H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ以下、H&M)は3月31日、「中国は非常に重要な市場であり、その顧客や取引先からの信頼回復に尽力する」との声明を発表した。
同社は中国による少数民族ウイグル人への強制労働問題などが報じられたことから、新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引停止や、同自治区で生産された綿花の調達の中止を2020年9月に発表している。しかし3月24日に、中国共産党の青年組織である中国共産主義青年団が、中国版ツイッターのウェイボー(Weibo)に「新疆綿について虚偽のうわさを流してボイコットしておきながら、中国で儲けようだって?それは甘い考えだ」とH&Mの声明とともに投稿したことがきっかけとなり、中国側からの批判が激化。中国の大手ECサイトなどから「H&M」の商品が消え、モバイルアプリも中国の大手アプリストアから削除されている。H&Mは中国でおよそ500の店舗を運営しているが、3月31日の時点で20店ほどが休業しているという。
こうした動きを受けて同社は、「中国は非常に重要な市場であり、当社の中国に対する長期的なコミットメントは強固なままである。当社は中国および世界のどの国においても責任あるバイヤーでありたいと考えており、原料の調達について将来を見据えた戦略を策定中だ。関係する全てのステークホルダーと協力しあい、よりサステナブルなファッション業界を実現するためのソリューションを開発していきたい。当社はグローバルな企業として各市場の法律や規制に準拠しており、信頼、尊重、誠実さ、そして対話を大切にしている。中国の顧客、同僚、取引先の信頼回復に尽力する」と表明した。
新疆綿の使用中止を発表しているほかのブランドとしては、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」「ユニクロ(UNIQLO)」「バーバリー(BURBERRY)」などが挙げられる。中国ではこれらのブランドに対しても批判が高まっているものの、「H&M」ほどの猛反発は受けていない。
観測筋によれば、その理由の一つとして、H&Mがスウェーデンという中国にとって政治的な脅威が比較的低い国の企業だということがある。ナイキは米国、アディダスはドイツ、バーバリーは英国、「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは日本の企業であり、中国としてもこれらの国と外交問題になるのは避けたい思惑があると見られている。
また中国の消費者からすると、「H&M」はいわば“替えのきく”存在であることも大きいようだ。専門家らによれば、「H&M」と似たような商品を同じ価格帯もしくはより安く提供する中国産ファストファッションはいくつもあるが、ブランド力の高い「ナイキ」や「アディダス」、そして世界的なラグジュアリーブランドである「バーバリー」は代替できないため、不買運動に発展しにくいという。
外国企業の中国進出を支援するマーケティング会社、チャイナスキニー(CHINA SKINNY)のマーク・タンナー(Mark Tanner)=マネジング・ディレクターは、「中国での重要な販売チャネルであるECを元に戻すには、繊細な舵取りが求められる。中国当局の意向に沿った対応をしない限り、かなりの時間がかかるだろう」とコメントした。
カナダロイヤル銀行(ROYAL BANK OF CANADA)は顧客向けのリポートで、「中国では過去にも『H&M』や『ナイキ』のようなブランドが同様の問題に巻き込まれているが、その後は業績が回復しているので、今回の件も慎重ながら楽観視している。しかし中国市場はH&Mの売り上げ全体の6%程度を占めているため、短期的にはマイナスの影響があるだろう」と分析している。
H&Mは3月31日に20年12月~21年2月期(第1四半期)決算を発表しているが、売上高は前年同期比27.0%減の400億6000万スウェーデンクローナ(約4807億円)、純利益は前年同期の19億2800万スウェーデンクローナ(約231億円)の黒字から10億7000万スウェーデンクローナ(約128億円)の赤字となった。