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ニッチ香水専門店「ノーズショップ」が新業態「コーグ」をスタート 自由に組み合わせられる香りの“道具”を提供

 ニッチフレグランスの輸入販売を行うノーズショップ(NOSE SHOP)はこのほど、新ブランド「コーグ(KOGU)」をスタートし、1号店をルミネ新宿内にオープンした。「ノーズショップ」は世界各国のニッチなフレグランスを扱うのに対し、「コーグ」はオリジナルのフレグランスを開発・販売。シンプルな香りを組み合わせて道具のように楽しむ「香りの道具=香具」をコンセプトにしており、フレグランス初心者に対してもアプローチする。

 香りは“アップル”“バナナ”“アンバー”“ネロリ”“バニラ”“ムスク”というように、香水を構成する原料やノートを再現。天然香料を用いたシンプルな香りにすることにより、自由自在に重ねづけして自分だけのフレグランスを作ることができる。さらに価格も4mLで税込1760円、20mLで同4180円と手が届きやすいように設定し、香水初心者でも手に取りやすく、複数購入しやすいようにした。また香りのミニサイズがランダムで出てくる“香水ガチャ”や香りを言語化しながら提案するAIシステム「カオリウム(KAORIUM)」を設置し、さまざまなアプローチで香りの提案を行う。

 世界の新進気鋭のフレグランスを扱う「ノーズショップ」とは真逆のアプローチをとる「コーグ」。その背景には、「日本人の鼻感度を上げたい」という中森友喜社長の思いがある。これまでもニッチフレグランスの販売で日本のフレグランス市場の拡大を目指してきた中森社長だが、「コーグ」ではどのようにさらに市場を広げようと図るのかーー。新業態をスタートしたきっかけや思いについて中森友喜ノーズショップ社長に聞いた。

WWD:「コーグ」を立ち上げた理由は。

中森友喜ノーズショップ社長(以下、中森):「ノーズショップ」でもそうだが、そもそも香りの面白さを世の中にもっと伝えていきたいというのがモチベーションの根源にある。「ノーズショップ」は立ち上げてから4年経つが、最初は香水マニアの人が中心だったものの、今は香水初心者まで、いろいろな人が来店し、香りの楽しさを体験してもらえるようになった。それでも、香り好きはいまだにマイノリティーだと感じる。だからもっと香りの世界を発信し、香り好きの仲間を増やしたくて「コーグ」を立ち上げた。

WWD:「ノーズショップ」同様にユニークなコンセプトだが、アイデアはどこから生まれたのか。

中森:実は社内の研修からヒントを得た。ありがたいことに、今はお客さまから「ノーズショップ」の店員になりたいと言ってくださる人が増えている。そういった人は香水への愛は人一倍あるものの、香りそのものの知識があるとは限らない。そこで社員を養成していくための“嗅覚改革メソッド”を開発した。たとえばラベンダーの精油を嗅いで、その香りを言葉にしていく。香りと言語が結びつくと、記憶として形成され、香りを認識しやすくなる。すると複雑な香りが組み合わさった香水などを嗅いだ時に、中にある原料やノートを嗅ぎ分けることができ、ある意味「香りの因数分解」ができるようになる。この「香りの因数分解」ができるようになると、香りのことがもっと深く理解できるようになる。

 実際にこのトレーニングを続けていくうちに、社員の鼻の解像度がどんどん高まり、香りのセンスが培われていくのを目の当たりにした。そこで一般の消費者にもこのような“鼻のトレーニング”ができたら、自身の好みが分かったり、香りの良し悪しも判断できるようになったり、もっと香りを楽しめるようになるのでは、と思ったことがきっかけだ。

WWD:香りを楽しむだけでなく、“鼻を鍛える”フレグランスでもあるということか。

中森:その通り。ワインのテイスティングの勉強をする際も、たとえばイチゴやバナナの香りを嗅いで、ワインの中にそういった香りのノートがあるかを確かめたりする。香りの原料一つ一つを嗅ぎ分けることで、嗅覚や味覚を鍛えるのだ。そういったワインの教育システムからも少しインスパイアされた。

 もちろん、「コーグ」の香りは一つ一つ単体で使うフレグランスとしての完成度も高く、ラストノートまで綺麗に香るように設計した。一方で全て香りの元となる原料をある程度共通化しているため、どの香りを組み合わせても喧嘩しないようになっている。重ね付けを前提として作っているのだ。2つの香りのレイヤリングは他社でもよくあるが、「コーグ」は極端な話、5つ重ねてもいいようになっているため、香りのパターンはほぼ無限に可能性がある。「コーグ」は「香りの道具」という意味を込めているが、素材や道具を提供することで、消費者には自由自在に組み合わせて、香りで遊んでもらいたい。フレグランスをゴルフやスポーツのようにホビーとして成立させたいという思いもある。香りの遊び道具を提供しつつ、日本人の鼻感度を上げたるのがミッションだ。

WWD:香水は美しいボトルも魅力の一つだが、あえてシンプルな容器にしたのか。

中森:香水はおおむね3つの要素からできていると考える。中身の香り、ストーリー、そしてビジュアルだ。中身の香りは言うまでもないが、なぜその香水が生まれたのか、作り手はどんな思いを込めたのか、香りの背景にある哲学や物語も重要。さらに中身の香りをビジュアルで表現するボトルも欠かせない要素だ。だが、今回われわれはそのストーリーとビジュアルを無視した。あくまでも香りの道具を提供しており、香りのストーリーといったところはユーザーに委ねた。自分で香りを嗅ぎ、フレグランスを作り、鼻感度を上げる。そのためにはユーザーが自ら想像力を掻き立てて考える必要があり、ストーリーやビジュアルを提案してしまうとその幅が狭まってしまう。今回は「与えすぎない」ということにもこだわった。

WWD:原料は天然香料にこだわっている。

中森:合成香料は日本人にとっては強度と濃度が強すぎると感じる。人類には500万年の歴史がある中で、合成香料はここ100〜200年で出てきたもの。だから、合成香料を鼻として対応できる体になっていないのでは、と思ったりする。なるべく鼻に優しく負担がかからない香りを作りたくて、500万年前からあり、馴染みがある自然界の香料にこだわった。

 またこれまで「日本のフレグランス市場が小さい」と言われ続けているには、日本人の鼻の性質にも要因があると思う。日本人の鼻は欧米やアラブ人の鼻に比べると繊細で、絶妙なニュアンスなどを嗅ぎ分けるのは得意だけど、強い香りには弱いのでは、と自分なりに分析している。だから強い合成香料を多く含む欧米のフレグランスを“香水くさい”と感じやすいのではないだろうか。そこで「コーグ」ではなるべくインパクトが少なく、強烈すぎない香りにこだわった。いろいろな香りを重ねたりして実験してもらいたいので、そういう意味でもたくさん嗅いでも鼻が“疲れない”香りにした。

WWD:ニッチフレグランスを扱う「ノーズショップ」とは真逆のアプローチというのも面白い。

中森:ニッチフレグランスは特定の少数の人に届けば十分という狭小なジャンル。射程距離が短く、届く人が少ない。その反面届く人には心奥底まで刺さる。ある意味ロックでパンクなモノづくりだ。またファッションフレグランスやラグジュアリーフレグランスなど、いろいろなフレグランスを使ってみて、最終的に行き着く最終点で、変わり者が好むフレグランスと捉えられることも多い。でも、香水ってもっと身近なものであってもいいと思っている。われわれは以前から「香りの民主化」を目指してビジネスをしてきたが、天才調香師や香水マニアだけが存在する世界ではなく、いろいろな人が香りに携わり、香りを発信できる世界があってもいい。みんなで香りを作り、誰もが香りを楽しめるようになる、そんな民主化された香りの世界を作りたい。

WWD:日本人の鼻感度が上がれば、市場もさらに広がりそう。

中森:人の人生を豊かにするのは、やはり五感だと思う。嗅覚の感性を磨くことができたら、もっと人生が豊かにもなると信じている。そういった意味でも、香りの可能性はまだまだあると感じる。「コーグ」は一つのビジネスでもありながら、香りの教育でもあると捉えている。香りを楽しむ人が増え、業界全体が盛り上がると新規プレイヤーが入ってきたり、どんどん面白い香りが出てくるだろう。日本人調香師も増えていくかもしれないし、市場全体の活性化に貢献できたら、と思う。

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