REPORT
デザイナーのいる意味を示し、クリエイションとコマーシャルの両輪で前進
「N. ハリウッド」の2016年春夏コレクションは、1960年代以降に活躍したタイポグラファーのハーブ・ルバリーンと、現代の日本人カリグラファー(手紙の宛名などを書く書家)ミキタイプという、2人のアーティストにインスピレーションを得た。
ネオプレンなど、着心地のよい素材にのせられたのは、ルバリーンを思わせるハッキリしたブロック体のタイポグラフィーと、ミキタイプによる流線型のカリグラフィー。両者は別々に用いられるのではなく渾然一体となって、シンプルな洋服を少しずつ彩っていく。序盤は、2人のタイポグラフィがないシンプルなミニマルスタイル。中盤、2人の作品はTシャツなどに静かに描かれ始めると、以降モチーフは荒々しく、洋服の上にのる分量も一気に増加。その過程は、2人のアーティストが白紙を目の前に慎重に一文字目を書き始め、エンジンがかかると次第に大胆な筆使いを見せる創作活動を彷彿とさせた。
初開催のニューヨークメンズで半歩先を歩んでいると思わせたのは、コマーシャルとクリエイションのバランスだ。今のところ、ニューヨークメンズのクリエイションは、コマーシャルに寄りすぎている印象が強く、気の利いたベーシックアイテムをスタイリングで小洒落て見せるブランドが相次いでいる。しかし、この手法は、日本のメンズセレクトの得意技。ニューヨークメンズ前半のブランドは、「今すぐ着たい」と思わせるスタイルを提案したが、だからと言って「このブランドでなければダメ」な単品の提案力は弱く、クリエイションのパワーに欠けている。
しかし、そんなセレクト激戦の国、日本で育った「N. ハリ」は、ミニマルな無地の単品から、大胆なグラフィティのアイテムまで、提案する洋服が幅広い。しかも、ミニマルなアイテムは、フーデッドプルオーバーにリップストップナイロンを使ったり、ステンカラーコートにネオプレンを使ったり。後者はAラインのプルオーバータイプにアレンジすることで、モチーフ以外の面で洋服をブラッシュアップ。あるアイテムは素材で、別のアイテムはシルエットで、このアイテムはモチーフで、さまざまな一面に思いを馳せながら、一点一点を丁寧に作り、コレクションを組み立てている。
スタイリングだけじゃない、単品力の高いアイテムでも勝負するコレクション。これが、ニューヨークメンズのベースとして定着すればと思う。