「ソニア リキエル(SONIA RYKIEL)」が新たなオーナーの下、再スタートを切った。同ブランドは創業デザイナーの退任後経営難に苦しんで身売りを画策したが買い手がつかず、2019年7月に一度は清算されたが、同年12月にファッションや小売り、デジタル業界で実績を持つフランス人実業家のダイヨン兄弟が買収。20年5月にインスタグラムなどソーシャルメディアの運用を再開し、10月には主要通貨に対応する新たなグローバルサイトで商品の販売も始めた。さらに今年2月には、ブランドの代名詞であるニットウエアを中心とした新作の21-22年秋冬コレクションを発表。ブランドを再び開花させるために取り組むエリック・ダイヨン(Eric Dayan)=プレジデントとミカエル・ダイヨン(Michael Dayan)=ジェネラル・ディレクターに買収の理由やこれからの展望を聞いた。
WWD:まず、2人のバックグラウンドは?
ダイヨン兄弟:2人とも実業家としての最初の経験は、(フランスなど7カ国で展開する大手会員制ファッションECサイトの)「ショールーム プリヴェ ドットコム(SHOWROOMPRIVE.COM)」。2006年の創設時から、アソシエイト・ディレクターとして、その発展に関わってきた。今でも取締役会のメンバーと株主ではあるが、それぞれの投資会社の事業に専念するために、17年に運営からは離れた。
WWD:「ソニア リキエル」はフランスを代表するブランドの一つだが、買収した理由は?
ダイヨン兄弟:まず「ソニア リキエル」は、その歴史やアイデンディティ、ブランド力によって、フランスのスタイルや精神を世界に伝えることができるプレーヤーになりうる。だから、なくなってしまうことは想像できなかったし、自分たちがメゾンコードと価値を守っていきたいと思った。「ショールームプリヴェ ドットコム」での野心的な経験の後に取り組みたいと思ったのは、「ソニアリキエル」の世界観や力によるところが大きい。
WWD:ブランドをどのように分析している?
ダイヨン兄弟:「ソニア リキエル」は、世界的に知られるアイコニックなブランド。フランスのノウハウやファッション、スタイルの象徴であり、フランスの文化的な遺産の一部と言える。そして、女性の解放に関する前衛的かつ現代的な価値を持つ、服に自由を求める女性のためのブランドでもある。そのスタイルを特徴付けるキーワードは、フェミニン、エレガント、ロマンチック、魅惑的、オーセンティック、大胆、自由、そして好奇心や独立心にあふれる姿勢。個性的でありながら、廃れることはない。世代を超えて愛着や愛情を持ってもらえるエモーショナルなブランドだ。
WWD:どのようにリブランディングしていくのか?具体的なアプローチの仕方やターゲット層は?
ダイヨン兄弟:私たちの優先事項は、ファッションとラグジュアリーの世界で「ソニア リキエル」を本来のポジションに戻すこと。そして、ブランドに対するニーズを再発見することだ。そしてコミュニケーションにおいては、ロイヤルカスタマーを安心させて呼び戻すと同時に、若い世代にもアプローチする。また、ソニア・リキエルという類稀なクリエイターの前衛的なメッセージを再び発信することも、これまで以上に重要だと考えている。
ダイヨン兄弟:21-22年秋冬コレクションでは、ブランドのクリエイションの核となるニットウエアに焦点を当て、それを再構築することを目指した。ニットは今後のコレクションでも中心となるが、レザーグッズ含め、他の商品カテゴリーも加えていく。具体的には、アイコニックなバッグを再構築し、ナイロンやレザー、ベルベットなどブランド特有の素材を使った新しいモデルを制作する。また、トータルルックを提案するとともに、ライフスタイルへのアプローチも行っていきたいと考えている。キッズウエアのライセンスも並行して進めていて、公式ECサイトでの提案を拡大していく予定だ。
WWD:再始動はECサイトからだったが、今後は直営店での小売やEC、卸売りなど、どのように展開していくのか?
ダイヨン兄弟:「ソニア リキエル」は、B2CとB2Bの双方で高いポテンシャルを持っている。直営では公式ECサイトに加え、ソーシャルコマース、マーケットプレイス、旗艦店、ポップアップショップなどで販売していく。年末には、パリの百貨店ル・ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)にコーナーを開く予定だ。また、2月のコレクション発表後に世界20カ国への卸売りを始め、セレクトショップ100店舗に卸している。総売り上げの半分は海外が占めている。
WWD:日本市場をどのように考えているか?
ダイヨン兄弟:「ソニア リキエル」は、フランスのラグジュアリーメゾンの中でもいち早く日本に進出したブランドなので、その歴史を生かして展開していきたい。ブランドには、日本との関係性を象徴する何百ものアーカイブがある。ソニア自身も日本に強い愛着を持っていたし、彼女は日本で成功を収めた初のフランス人デザイナーだった。ブランドのDNAが日本人の心に響くものであると分かっている一方で、日本ではコミュニケーションが異なることも理解している。例えば、日本市場専用のインスタグラムページを作ることも考えている。また、日本市場で成功するためには、商品の供給、ディストリビューション、露出に取り組む必要がある。これまで共に取り組んでいたオンワードグループのような現地パートナーを見つけたい。今は、さまざまなグループとオープンに話を進めているところだ。
WWD:今後のビジョンは?
ダイヨン兄弟:私たちが目指すのは、ファッションとラグジュアリーの世界において、「ソニア リキエル」にふさわしいポジションを維持すること。そのためには、革新とともに驚きをもたらし、その価値を守り続けていくことが重要だ。フランス国内だけでなく、世界中でブランドを輝かせたいと考えているが、最高のロケーションで展開していくために、ディストリビューションは質重視でコントロールしていく。また、メンズラインとセカンドラインの「ソニアバイ ソニア リキエル(SONIA BY SONIA RYKIEL)」も再始動したい。いつか、ブランドのデザインコードとアーカイブで飾られた“ホテルリキエル”をつくる日がくるかもしれない。