榎本光希デザイナー率いる「アタッチメント(ATTACHMENT)」と「ヴェイン(VEIN)」が、2023年春夏コレクションを合同ショー形式で12日に発表した。
「アタッチメント」は1999年に熊谷和幸が創業し、素材と品質にこだわったテーラードスタイルをメインとする。過去にはパリでもショーを行い、昨シーズンから榎本デザイナーがブランドを受け継いだ。同じ運営会社の「ヴェイン」は2019年に榎本デザイナーが中心となって設立したメンズブランドだ。榎本デザイナーはショー直前のバックステージで、「極端に言えば『アタッチメント』は“服”で、『ヴェイン』は“ファッション”。僕の中ではそれくらいデザインアプローチが違う。それでも、どこかで服作りが交錯する瞬間がある。それをショーで感じてほしかった」と語った。
会場は代々木第2体育館へとアクセスするエントランススペース。石畳が広がる開放的な空間に、スピーカーとライトのみのシンプルなステージを演出した。「世界観を作り込むよりも、それぞれの服の違いを際立たせるため、会場の要素を削ぎ落とした」という。
個々を際立たせる2部構成
個性的フォームで攻める「ヴェイン」
ショーは、前半が「ヴェイン」、後半が「アタッチメント」の2部構成で行われた。「ヴェイン」のテーマは“INFORMEL”。第二次世界大戦後、フランスを中心に起こった抽象絵画のムーブメントを示す言葉で、この運動をリードしたフランス人画家ジャン・フォートリエ(Jean Fautrier)に着想した。彼が描いた作品「人質」に見られる、おどろおどろしく歪んだ人物画をジャカードで表現して、セットアップやスカーフなどに落とし込んだ。
絵画の荒々しく混沌としたムードは、ディテールを多用した複雑な構造にも表れる。MA-1は二重のフロントファスナーを開閉させて前立てを垂らし、シャツは襟ぐりから袖先にドローコードを通して個性的なフォームに仕上げた。モデルたちのランダムなウオーキングも、ダイナミックなコレクションの世界観を増幅させた。
カナダ人アーティストに着想
軽やかなテーラードの「アタッチメント」
後半の「アタッチメント」のテーマは“HORIZON”。繊細なタッチで水平線やグリッドを書いたカナダ人アーティスト、アグネス・マーティン(Agnes Martin)の世界観を、同ブランドらしいテーラードスタイルに落とし込んだ。彼女の手書きのグリッドをテキスタイルとして多くのアイテムに採用したほか、エクリュやブルーグレーといったニュアンスカラーと、ジャージーや超軽量のウール、軽やかな化繊など、色と素材でも彼女の作風を表現した。
ショーには、シワ加工のシャツや内側にカーブを描くバナナカットのデニムパンツなど、「アタッチメント」のアーカイブをサンプリングしたアイテムも登場。これは榎本デザイナーが2000年代に実際に着用していたアイテムだ。「ブランドとの個人的なつながりを明確にしながら、ブランドの普遍性を既存のファンとも共有したかった」。アウターの上から巻いたベルトや腰から垂らしたキーチェーンなど、アクセサリー使いも印象的だった。
フィナーレでは両ブランドのモデルが一斉に会場を歩き、榎本デザイナーの服作りが“交錯する瞬間”を表現した。榎本デザイナーは、「2ブランドをやるのはかなりタフ。まだまだ手探りです」とショー終了後に語ったが、表情は晴れやかだった。「2つのブランドがあるから、見えてくるものもある。この立ち位置をポジティブに捉えて、デザインと向き合っていきたい」。