新型コロナウイルスの感染拡大は、従来の商品やサービスの在り方に変化をもたらしている。対面のフィッティング接客や機能ありきの商品を重視してきた下着業界にも影響を及ぼしているのは言うまでもない。ライフスタイルが大きく変わり、既成概念に縛られない新たな価値観が下着にも求められる。この連載では、コロナ禍に先んじて新領域の商品やサービスを生み出してきた下着業界の開拓者を紹介する。
第5回に登場するのは、「シュット!インティメイツ(CHUT!INTIMATES)」を展開するインティメイツ社の斎藤ゆかりマーケティング部商品開発課ヘッドデザイナーだ。インティメイツはオンワード傘下のチャコットが100%出資している。2014年にルミネ新宿店に出店した同ブランドは、ファッショントレンドを反映したデザインと機能性を兼ね備えた下着として独自のポジションを築いてきた。デビュー時から貫いているデザインや売り方の“軽やかさ”は消費者が今求める価値観とマッチし、共感を呼んでいる。
――数ある下着ブランドにおける「シュット!インティメイツ」らしさとは?
斎藤ゆかりインティメイツ マーケティング部 商品開発課 ヘッドデザイナー(以下、斎藤):その時代の気分を気取らずに楽しめるファッションとしてのランジェリー。ファッションのトレンドを反映すると同時に必要なボディーメイク機能を備えていて。デザイン、着け心地、価格全てが“いい感じ”というのが「シュット!インティメイツ」らしさだと思っている。ブランド設立時から、下着に対する既成概念を破ること、そして下着における新しい価値観の創造にチャレンジしてきた。良い下着=豪華で高額という方程式にずっと疑問をもっていたので、下着の価値観はそれだけでないことを伝えたい。
――具体的なもの作りにどのように反映されている?
斎藤:カップサイズやアンダーサイズが大きくなっても、C70サイズのブラジャーの雰囲気をキープしたい。サイズが大きくなると、素材や仕様が変わって、がっしりとした見た目になる場合が多いが、そのようなデザインにしないと決めている。その代わり、設計やパターンを精査して機能を加えている。そもそもブラジャーは、しっかりした素材で安定させてバストの形を作るのではなく、軽く薄い素材で見た目のデザイン性やファッション性を大事にしながら、パターンやフィッティングのバランスで安定性を出すべきという考え方で作っている。「大きいサイズのブラジャーはこうあるべきだ」という既成概念は壊したいし、デザイン、フィッティング、下着に対する考え方、全てにおいて軽やかでありたいと思っている。
ブランドを象徴するブラジャーは特許を取得
――その軽やかさを実現させる「シュット!インティメイツ」のブラジャーとは?
斎藤:ブランドを象徴するブラジャーは3タイプ。1つ目が“ドレスイージーブラ”。ブランド独自のサイズ展開で、1サイズで最大4つのサイズを網羅できる。ノンワイヤーのサイズ許容が広いブラは過去にもあったが、それをワイヤー入りブラで実現した。2つ目が“シアーライトブラ”。C70であれば卵1個分(約30g)という、驚異的な軽さを誇るワイヤー入りブラで、カップ脇からストラップにかけてチュールをあしらったサイドリフト構造でバストメイクできるようになっている。3つ目がノンワイヤーの“クロスフィットブラ”。土台がたすき掛けのようになっていて、どんなに動いてもズレない圧倒的なフィット感がポイントだ。この“クロスフィットブラ”と“シアーライトブラ”は特許を取得している。それ以外に、プッシュアップ、ボリュームアップ、サイドシェイプにそれぞれフォーカスしたポイントメイクシリーズがある。
――従来のサイズ展開を覆す“ドレスイージーブラ”を作った意図は?
斎藤:“ランジェリーもファッション”と謳う以上、サイズも洋服と同じように選べるべきという発想から生まれた。「ブラジャーを購入する際の一番のハードルは試着」という声が多く、「試着をしなくてもいい、それていてバストメイク機能を備えたワイヤー入りブラを作ろう」という発想が起点だ。1サイズで許容する複数のサイズの人全てが快適だと感じられる着地点を見つけ出すのは非常に難しく、パタンナーと二人三脚で試作とフィッティングを何十回も重ねながら答えを導いていった。
――特許取得した“シアーライトブラ”の開発意図は?
斎藤:私が好きなヨーロピアンランジェリーのような、ノンパテッドの軽くてセクシーなブラジャーを作りたかった。胴が丸いの欧米人向けに作られた下着は日本人が着けると、合わず期待はずれになることも多い。そこが同じインポートでもバッグや靴、洋服とは違うところだ。正面から見ても背後から見ても美しく、着けたときに気持ちいい、機能性と美しさの両立に挑戦したのが“シアーライトブラ”だ。
下着に対する価値観の多様化
――素材の軽さや薄さと、日本の厳しい品質基準の両立は難しいのでは?
斎藤:繊細さと日本人が納得できる品質基準の両立は、せめぎ合いだ。その解決策としていくつかの副資材はオリジナルで開発している。レースの繊細さを生かしつつ耐久性を持たせるために使用する薄手のパワーネットや細くて華奢だけれど引き上げる力を備えたストラップ、柔らかく伸縮性に優れているゴムなど。これらの副資材はブランド設立時からずっと使い続けている。パターンや副資材は、人に例えるなら素肌の美しさや髪の艶で、レースはメイク。ベースがきれいだったら、その先の可能性はいくらでも広がる。そのベースの部分に最初からこだわっていたから、ブランドのコンセプトがブレることなくリピーターがついてきたのだと思う。
――ブランド誕生から7年で、消費者の意識は変わったと思うか?
斎藤:価値観の多様性が進んだと思う。デビュー時はわれわれが提案する価値観がなかなか浸透しなかった。それまでの日本ブランドの下着に比べると、軽くて華奢なので品質に不安を持たれることもあった。「下着は分厚くしっかりしたものが高級」という価値観を持つ日本人が多いので、正直、戸惑うこともあった。ただ、4年目にそれを目指して失敗したので吹っ切れた。ブランドの“らしさ”を大切に、ブランドのファンに寄り添うことを第一に考え、リアルだけでなくデジタルでのコミュニケーションも重視するようにした。その後は順調に売り上げが伸びて、生産枚数が増えたことにより、新素材を開発できるようになり、ブランドのコンセプトが、より明確に表現できるようになったと思う。
――コロナ禍にも関わらず2020年度の売上高は初年度の約4倍と伸長した要因は?
斎藤:売り上げの3分の2をECが占めていることが大きい。デビュー時は駅ビルへの多店舗出店を念頭にしており、通勤や乗り換えの途中など短い時間で試着せずにブラジャーを変えるようにと“ドレスイージーブラ”を開発した。それが今は、ECでの買い物にマッチして売り上げアップに貢献している。サイト自体や商品構成、ビジュアル表現も、分かりやすさを重視し、20年にはオンラインで接客するシステムも構築してECでの買い物がしやすい環境を整えた。
――今後の目標は?
斎藤:ランジェリーが好きな人を増やしたいというのが、私がランジェリーデザイナーを志したときからの目標で、ずっと変わらない。ランジェリーの楽しさや新しい価値観を、「シュット!インティメイツ」を通して伝えていきたいし、それが伝わる商品を多く手掛けていきたい。