世界最大級のスポーツの祭典、2022年FIFAワールドカップ・カタール大会が、11月20日から12月18日まで開催される。W杯がいくら世界最大のスポーツの祭典といえど、普段サッカーを見ない人には試合観戦は退屈かもしれない。そこで、サッカーファンでなくともW杯を少しでも楽しんで観戦してもらいたく、出場国のユニホームにまつわる小話を短期集中連載で紹介する。第2回目は、日本代表とグループステージで対戦するドイツ代表とスペイン代表をピックアップする。
プロイセン王国の国旗が由来のドイツ代表
まずは、初戦を戦うドイツ代表から。ドイツは、1904年に国際サッカー連盟(FIFA)を立ち上げた7カ国のうちの1カ国で、W杯は第2回大会に当たる34年イタリア大会以降、西ドイツ時代も含めて全22大会中19大会に出場。これは21大会出場のブラジルに次ぐ出場回数で、さらに54年スイス大会、74年西ドイツ大会、90年イタリア大会、2014年ブラジル大会の4度で優勝。準優勝も4度、16大会連続のベスト8進出など、世界で最も成功を収めた代表チームの一つだ(歴代最多優勝国は5度のブラジル)。
ユニホームは、ホワイトシャツにブラックパンツの組み合わせを100年近く続けており、連載の第1回目でも触れた“ナショナルカラー”に準じていないのだが、これには国史が深く関係している。実はこのホワイト&ブラックの組み合わせは、かつてドイツ北部からポーランド西部にかけてを領土とし、1701年から1918年のドイツ革命まで存在していたプロイセン王国の国旗に由来しているのだ。というのも、ドイツサッカー連盟(DFB)が設立された1900年当時、現在の三色旗はまだ国旗として存在しておらず(連邦旗はあった)、ドイツ帝国においてプロイセン王国が最大規模だったことから、同国の国旗の配色をベースにしたユニホームが誕生したそうだ。同時に、左胸にあしらった単頭の黒鷲も、プロイセン王国からの名残りである。黒鷲は、プロイセン王国ひいては古代ローマ時代から勇猛果敢さや無敵の力を象徴するシンボルとして紋章などに用いられており、ドイツ国内では軍服や建築物などでも見ることができる。
70年近く続く「アディダス」とのパートナーシップ
そして、ドイツといえばヨーロッパ最大のスポーツブランド「アディダス(ADIDAS)」のお膝元だ。ドイツ代表と「アディダス」の関係は古く、1949年に「アディダス」が設立してからわずか5年後の54年に協業をスタートすると、同年のスイス大会で西ドイツ代表は見事初優勝を果たす。以来、数年離れることはあったものの、現在まで70年近くパートナーシップを続けている。
「アディダス」がユニホームを手掛けるようになってからも、70年代まではホワイト&ブラックを基調とした飾り気のないデザインだったが、80年代に入ると襟付きやスリーストライプスなどデコラティブなアップデートが加速。さらに、三色旗という国旗のカラーリングをアクセントとして生かすデザインが増え、92年には「アディダス」のパフォーマンスロゴを彷ふつとさせる三色旗仕様のスリーストライプスを両肩に大胆にあしらってみせた。一方で、2022年カタール大会に挑む最新ユニホームは、襟や裾、両脇にさりげなく三色旗のカラーをあしらうシンプルなデザイン。なお、中央に走る太いブラックのストライプは、1900年のDFB発足後に初めて代表チームを編成した1908年当時のユニホームに着想したもので、黒鷲の上で輝く4つの星はW杯での優勝回数を表している。
左胸に国章を配するスペイン代表
スペイン代表は、2010年南アフリカ大会での初優勝も記憶に新しく、世界屈指の強豪のイメージが強いだろう。だが、実は1950年ブラジル大会で記録した4位を最後に、2006年までの最高成績はベスト8と、50年以上もベスト4の壁を越えることができない“永遠の優勝候補”と揶揄されてきた。
ユニホームは、“ナショナルカラー”のスペイン国旗の色彩をそのまま落とし込んだレッド&イエローがベースで、これは伝統として100年以上続いている。ちなみに、国旗は“血と金の旗”と呼ばれており、イエローは豊かな国土を、レッドは外敵を撃退した時に流れた血を象徴。 憲法で“イエローはレッドの2倍の幅”と厳密に指定しているが、ユニホームにおいては自由な配色が許されている。そして、スペイン代表と他国が大きく異なる点が、左胸にあしらった紋章だ。一般的には、日本代表やドイツ代表のように自国のサッカー連盟の紋章が付くところを、スペイン代表は国旗にも使用している国章をあしらっている。
レッドがメインのシンプル路線のユニホーム
そんなスペイン代表のユニホームを手掛けるのも「アディダス」だ。ドイツ代表ほどではないものの、スペイン代表と「アディダス」の関係も長い。他ブランドを挟むこともあったが、1981年から40年以上の歴史がある。
90年代は、左肩から裾にかけてスリーストライプスをあしらったり、襟と袖にネイビーを大胆に配色したりと、同年代らしい遊び心があるデザインやカラーリングが多かった。しかし、2000年代後期からはレッドのボディをメインに、おなじみの肩部のスリーストライプスにイエローやネイビーを落とし込むシンプル路線に変更。もちろん最新ユニホームも極めてシンプルで、左胸の国章およびスペインサッカー連盟(RFEF)のロゴですら従来と比較して簡素で、随所に散りばめたネイビーのアクセントが効いたデザインだ。また、国章の上にはドイツ代表と同じく、優勝経験国のみがあしらうことを許されている星がさんぜんと輝いている。
連載の第3回目は、サッカー王国ブラジル代表と、ディフェンディングチャンピオンのフランス代表をピックアップする。