ファッションという「今」にのみフォーカスする産業を歴史の文脈で捉え直す新連載。今回目はファッションテックの可能性を考慮する。編集協力:MATHEUS KATAYAMA (W)(この記事はWWDジャパン2021年6月7日号&6月14日号からの抜粋です)
「ファッションテック」という耳慣れない言葉を初めて耳にしたのはいつだか覚えていないが、こういう人がファッションテックをやっているんだと理解したのは、Synflux/シンフラックスの川崎和也と出会ってからだ。実は彼の事務所は僕の事務所と同じビルの同じフロアにあるので以前から顔を合わせていて、「川崎さんは一体何やっているの?」というご近所さん的な会話から交流が始まった。そして先日ゆっくりとランチを取りながら話を伺った、「ファッションテックとは一体何?」と。
川崎は自分の肩書きを「スペキュラティブ・ファッションデザイナー」と呼んでいる。「スペキュラティブ」とは思索的という意味だが、彼によると、思索的なファッションデザインであり、ファッションに対して提案するデザインであるという。そう言われても多くの人は煙に巻かれるだろう。
川崎が代表を務めるシンフラックスは、プロダクトとしての衣服からデザインプロセス、サービス、システムまでをAIやバイオテクノロジーの応用を前提として研究開発している。彼の活動の捉えどころのなさに関して彼の大学の先生である水野大二郎(京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab特任教授)は、「WWDジャパン」の「モードって何?」2019年9月16日号の記事で、「川崎和也はなんと言ったらいい人なんですか――という感じです」と語っている。ランチの際に川崎は「『何やっているのか、よくわからない』と言われますよ(笑)。でも川久保玲さんが『ビジネスもデザインだ』と言っているので、『技術開発もデザインだ』という考えがファッションでも当たり前になるのもアリだと思います」。
ファッションにおけるSDGs問題をテクノロジーで解決できるか?これが川崎のミッションだ。ファッション産業は生産工程においても大量生産・大量消費の象徴的な産業でもあるので、多大な環境負荷を与えている。ウェブメディア「EMIRA」19年10月29日付の記事「AIデザイン×バクテリア生地が衣服の概念を変える:川崎和也が描くファッションの未来」で彼は、「コットンやウールのような天然繊維より、ポリエステルやアクリルといった化学合成繊維製の衣服の方が多く製造されています。私たちはそのような服を日々着ては洗濯しますよね。環境汚染に加担してしまっている可能性が高いんです」と、ファッションと環境問題が密接に関わることを指摘する。
シンフラックスは、バクテリアを培養して作った生地で服を作る「バイオロジカル・テーラーメイド」で、第22回文化庁メディア芸術祭でアート部門審査委員会推薦作品(19年)に選ばれる。またAIによるデザインで布地の廃棄部分をなくす「アルゴリズミック・クチュール」という技術で、非営利財団H&Mファウンデーションが主催するコンペ「第4回 Global Change Award」で特別賞を受賞。彼はファッションテックという未知なる領域の可能性を内外に提示し続けている。
「ファッションブランドの組織のあり方も新しくしたいんです。よくブランドを『メゾン』とか『ハウス』と呼びますが、それは『家』のメタファーですよね?そこではデザイナーが親の役割で、パタンナーなどは子どもという上下関係のヒエラルキーがあるわけです。でも僕はもう『ハウス』は違うのではと思っていて、さまざまなエンジニアやデザイナーがフラットに存在する『ラボ』的な構造をファッションに作れないかと思っているんですよ」。
川崎和也が考える「技術開発のラボ」としてのブランドは、今までのファッションブランドのように、それ自体で服のレーベルとなるのだろうか?川崎いわく「プラットフォームとしてのレーベルを持ちたい。テックだけを示しても人々は何ができるかわからないと思うから、新しい服のプロトタイプを発表しながら、技術の使い方も含めて展開したいんです」。
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