メディアによるブランディングやマーケティング、コンサルティングの仕事が増えている。果たして、その理由はなんだろう?そう考えて、「メンズクラブ」(ハースト婦人画報社)の編集長を退任後、さまざまなブランドの仕掛け人としても活躍する戸賀敬城氏に話を聞いた。すると戸賀氏は、「ファッション業界で最強なのは、編集者!」と言い切る。その理由は?(この記事は「WWDJAPAN」2022年11月28日号からの抜粋です)
戸賀敬城/編集者、オフィス戸賀代表
戸賀敬城(とが・ひろくに):1967年、東京生まれ。学生時代から「ビギン」(世界文化社)でアルバイト、大学卒業後にそのまま配属となる。2002年、「メンズEX」(同)の編集長に就任。05年、「時計ビギン」(同)の編集長に就任。06年、「ウオモ」(集英社)エディトリアル・ディレクターに就任。07年、「メンズクラブ」の10代目編集長に就任した
WWDJAPAN(以下、WWD):編集者としての経験や知見、人脈は、現在のキャリアに生きている?
戸賀敬城(以下、戸賀):「メンズクラブ」の編集長を退いたとき、「編集者はつぶしが利かない」とか「出版業界は斜陽だ」と言う人もいたけれど、僕は全然そう思っていない。むしろ編集者は、ファッション業界で一番強いと思っている。強いから、企業が放っておかない。
WWD:その理由は?
戸賀:特に男性誌の編集者は、読者の仕事や趣味嗜好、興味・関心をよく知っている。そのいずれかから、他を想像することにも慣れている。だからまだまだ苦手なメーカーも多い、ユーザーの生活や購買行動、心理などを踏まえたマーケティング戦略を組み立てられる。それを高いレベルで実行できるコンテンツの制作力にも優れている。編集者は、かつてはアンケートハガキ、今ならウェブ記事のPVやSS、滞在時間などで読者を分析している。そもそも読者のことがわからなかったら、編集者は務まらない。それは、信号のかなり手前で「そろそろ青信号になるな」や「右折の矢印が出そうだな」と予測しながら運転できる感覚に近いと思う。予想できない事態が発生し、慌てて急ブレーキを踏まなくちゃならない時もある時代。ある程度先を見据えて運転できる編集者には、企業のマーケティング担当は敵わないと思う。振り返れば僕が「メンズクラブ」の編集長に就任したのは40歳の時。当時読者の平均年齢は43〜45歳くらいだった。編集長に就任して以降は特に、自分が(読者と同じような趣味嗜好や興味・関心を持つ)“メンクラ君”になろうとしていた。編集者なら、誰もが同じような経験をしていると思う。それは、財産だ。
WWD:現在携わっているブランドでは、経験をどう生かしている?
戸賀:例えば化粧品「アスタリフト メン」の“ジェリー アクアリスタ”は、女性向けと同じ1万3200円。同じ1万3200円でも、男性には少し高く感じるだろう。だから女性向けの製品はドラッグストアでも販売しているが、男性向けは「同じ値段なら、百貨店の方がいいんじゃない?」と考えた。メンズは、ドラッグストアでは売らず、伊勢丹新宿本店メンズ館から阪急や高島屋へと販路を広げている。百貨店が主販路だから、ターゲットは40〜50代で、キャッチフレーズは「時代遅れの肌で、どこへ行く気だ。」。百貨店に通う男性には蘊蓄好きも多いから、メディアではどんなタイアップをするべきか?そもそも、どの媒体をパートナーに選ぶべきか?も決まってくる。商品特性からターゲットを設定し、彼らのライフスタイルを考えながら施策を計画・実行する一連は、編集者なら当たり前にできること。ホームページで何を語るかを考えることもできるし、実際手を動かして文章や写真だって生み出せる。最近の編集者は、イベントだって開催できる。企業にとって、ありがたいパートナーになるはずだ。
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