ビューティ

17年目はルーツである養蜂園のミツバチを発信 「ハッチ」水谷仁美CEOインタビュー

 「世界中の女性に笑顔を」をフィロソフィーに、2004年に立ち上げたビューティブランド「ハッチ(HACCI)」のルーツは、今から100年以上前、大正元年(1912年)に三重・松阪で創業した水谷養蜂園にある。伝統の技法を守り、高品質で安全な国産純粋ハチミツを 提供し続けている養蜂園だからこそ熟知している、ハチミツの良さをもっと世の中に伝えたいという思いから誕生した。「ハッチ」創業者で HACCIʼs JAPANの水谷仁美最高経営責任者(CEO)はハチミツを食品だけでなく、ラグジュアリーかつ遊び心のある化粧品やサプリメントに落とし込み、着実にファンを獲得。右肩上がりの成長を続けていたが、コロナ禍で初めて立ち止まり、改めてブランドの方向性を模索したという。コロナ禍の状況、そして17年目を迎える「ハッチ」の目指す道について水谷CEOに取材した。

WWDJAPAN(以下、WWD):コロナ禍での「ハッチ」の商況は?

水谷仁美HACCIʼs JAPAN CEO(以下、水谷):「ハッチ」は日本で12店舗、国内空港免税5店舗および香港の免税店と店舗数を絞って展開しているが、緊急事態宣言により百貨店がクローズして大打撃を受けた。インバウンド比率もコロナ前はアジアをメインに半分近く、それがゼロになった。苦しい状況ではあったが、コロナ禍で世の中の健康意識が高まったこと、さらにテレビなどで「ハチミツは菌に強く、免疫力を高める栄養素が多く含まれている」とクローズアップされることが増え、その影響で食品としてのハチミツに注目が集まり、売り上げは前年を上回っている月もある。特に殺菌力の強いマヌカハニーは、ほかのハチミツに比べて高価なこともあり普段は年配のお客さまが多かったが、コロナ禍で若年層の購入も増加。コロナ前はコスメの売り上げが圧倒的に多かったが、コスメやサプリメントにハチミツをプラスするなど新しい買い方も生まれ、今は食品の売り上げが高い店舗も多い。祖父の代から「不景気な時ほどハチミツは売れる」といわれていたが、どうしてなのかいつも疑問だった。不安な状況ほど自然のもの、殺菌力や免疫力を必然的に求め、それがハチミツだったということを今すごく実感している。昨年12月に発売した除菌ができるハンドジェルクリーム“ハンドチャーム”も1年分の在庫が1.5カ月で完売するほど人気だった(現在は再入荷)。

WWD:コロナ禍では結婚式の延期やキャンセルも多かったが、ブライダル事業も好調だそう。

水谷:もともと、「ハッチ」=ブライダルという定番があり、特別な1日を最高な状態で迎えるため、花嫁に向けたビューティドリンク“ハニーコラーゲン”が人気だった。コロナで披露宴などはできないが前撮りはするという花嫁も多く、撮影のためにドリンクを飲む人は引き続き多かった。また、親族だけの挙式を行ったり、結婚祝いのお返しにハチミツのセットを贈ったりするというパターンも。コロナ禍ではVR婚、オンライン婚などさまざまなブライダルシーンができたが、私たちは“ギフト婚”と名付け、対面は無理でもお世話になった人たちにギフトを贈ることで結婚の報告をするという提案を行った。昨年12月にはギフトパッケージサービス「ハッチ フォー ブライダル(HACCI for Bridal)」をローンチ。“ハニーコラーゲン”をはじめ、人気のハチミツ3種の桐箱入りセット、ミニギフトとしてぴったりな“はちみつ洗顔石けん”“はちみつキャンディ”など、ブランドの人気製品から用途に応じてギフトを選んでくださったお客さまに、お渡し人数分のブランドオリジナルのメッセージカードや、大切な日を一番美しく魅せるためのプレ花嫁ケアとして人気のアイテムを特別ギフトとしてプレゼントしており好評だ。

WWD:ECの売り上げは?

水谷:これまで、対面で肌に触れて販売することを徹底していたのでECは遅れていた。しかしSNSでのPRなどが奏功し、今は全体の売り上げの20%を占めているほどECは好調だ。「ハッチ」は、ただモノを売るだけでなく、心地よさや視覚からも幸せ、夢を売りたいと考えている。そのためSNSも使い方などを説明するのではなく、消費者の生活が幸せになるような見せ方を心がけている。また、店舗で購入したときの高揚感をECで買ったときも感じられるように、お客さまに届ける製品には店頭と同様、もしくはそれ以上にデザイン加工やペーパーの色、香りにこだわり、届いた瞬間から店舗を想起させるように工夫している。些細なことではあるが、「ECで購入して、こんなにわくわくして嬉しいのは初めて」という声も多く、私たちのこだわりがちゃんとお客さまに伝わっているのはうれしい。今後もECに投資を集中し、オンライン接客など店舗でできる体験をデジタル上でもかなうようにシステム構築を進めている。

WWD:コロナは水谷CEOにどのような影響を与えたか?

水谷:ありがたいことに、ブランドデビューからずっと売り上げは良く、日々の数字を追うことに忙しかった。「ハッチ」が好きすぎて育てていくことに夢中になっていたと同時に、コロナ前の約2年間は漠然と物足りない気持ちも感じはじめていた。コロナ禍で初めて立ち止まってブランドを振り返ることができ、社員と会社の課題ややるべきことを考え、やっと自分が本当にやりたかったことが見えた。それは、原点であるミツバチをきちんと伝えていくこと。「ハッチ」には養蜂園があることを消費者はほとんど知らない。世の中にハチミツコスメはあふれているにもかかわらず、養蜂園を持っているコスメメーカーはほとんどなく、ミツバチについてきちんと伝えることをしていない。これまでブランドのテーマは「世界中の女性を幸せにする」ことだったが、これからはミツバチを原点とし、「みつばちと一緒に、世界中で笑顔を咲かせたい」というブランドミッションで発信していく。今秋には水谷養蜂園のルーツでもある伊勢神宮に隣接する地で、花をたくさん植えた“ミツバチの楽園”を作り、最終的にはそこで採取したハチミツを製品にも生かす予定。また、店舗デザインはこれまで宝石箱をイメージしていたが、森田恭通インテリアデザイナーにお願いしてミツバチを全面に押し出したデザインに刷新する。まずは食品を扱う店舗からリニューアルし、コスメの店舗、複合店舗の順に新デザインを来年春に向けて順次導入する。

WWD:大阪のWホテルには初のスパメニューも登場した。

水谷:ホテルのスパメニューはずっとやりたいと思っていた。Wホテルは内装も素晴らしく、その世界観も魅力的だったが、担当者の熱心さが決め手だった。一緒にメニューを考え、この先も共にやっていこうという意思が感じられ、ここでなら「ハッチ」をお嫁に出してもいいなと思えた。ただハチミツでエステを施術するだけでなく、ハニーエステの新しい広がりが感じられるメニューとなっている。Wホテルではブライダルサロンでの取り組みのほか、ご希望のお客さまには客室のアメニティも「ハッチ」を提供している。アメニティは、Wホテルを利用する大人を意識して洗練された特別パッケージにした。

WWD:17年目も新生「ハッチ」として攻めの姿勢を続けていく。

水谷:この16年はすごい勢いで進んできた。会社としてはぜい沢な話だが、「ハッチ」の生みの親としては数字じゃない、「ハッチ」というものの中身の成長、その本質をずっと探していたんだと思う。そしてそれは、すごく身近にあったミツバチだった。この1年は経営として大変な状況ではあったが、社員と顔を合わせて方向性を一つにまとめられたのは、次のステップとして最高のスタートが切れた。17年目はブランドがさらに新しく強くなる。お客さまに新生「ハッチ」を早く届けたくて待ち遠しい気分だ。

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