「ユウキハシモト(YUKI HASHIMOTO)」からいきましょう。「イン」「ミーンズワイル」「リコール」はティーザー映像で、3月の東コレにも参加するのでそちらで本格的に披露するのかもしれません。「フミエ タナカ」は追って詳しいコレクション・リポートを公開予定ですが、21年春夏に続いて演出振付家のMIKIKOと協業した映像を公開しました。
大塚:ロンドンのファッション・ウイークって中国企業の支援が入っていて、中国ブランドもよく参加していたんだよね。今回から東コレの冠スポンサーである楽天も支援するから、東京ブランドが参加しているのはその関係?と思ったのだけど、楽天は否定しているみたい。いずれにせよ、東京とロンドンの今後の連携に期待したいな。
丸山:なるほど。私は東京ブランドの中では「シュープ」の映像が特に印象に残りました。ピンクに光る妖精に導かれてビルに入れば、そこはまるで宇宙船の中。マドリードに実在するホテル プエルタ アメリカ(Hotel Puerta America)で撮影したそうです。ザハ・ハディド(Zaha Hadid)、ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel)、ノーマン・フォスター(Norman Foster)ら著名建築家が手掛けた曲線が美しい空間もあってSF映画のような仕上がりになっていました。映像を手掛けたのはマドリードのクリエイティブスタジオ、バンディス(BANDIZ)。東京で発表していたのでその印象がなかったのですがデザイナー2人はマドリード拠点なんですね。ブランドの新しい側面が見えて興味深かったです。大塚さん、「ユウキハシモト」はいかがでしたか?
大塚:そうそう、「シュープ」は逆輸入型で珍しいブランドだよね。「ユウキハシモト」は秋冬の方が得意かな。コレクションは、ミッドセンチュリーのプロダクトや時代背景をヒントにしたクリエイションなのだとか。映像でも空っぽの部屋に家具を運んで、部屋が徐々に出来上がっていく様子が表現されていました。直線的にストンと縦に落ちるボクシーなコートやジャケットは建築を思わせるフォームで、色やパンツのシルエットで変化を加えて、モチーフでカルチャー感をプラスするという得意技を盛り込んだ感じ。ボタンの留める位置を微妙にズラして、空間をつくる微妙なバランスに挑んでます。前シーズンまではモチーフやディテールがややトゥーマッチかなと感じていたのだけど、今シーズンは大分そぎ落とされた分、服自体の強みが増した印象。ただ、ロンドンには似たようなアプローチのブランドが多いので、ブランドならではの武器を映像でもっとアピールしてもよかったかな。スタイリング次第で化けそうとも思った。
テキスタイルの知見の広さを見せつけた「エドワード クラッチリー」
丸山:「エドワード クラッチリー(EDWARD CRUTCHLEY)」は制作過程と完成した服の映像に乗せてデザイナーのクラッチリー自身が制作の裏側を語るムービーでした。レオパードのジャカードは「ジョンストンズ オブ エルガン(JOHNSTONS OF ELGIN)」が作ってくれたなど、生産者や生産地をこと細かに教えてくれて、「そんなことまで教えちゃって大丈夫?」と心配になるくらいトレーサビリティー(透明性)を主張していました。そしてどの人に何を作ってもらうかというアサインが的確だなと。トレーサビリティーを含む、上質な素材こそがラグジュアリーという価値を生むのだなと実感しました。クラッチリーはグラフィックとテキスタイルの面で長年キム・ジョーンズ(Kim Jones)を助けていますが、キムがチームに入れたがる理由が分かる映像です。
大塚:さすが、「ディオール(DIOR)」メンズのテキスタイルとグラフィック部門のディレクターを務めるだけあり、素材や服へのアプローチは完全にラグジュアリーだね。リアルのショーをやっていたころは、パーソナリティーの表現としてグロい系のアートや和装を取り入れた奇抜なスタイルだったのだけど、発表がデジタルになったことでかなりベーシックに寄せてきたなと。カシミア100%のコートやリサイクルポリエステル、主張の強いマーブルやレオパード柄、エレガントなモアレなど、クラシックな服に徹することで素材の表情を引き立たせていた。ただ価格帯も絶対に高いので、このブランドで買う意味を消費者にアピールするにはちょっと弱いのかな。アイコンをモチーフにしたジュエリーはきれいでした。
メッセージの表現力がピカイチの「サウル ナッシュ」
丸山:「サウル ナッシュ(SAUL NASH)」は若手支援の合同ショー「ファッションイースト(FASHION EAST)」から独立して発表。デザイナーのナッシュはプロの振付師で、ストリングスやファスナーでねじりを生んだスポーツ&ストリートウエアが特徴。今回の“ツイスト(TWIST)”と題したムービーを手掛けたのは、パートナーのFX コーディ(FX Cody)。映像ではメンズモデル2人が口論をし始め、周りで見ていた人たちもその口論に加わります。危うく殴り合いでも始まるんじゃないかというところで、中央の2人がキスするという“ツイスト(予想外の展開)”が入ります。周りの人たちは最初は驚くのですが、最終的には2人を支えるように取り囲み、受け入れます。ロンドン北東部で育ったナッシュは、「2人の男性がキスすることは、自分が生まれ育ったところではタブーだった」「『見た目で物事を判断してはいけない』ことを伝えたかった」と語ります。2分程度の動画でそのメッセージを明確に伝える表現力が素晴らしいと思いました。デザイナーが振付師だと、映像での表現の幅が広がりますね。
大塚:なるほど!そんなストーリーだったとは。僕はごめん、ダチョウ倶楽部の竜ちゃんのギャグを思い出しちゃった。「何だよお前」とか言い争いながら接近してチュッてやつ。平和で好きなんです。背景を聞くと素敵だけど、映像にストーリー性がありすぎて服が全く分かんなかった。ルックを見たら一見よくあるスポーティーなストリートウエアなのだけど、鮮やかな色使いや“ツイスト”したファスナーを開閉すると変化するシルエットとかディテールに細かいアレンジを効かせているね。ロンドン発のストリートウエアは最近やや元気がないから、頑張ってほしい。
シスターフッドを表現した「ユハン ワン」
丸山:2020年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE以下、LVMHプライズ)」のセミファイナリストにもなった「ユハン ワン(YUHAN WANG)」は、出身地である中国のエッセンスを残しつつイギリスの摂政時代のようなシルエットを現代風にアップデート。ワンは母親になるという経験を通して、「自身も生命の循環の大切な一部であると思った」そうで、女性の内に宿るマザーフッドやシスターフッドの美しさを表現したそうです。キャスティングにも多様さが表れていましたね。ロンドンのガーリー枠ですが、レースにドレープを加えたドレスよりも花柄ジャケットとスカートのバリエーションが増えて知的になった気がします。
大塚:穏やかなデザイナーの心情とリンクするように、全編を通して優しい映像と服だったね。いかにもガーリーなフワフワもあれば結構ピタピタの服も登場するのだけど、装うことの心地よさが伝わってくるムードでした。ルックでは柄物同士を合わせているから派手だけど、手持ちのベーシックなアイテムと合わせると単品の魅力がより引き立ちそう。同柄で合わせたソックスとパンプスがかわいかった。
ルーツに立ち返る「カシミ」
大塚:「カシミ(QASIMI)」は、クリエイティブ・ディレクターのフール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)がルーツを大事にしているのだなという気持ちが伝わった。一昨年に亡くなった創業デザイナーはパリコレを意識した王道のテーラリング&スポーティーに寄せ始めていたのだけど、今回は生まれ故郷のアラブ首長国連邦(UAE)を思わせる日に焼けたような暖色カラーや独特なモチーフがいつもより色濃くて、中東のビジネスが順調なのかなと思ったよ。あとはウィメンズの型数を増やして本格的に打ち出してきたね。地域によって好みが分かれるテイストだからこの路線で日本でも成功するかは未知数だけど、素材や技術のクオリティーは高いので、今後の動向にも注目だね。
丸山:夕焼けのような深いオレンジの光が挿す空間とそれを反映したようなカラーパレットの服が印象的でしたね。素材の良さとテーラードだけでなく、動画のタイトルにもなっていた「WE ALL LIVE UNDER THE SKY」とプリントされたグラフィックもあれば、アラビア建築に用いられるマシュラビヤ(mashrabiya)という木格子の柄に着想を得たセットアップもあり、より顧客層を広げようと意識しているのかなと思いました。ところで「イン」のティーザーでも夕焼けに由来するオレンジ色の服が登場していましたが、今季オレンジはキーカラーになるかもしれないですね。
大塚:トーンはいろいろだけど、オレンジ多いかも。みんな温かい気持ちになりたいのかな。
リアルにグッと近づいた「モリー ゴダード」
丸山:ボリュームたっぷりなチュールドレスが代名詞の「モリー ゴダード(MOLLY GODDARD)」ですが、今季はバリエーション少なめでした。代わりにメンズも含め、リアルクローズが増えましたね。ボリュームが抑えめになったチュールアイテムに合わせるのはVネックニットやカラフルなベスト。タータンチェックのコートに合わせるのはブライトカラーのストライプマフラー。既存顧客はどう反応をしたのかなと公式インスタグラムとユーチューブのコメント欄をチェックしましたが、歓迎ムードでした。ゴダードは米「WWD」とのZoomインタビューで「顧客を直接知る機会が増えた」と語っていましたが、パンデミックで外に出られない状況の中で顧客との繋がりをオンライン上で深めたのでしょう。
大塚:メンズいい感じだった!まだまだウィメンズの延長線上という感じはするけれど、リアルクローズにほどよくエッセンスが注入されていた。例えばジョッパーズのファスナー部分がフリルで縁取られてたり、ジーンズの折り返した裾がフリルになっていたり、芸が細かいから嫌味がなくて好感でした。ウィメンズもチュールアイテムとリアルクローズをミックスすることでより親近感が湧いたし、いい意味で脱力していて好きでした。
ファッションでもバズってほしい「アート スクール」
大塚:僕、「アート スクール(ART SCHOOL)」は初期からリアルでのショーを見てきたので厳しく見てしまうんだけど、今シーズンもやっぱり飛躍しなかったな。モノトーンのフォーマルで一瞬「お!ちゃんとした服くる?」って期待したんだけど、やっぱりクオリティーの荒さが映像を通しても伝わってきた。今どき、ズタズタに引き裂かれたドレスやジャケットなんて誰が着たいの?と思っちゃって。あと個性的なキャスティングも、初期は多様性を祝福するムードでハッピーだったのが、何だかそれをやり続けることに引っ張られすぎて損している感じがする。「アート スクール」が伸び悩んでいるうちにダイバーシティーやインクルージョン、サステナビリティを自然体で表現する若手がどんどん出てきているから、もはや飛び道具枠として定着してしまっているのが本当にもったいない。服をちゃんと作れないなら正統派のショー映像を13分間も見せるのではなく、もっとアイデアをもって立体的に表現しないと飽きられちゃうよ。来シーズンは頑張れ!
丸山:「アート スクール」はSNSでバズを生むのは上手なんですけどね。これまでもデザイナーが怖い歩き方で登場したり、胸毛でメッセージを書いたりといったパフォーマンスが話題になりました。今回はテレビ番組「ル・ポールのドラァグ・レース: UK (RuPaul's Drag Race UK)」にも出演したドラァグ・クイーンのホーラ(A'Whora)と、ビミーニ・ボン・ブーラッシュ(Bimini Bon Boulash)が登場。さらにトランスジェンダーモデルのフィン・ブキャナン(Finn Buchanan)が性別適合手術後初めて、そして手術跡を堂々と見せてランウエイに登場したのもニュースでした。ですがやっぱりファッションでバズってほしい!その日を首を長くして待ってます。