4月に就任した三越伊勢丹ホールディングスの細谷敏幸社長は、百貨店のビジネスモデルを「マスから個へ」変えると宣言する。その大きな柱が外商改革だ。外商セールスだけでなく、商品の専門家であるバイヤーが連携して顧客満足を高める体制に改める。多くのVIP顧客から信頼を集める外商部の嶋崎信也マネージャーと、時計担当の松村佳美バイヤーを交えて、LTV(ライフ・タイム・バリュー、顧客生涯価値)を高めるための取り組みを語り合った。(この記事はWWDジャパン2021年7月19日号からの抜粋に加筆しています)
WWD:社長就任以来、外商セールスとバイヤーの連携を繰り返し訴えてきた。
細谷敏幸社長(以下、細谷):中長期計画の重点戦略として「高感度上質戦略」「顧客とのつながり戦略」「グループ連邦戦略」の3つを打ち出した。その全てに関連するのが上位のお客さまの暮らしに広く深く入り込むことだ。
岩田屋三越の社長時代(21年3月まで)、外商セールスを1.5倍の約150人に増員し、デジタル上でバイヤーと情報共有する仕組みを作った。外商セールスは「どんなお客さまが、どんな商品を欲しているのか」を書き込む。すると各部門のバイヤーたちがそれぞれの専門知識に基づいた商品やサービスの案を出す。
嶋崎信也・外商部第一担当マネージャー(以下、嶋崎):伊勢丹新宿本店でも新しい試みが始まっている。外商セールス全員とワイン、宝飾、ファッションなど各売り場のバイヤーによるチャットを設けた。例えばワイン担当の高橋隼人バイヤーは、お客さまの琴線に触れる提案をしてくれる。彼のビンテージワインへの造詣に感心し、その1本を飲みたくなる。コロナ禍でも販売は全く落ちていない。
松村佳美・時計担当スーパーバイザー(以下、松村):私が担当する時計は単価が高いので、お客さまの顔をイメージするのに適している。嶋崎さんのような外商セールスにお客さまの個人の嗜好を聞きながら、この時計なら気に入ってくれるかもと考える。例えば体格がいいので(ケースサイズが)48mmと決めている方、お子さまに受け継ぐことを前提に価値ある一本を選びたい方、最近スーツを着なくなった方。購買データでは分からないお客さまの胸の内まで外商セールスは知っている。
私たちバイヤーは、商品ありきで総体としてのお客さまに投げかけていた。でも顔の見えるお客さまに向けて「こんなのいかがですか」と提案した方が心に響く。
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