「カルティエ(CARTIER)」は、デジタル開催された世界最大の時計見本市「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ(WATCHES & WONDERS GENEVA)」(旧「S.I.H.H.」)で新作ウオッチを発表した。中でも目を引いたのは、オリジナルの光発電システム“ソーラービート”を搭載した“タンク マスト”だ。従来のモデルから見た目をまったく変えずに、新たなイノベーションを付与し、一方で価格は据え置いた。ストラップには廃棄リンゴ由来のノンレザーを使い、サステナビリティも意識した。シリル・ヴィニュロン(Cyrille Vigneron)=カルティエ インターナショナルプレジデント兼最高経営責任者に、新作に込めた思いについて聞いた。
WWD:“ソーラービート”搭載の“タンク マスト”によって「カルティエ」が表現・発信したいこととは?
シリル・ヴィニュロン=カルティエ インターナショナルプレジデント兼最高経営責任者(以下、ヴィニュロン):5年前、「『カルティエ』はスマートウオッチを発表するのか?」と聞かれたとき、私は「スマートウオッチはサイクルが早く、たびたび買い替えなくてはならない。つまりNOだ」と答えた。重要なのは、伝統あるメゾンが時間とどう向き合うか。その点、“ソーラービート”の寿命は16年。これが、われわれが出した答えだ。時計の動力とも向き合った。時計は、美的な妥協を一切せず、機構においてもいっそう長く愛されるべきと考える。
WWD:同じく新作で、ダイヤルとベルトを同色としたレッド、ブルー、グリーンの“タンク マスト”には、時計へのファッション的アプローチを感じた。
ヴィニュロン:ありがたい評価だが、これらはファッション的アプローチではなく、1970年代に「カルティエ」が発表した“マスト ドゥ カルティエ”へのオマージュとして誕生した。「カルティエ」は自身のレガシーも大切にする。
WWD:“サントス ドゥ カルティエ”“パシャ ドゥ カルティエ”に続き、今年は“タンク”も見直し、現代的に蘇らせた。近年の、代表的名作をモダナイズする動きは「カルティエ」が歩むべき道であり、結果も伴っている?
ヴィニュロン:メゾンは独自性を示さなくてはならない。独自性、そして美は、製品そのものよりも大事な要素と言える。自分たちがどんなメゾンであるかを大切にし、その姿勢を貫くことで「カルティエ」は顧客や時計愛好家から評価を得ている。われわれの方向性は正しかったと確信しており、継続していく。
WWD:「カルティエ」も参加した、「ウオッチ&ワンダー ジュネーブ」が2度目のデジタル開催を終えた。昨夏にはEC機能も付与され、デジタルにできることはもうこれ以上ないのでは?とも考える。同時に、1日も早くコロナが収束してフィジカルにイベントが開催されればと願う。デジタルの未来について「カルティエ」が考えることとは?
ヴィニュロン:今日では、全ての場面にデジタルが存在する。そして、デジタルは驚くべき早さで進化している。われわれはデジタルの現状を理解し、直近2、3年の動きを予測するが、詰まるところ未来のことは誰にも分からない。その点において、デジタルとは永遠に未完成なものなのだと思う。
WWD:「カルティエ」は時計における2021年について“メンズ強化の1年”と述べた。キング・オブ・ラグジュアリーである「カルティエ」の言葉に驚いたが、その真意とは?
ヴィニュロン:「カルティエ」のクリエーションは、自身の個性を外的に表現する欲求を持つ方に向けている。これはメゾン創設当時から続くもので、男性も魅了している。そして、この姿勢は今後も変わらない。