ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。外資系SPA(製造小売業)の店舗縮小が相次いでいる。コロナ前にも苦戦していたブランドの撤退がいくつかあったものの、今は順調とみられていたブランドまで整理を余儀なくされている。背景に何があるのか。
「H&M」の国内2号店で最大規模の旗艦店だった原宿店が8月2日で閉店する。お隣の「フォーエバー21 (FOREVER21)」は2017年10月15日で閉店しており、19年10月末には全14店を閉鎖して日本から撤退している。インディテックス(INDITEX)も7月18日に渋谷の旗艦店も閉めて「ベルシュカ(BERSHKA)」全店を撤退し、「ザラ ホーム(ZARA HOME)」も急速に店舗を絞っており、表参道の「ザラ(ZARA)」旗艦店も閉店のうわさが絶えない。17年に「オールドネイビー(OLD NAVY)」を撤退したギャップ(GAP)も値引き販売を止められないまま精彩を失い、いつまで日本に残るのか心細いばかりだ。
「アパレルはローカルなもの」とSPAのグローバル展開に疑問を投げかけてきた私としては必然の結末と見るが、外資SPAは総崩れのまま日本から消えていくのだろうか。
ピークから半減した外資SPAの国内売り上げ
08年までは外資SPAの日本国内売り上げ(筆者調べ)は1000億円に満たず大半を米国ギャップ社が占めていたが、08年9月の「H&M」上陸、翌09年4月の「フォーエバー21」上陸によってファストファッションブームに火が付き、09年は1164億円、10年は1316億円、11年は1386億円、12年は1600億円と急速に拡大した。ピークの16年には2670億円まで拡大したが、17年1月末に「オールドネイビー」が撤退したのを契機に減少に転じ、18年には2370億円、「フォーエバー21」(10月末)と「アメリカンイーグルアウトフィッターズ(AMERICAN EAGLE OUTFITTERS)」(12月末)が撤退した19年には2147億円、両者の売り上げが消えた20年には1730億円まで急落。コロナ禍で休業が広がった21年はインディテックスの大量閉店も響き、1340億円とピークの半分まで落ち込んだと推計される。
これをどう受け取るかだが、「H&M」や「フォーエバー21」が高販売効率だったのは人気先行で店舗が限られた12年頃までで、以降は多店化と共に販売効率が急落。近年は郊外の大型モールでの販売効率は「ユニクロ(UNIQLO)」(月坪24万円前後)の4掛け以下に落ち込み、外資勢で最も販売効率が高い「ザラ」でさえ7掛けに届かなくなっていた。
初期の人気や集客力を前提に「ユニクロ」並みの家賃条件で出店していたから販売効率は低くてもなんとか採算に乗る店舗も少なくなかったが、家賃条件の良い(立地が悪い)モールに出店したり販売効率の低下で採算割れする店舗が増え、粗利益率もジリジリと落ち込んで持ち堪えられなくなっていた。
外資SPAの日本進出を振り返ってみれば何とか定着できたのは「ギャップ(GAP)」と「ザラ」「H&M」ぐらいなもので、過半は数年以内、大半が10年以内に撤退しており、15年以降は目立った進出が途絶えている。日本市場のローカル性や参入障壁が諸外国と比べて強いわけではないが(参入障壁は極めて低い)、少子高齢化と経済の凋落による消費の衰退が加速しており、進出投資の回収が困難な「終わった市場」と認識されたと思われる。
定着したはずの「H&M」や「ギャップ」「ザラ」まで先行きが危ぶまれるとなれば、新たに投資して進出する事業者が途絶えるのは必然だろう。性懲りも無く出店を続ける国内アパレルチェーン事業者も認識を改めるべきではないか。
店舗再編か撤退か
店舗網の再編やコスト抑制で乗り切れると見るか、そもそも日本市場にマッチせず採算の維持は困難と見るかだが、大手外資SPAで最も販売効率が高いインディテックスは明らかに後者の判断に傾きつつあり、コロナ禍の2期間で日本国内店舗を145店から86店に激減させている(「ザラ」は94店から75店と8掛けに留まったが、「ザラホーム」は18店を9店と半減、「ストラディバリウス(STRADIVARIUS)」は8店が0店と撤退した)。そのペースは今期に入って加速しており、25店もあった「ベルシュカ」は渋谷の旗艦店も閉めて撤退に至っている。新疆綿問題から不買運動に発展した中国本土が20年1月期末の570店から303店(香港は30店から20店)に激減したのに匹敵する減少であり、インディテックスは貧困化とモード離れが加速する日本市場に見切りをつけたと推察される。
インディテックスは「ベルシュカ」「プル&ベアー(PULL & BEAR)」「ストラディバリウス」の中国向け公式オンラインストアとTモールストアも7月31日に閉める。これらの実店舗は既に閉店しており、3ブランドは中国市場から完全撤退することになる。日本の「ザラ ホーム」も厳しいから、いずれ「ザラ」だけになるだろう。中国では国潮の高揚で外資ブランド離れ、日本ではライフスタイルの質素化でモード離れ、と状況は異なるが、ローカルマーケットに見切りを付けたことには変わりない。
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