ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。「ルイ・ヴィトン」など高級ブランドを運営するLVMHと、ファストファッションのH&Mの2021年決算が出そろった。同じファッション業界でありながら対極的な両社の数字を細かく比較すると、見えてくるものがある。
ラグジュアリー帝国LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の2021年12月期決算と、ファストSPA(製造小売り)のH&Mの21年11月期決算が発表されたが、コロナ禍を経た両社の業績はまさしく天界と地上の格差を見せつけるものだった。グローバルSPA3社の業績比較は「ザラ(ZARA)」を運営するインディテックス(INDITEX)の1月期決算発表を待つとして、天界と地上の両社がコロナ禍をどう切り抜けたのか比較してみたい。
コロナ前を大きく超えたLVMHの2021年決算
LVMHの21年12月期決算は売り上げが642億1500万ユーロ(8兆3600億円)と前期から43.8%、19年からも19.6%伸び、営業利益は171億5100万ユーロ(2兆2330億円)と前期から2.07倍、19年からも1.5倍と急増した。粗利益率が68.3%と前期から3.8ポイント上昇して19年の66.2%も超えた一方、販管費率が41.6%と前期から4.3ポイント抑制され19年の44.8%からも3.2ポイント下がり、営業利益率は26.7%と前期の18.6%はもちろんコロナ前19年の21.4%も大きく超えた。
最も伸びたのが前期末に158億ドルで買収したティファニー(TIFFANY & CO.)の売り上げが押し上げたウォッチ&ジュエリー部門で、89億6400万ユーロと前期から2.67倍、19年からも2.03倍に増大し、営業利益は16億7900万ユーロと前期の5.56倍、19年からも2.28倍に急増し、営業利益率は18.7%と19年の16.7%も超えた。
308億9600万ユーロと全社売り上げの半分近くを占めた最大部門のファッション&レザーグッズ部門は前期から45.7%、19年からも38.9%拡大し、営業利益は128億4200万ユーロと前期の1.79倍、19年からも1.75倍に伸び、営業利益率は41.6%と前期の33.9%から7.7ポイントも高まった。19年も全社売り上げの41.4%、全社営業利益の63.8%を占めていたが、コロナ禍を経て21年は48.1%、74.9%と集中度が一段と高まった。
コロナ下の店舗休業などが足を引っ張ったセレクティブ・リテイリング部門(免税店・百貨店・化粧品店)は117億5400万ユーロと前期から15.7%伸びたが19年比では79.5%にとどまり、営業利益も5億3400万ユーロと前期の2億300万ユーロの赤字からは脱却したが19年比では38.3%と回復は遠い。営業利益率も4.5%と19年の9.4%には遠く、売り上げは全社の18.3%を占めても営業利益は3.1%を占めるにすぎない。仕入れに依存する店舗小売業の高コスト・低収益体質はLVMHの中では異質で、いずれ分離を余儀なくされるのかも知れない。
注:ユーロの2021年1〜12月の月平均為替レート130.2円
病み上がりを否めないH&Mの2021年決算
H&Mの21年11月期決算は売り上げが1989億6700万SEK(2兆5470億円)と前期から6.4%回復したが、19年比では85.5%にとどまった。営業利益も152億5500万SEK(1953億円)と前期から4.92倍と大きく回復したが、19年比では88%にとどまった。
粗利益率が52.8%と前期から2.8ポイント回復して19年の52.6%も超えた一方、販管費率が45.1%と前期から3.4ポイント抑制されて19年の45.2%とほぼ並び、営業利益率は7.7%と前期の1.7%から大きく戻し、コロナ前19年の7.5%もわずかに超えた。とはいえコロナ禍のダメージから回復しただけで、ピークだった07年の23.5%からは3分の1以下に落ち込み、12年にはインディテックス、18年には「ユニクロ(UNIQLO)」のファーストリテイリングにも抜かれている。
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