ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。スウェーデンのH&Mの2022年11月期決算が発表された。世界のアパレルSPA(製造小売業)の売上高2位の同社だが、首位である「ザラ」のインディテックスの背中は遠のき、3位である「ユニクロ」のファーストリテイリングからは猛追されている。決算を細かく分析すれば、いくつかの課題が浮かび上がってくる。
H&Mが1月27日に発表した2022年11月期決算はウクライナ紛争も災いして回復が鈍く、19年11月期の水準に届かなかった。「ユニクロ(UNIQLO)」のファーストリテイリングの22年8月期本決算や、「ザラ(ZARA)」のインディテックス(INDITEX)の23年1月期第3四半期決算(2〜10月)がコロナ前の水準を超える回復を見せたのとは対照的で、グローバルSPAの首位レースから、また一歩後退した感がある。
19年水準への回復は成らず
売り上げは前期から12.4%(現地通貨では6%)増えて2235億5300万SEK(約2兆8970億円)と19年11月期の2327億5500万SEKに96.0%と迫ったが、営業利益は71億6900万SEK(約929億円)と前期から半減して同173億4600万SEKの41.3%にとどまり、純利益は35億6600万SEK(約462億円)と前期の3分の1に減少して同134億4300万SEKの26.5%と、回復には程遠かった。営業利益率も3.2%と19年の7.5%の半分にも届かず、ピークだった07年の23.5%には遠く及ばない。
ファーストリテイリングの22年8月期の売り上げが2兆3011億円と19年8月期の2兆2905億円を0.5%とわずかながら超え、営業利益は2973億2500万円(売上対比12.9%)と同2576億円(同11.2%)を15.4%上回り、親会社に帰属する当期純利益が2733億円と同1625億円を68.1%も上回って最高益を更新したのと比べれば、勢いのなさは否めない。
ファーストリテイリングは営業利益率こそピークだった00年の26.5%に比べれば5掛けに落ちたが、純利益率は11.9%と00年の15.1%の8掛けと高い。当時から売上規模が10倍になった一方で自己資本は23.5倍になったROA(Return On Asset、総資産利益率)経営の蓄積がうかがえ、ROE(Return On Equity、自己資本利益率)経営のH&Mとは明暗を分ける。
インディテックスは1月期決算(3月15日発表予定)なので第3四半期(2〜10月)での比較になるが、22年第3四半期の売り上げは230億5500万ユーロ(約3兆1906億円)と19年第3四半期の198億2000万ユーロを16.3%も上回り、営業利益(EBIT)も41億7700万ユーロ(約5781億円)と同35億4800万ユーロを17.7%、純利益も31億1000万ユーロ(約4304億円)と同27億2600万ユーロを14.1%上回って、ファーストリテイリング以上に勢いがある。営業利益率(EBIT)も18.1%と19年第3四半期の17.9%をわずかながら上回り、2012年に記録した19.5%に近い水準を保っている。
このままではインディテックスの背中はさらに遠ざかり、23年8月期の売り上げを2兆6500億円と予想するファーストリテイリングに24年8月期には追い抜かれかねない。収益力は既に大きく引き離されており、営業利益額はファーストリテイリングの31%、インディテックス(第3四半期のEBIT)の16%にすぎない。
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