アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。プラスチックごみの削減が世界的に叫ばれる中、取り組みが遅れていたアメリカのビューティ企業が重い腰を上げ始めた。今回は大手ビューティ企業や小売業、スタートアップのリサイクルの取り組みをまとめてみた。
環境団体グリーンピースの最新レポートによると、昨年の米国における家庭から出たプラスチックごみの総量は年間5100万トンで、そのうちリサイクルされているのは240万トンに過ぎないという。比率にするとわずか4.7%で、残りはすべて土壌廃棄か焼却されている。
いったん商品となったものをリサイクル目的で集めて、物流し、施設で加工する、この一連の工程をリサイクルストリームと呼ぶのだが、これが完結していないケースは多い。例えばアメリカのプラスチックごみの多くが中国に送られるのだが、中国で土壌廃棄か焼却されているにもかかわらず、現地でどう処理されているのか関知せず中国へ送り出した時点でリサイクル完了とするのがほとんどと言われる。
われわれ消費者は容器上に印字されているリサイクルマークに従って、消費後に容器を所定のリサイクルス場所に戻すのだが、そこから先は見えず、戻した時点で満足してしまっているのが現状と言えそうだ。
ただリサイクルマークが表示されて、消費者が積極的に容器を戻すカテゴリーはまだ良いかもしれない。実はこのリサイクルが最も進んでいない分野がビューティなのである。理由は容器形状が多様かつ複雑で、複数の素材が混在するため、リサイクルにコストがかかり難しいからだそうだ。コスメに顕著で、口紅、マスカラ、コンパクトなど、思い浮かべていただければ素人でも理解できる話である。
もちろんニーズはあり複数の企業が種まきをして取り組んできたのだが、ウォルマート(WALMART)やセフォラ(SEPHORA)といった大手企業がとうとう本腰を入れ始めて、撒かれた種が芽吹き始めたように感じている。
この半年ぐらいの動きを以下整理してみよう。
ウォルマート:集荷用専用の大型コンテナを設置
ウォルマートはP&Gやユニリーバ(UNILEVER)といった大手メーカーと共同で実験を開始している。対象となるのはヘアケア、スキンケア、コスメティックスで、25店舗に集荷用専用の大型コンテナを設置、ウォルマートで買ったものに限らず、また参加メーカーに限らず全ブランドを対象としている。
回収した商品は専用施設で洗浄し、素材のタイプによって仕分けし、粉砕するなど原材料ベースになるまで加工して新たな商品製造に利用する。重要なのはリサイクルストリームを誰が担うのかなのだが、請け負うのは日本でも事業を開始しているテラサイクル社(TERRACYCLE)である。
セフォラ:リサイクル専門業者とタッグ
セフォラは2019年に一部の店舗で空のビューティアイテムを3つ持ち込むとPB(プライベートブランド)商品を15%値下げする実験プログラムを導入していたのだが、今年の7月に専門業者パクトコレクティブ(PACT COLLECTIVE)と契約して35店舗で本格的なリサイクルを開始している。
パクトコレクティブは店頭に専用ボックスを設置してリサイクルストリームを請け負う企業で、ビューティ専門店を中心にして北米に220店舗をカバーしている。物流観点でいえばリサイクルボックスを一定商圏内に一定の閾値(しきいち、上限値)を超えて設置することが不可欠で、セフォラの参加は効率向上に一役買うことだろう。
ちなみに創業者は1990年代にMACコスメティックスでリサイクルプログラムに参加してニーズに気づき、中身の詰め替え可能なビューティを売る専門店の創業を経てパクトコレクティブを立ち上げている。
ザボディショップ:容器の中身詰め替えに本腰
冒頭のプラスチックの事例のように実際のリサイクル率が低いという問題は簡単には解決できず、究極的にはリユース(容器の再使用)やリフィル(中身の詰め替え)しかないと言われている。
専門店としてリフィルに取り組んでいる大手企業が英ザボディショップ(THE BODY SHOP)である。2019年にロンドンで実験を開始、徐々に拡大して4月にアメリカで年末までに全店舗の49%に導入すると発表している。
アルミ製のリフィル可能ボトルを用意して既存の商品と一緒に売り、お客は中身がなくなったら自分で洗浄し、空のボトルを店頭に持ち込み込み、リフィル専用の什器を使って店員が詰め替えるという手順だ。
テラサイクル:日本でもお馴染みの「ループ」の会社
再使用可能なパッケージを使い回すプログラムで知られているのが既述のテラサイクルで、名称は「ループ(LOOP)」、日本でも事業を開始しているのでご存知の方も少なくないことだろう。ウォルマートやクローガー(KROGER)など大手が参加しており知名度が徐々に上がりつつある。シャンプー、リンス、ハンドソープといったパーソナルケアの液体商品が主体となっている。
お客は店頭またはネットで専用ボトルに入った商品を購入、売価には容器代が加算されて、使用後に店頭または宅配で返品すると容器代が返金される。テラサイクルは回収後に洗浄しメーカーに送り、メーカーが再充填するという仕組みとなっている。
ユニ:注目のD2Cスタートアップ企業
ユニ(UNI)というD2Cのスタートアップも登場している。ポンプがついたディスペンサーと中身が入るボトルを分離、ボトルをディスペンサーにはめて利用する形式で、ディスペンサーは手元に置いてボトルのみ再使用するという仕組みである。カテゴリーはバスルームで利用するシャンプー、リンス、ボディウォッシュのみ。昨年初頭に400万ドルのシード資金を調達したばかりで将来性は未知だが、リユースを中心に据えたD2Cがどこまで受け入れられるのか注目だ。
若い消費者のエコ意識に背中押される
アメリカは詰め替えの普及が遅かった国である。ハンドウォッシュやシャンプーといった液体商材で日本では詰め替えがかなり前から定着しており、なぜアメリカで広まらないか不思議に感じていた。日本は細かいゴミ分別という煩雑さがある一方アメリカは緩く、これが消費者をして廃棄意識の違いになっていたのかもしれない。
ただ状況は変わりつつある。業界誌の取材に対してザボディショップの担当者は、Z世代やミレニアルズといった若年層が詰め替えモデルを後押ししていると発言している。アメリカでは若年層を中心にしてエコ意識が高まっており、アメリカでもようやく取り組みが拡大してきたといったところである。
リサイクルの難しいコスメティックスで芽が出始めたのも若年層の存在がありそうだ。やらないと店舗が支持されなくなる時代が来ているのだ。