星街すいせい/常闇トワ/角巻わため
ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。Vチューバー事業を展開する企業の上場が相次いでいる。目新しさばかりに注目が行きがちだが、ビジネスモデルとしては革新的であり、メタバース時代の本格到来を前にファッション企業が学ぶべき点も多い。
昨年6月8日に東証グロースに上場したANYCOLORに続き、3月27日に「ホロライブ」のカバーが東証グロースに上場する。Vチューバー※1.プロダクションの両雄が出そろうことになるが、事業機会を広げて高収益体質を固めるANYCOLORに対して3D技術でメタバース・エンタメ・プロダクションを目指すカバーと、両者の方向性は大きく異なる。NFTやアバターアパレルなどメタバースの事業化を占う意味でも、両者の事業展開に注目したい。
※1.VTuber(Virtual YouTuber)…2D/3DのアバターキャラクターをモーションキャプチャーやMMDで動かして演じるユーチューバー
ホロライブのVチューバーは世界を席巻
「カバー」って言われてもピンとこない人も多いかも知れないが、世界のVチューバーランキング(チャンネル登録者数)のベスト10を独占してベスト20位中17人を占める「ホロライブ」をマネジメントするVチューバープロダクションだと言えば分かるのではないか。ベスト10にはホロライブジャパンから宝鐘マリン(フォロワー数229万人)や兎田ペコラ(217万人)、星街すいせい(193万人)ら6人、ホロライブEnglishから2人(1位のがうる・ぐらは427万人)、ホロライブ・インドネシアから1人、VTuber Group ch.としても5位に位置してベスト10を独占している。
その勢いを実感させるのがスパチャ(スーパーチャットというユーチューブ上の投げ銭)累計額の世界ランキングで、潤羽ルシア(引退)の4億4050万円を筆頭に桐生ココ(引退)の3億9621万円、兎田ペコラの3億4388万円、宝鐘マリンの3億0350万円までが3億円を超え、7位の葛葉(にじさんじ)を除いてベスト10を独占し、ベスト20中16人を占めている(23年2月17日段階)。せいぜい2〜3年の活動期間としては突出した金額だ。
ちなみに、にじさんじ(ANYCOLOR)のVチューバーは、チャンネル登録者数ランキングで11位に壱百満天原サロメ、16位に葛葉、スパチャランキングで7位に葛葉、13位に不破湊、16位に叶、20位に加賀美ハヤトが入るのみで、ホロライブとは大差がある。もうひとつ、両者の特徴を際立たせているのが男女の違いで、ホロライブのランクインVチューバーが全て女性(カバーの男性Vチューバー「ホロスターズ」はランクインの勢いはない)であるのに対し、にじさんじのランクインVチューバーは全て男性だ。
ファン層も大きく異なっており、女性アイドル路線のカバーは男性が9割近く(年齢層も幅広い)、男性女性だけでなく性不詳や人外、動物までそろう芸人路線のANYCOLORは若い女性(64%)や学生が多い。後述するマネジメント体制の違いもあって、カバーは管理育成型のアイドルプロダクション、ANYCOLORは放任実力主義の芸人事務所(極めて吉本興業的)と言われる。
注)Vチューバー(ユーチューバーも)の各種ランキングはウェブサイト「PLAYBOARD」で誰でもリアルタイムで見ることができる
収益性ではANYCOLORが優る
カバーの売上高は22年3月期で前期比138.7%増の136億6300万円、営業利益は同13.5%増の18億5500万円(売上対比13.5%)、当期純利益は同1.9%増の12億4400万円(同9.1%)と、売り上げの伸びの割に営業利益や純利益は伸びていない。ライブ/イベントやマーチャンダイジング(商品販売)の急拡大に伴う仕込み費用や販売手数料による原価率の上昇、24年3月期(23年4月にスタジオ、6月に本社)に予定する移転に伴う設備の減損損失(2億1148万円)が利益を圧迫した。
23年3月期見込みも売上高が32.1%増の180億5600万円、営業利益が16.9%増の21億6900万円、当期純利益が14.7%増の14億2700万円と、売り上げの伸びの割に利益は伸びず、営業利益率は12.0%と前期の13.5%、純利益率も7.9%と前期の9.1%から低下する。商品販売の急拡大に伴う物流費(6倍増)や陣容拡大に伴う人件費(57.6%増)に加え、営業外では上場関連費用を想定している。
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