ファッション

「アタッチメント」“できるナンバーツー”がリーダーになった日 初の東コレで「ヴェイン」との合同ショー

 メンズブランド「アタッチメント(ATTACHMENT)」と「ヴェイン(VEIN)」が15日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2023-24年秋冬コレクションを合同ショーで披露した。両ブランドは前シーズンも合同ショーをファッション・ウイーク期間外に行っており、今季は受注が終了しているタイミングだったものの、ある思いをもって東コレへの初参加を決めた。“着る人の内面を引き立てる付属品”というコンセプトの「アタッチメント」と、服の構造をデザインする“構造表現主義(structural expressionism)”を掲げる「ヴェイン」。この対照的な2ブランドを率いるのは、「アタッチメント」創業者の熊谷和幸から1年前にブランドを託された榎本光希デザイナーだ。熊谷からは「歴代アシスタントで一番バランスがとれたデザイナー」と信頼され、誰からも慕われる人柄と常に冷静沈着な判断で、“できるナンバーツー”としてチームを陰で支えてきた、黒一色の服装を貫く男である。自らが先頭に出る立場となって1年という節目を、国立競技場という大舞台で迎えた。

なぜ東コレにこだわったのか
日本ファッション界への思い

 ショー会場に国立競技場を選んだのは、縦に長い屋内トラックで「アタッチメント」と「ヴェイン」の2つの世界観を包括するため。榎本デザイナーは、「『アタッチメント』を引き継いだ22-23年秋冬シーズンの初めてのショーでは新しい世界観を披露し、2回目の『ヴェイン』との合同ショーは僕自身の紹介でもありました。3回目の今シーズンは、両ブランドの異なる部分と共通点を包括的に見せたかった。そのために、長いランウエイが必要だったんです」と説明する。

 東コレへの参加を決めたのは、ブランドを継承するビジネスのかたちと、合同ショーという型を浸透させるためだった。「デザイナーが交代することは、日本ではまだ珍しいこと。でも一つのブランドを長く続けるためには必要なので、将来的には東コレの舞台でも当たり前になってほしいという願いも込めて、公式スケジュールでの参加を決めました」。例えビジネスにつながらない時期だったとしても、クリエイションのバトンを過去から未来へとつなぐ姿を多くの人に見せたかった。そんな強い責任感を抱えて臨むショーのバックステージでも、榎本デザイナーはやはり冷静沈着。「全然緊張していないんですよ。やばいぐらいに」。鋭い視線でスタイリングの最終チェックを行いながら、自身のクリエイションが結集した空間を時折俯瞰する。しかしモデルがラインアップした本番直前、まるで名残惜しさを感じているかのようにささやいた――「始まっちゃうんだ」。

 ショーは、榎本デザイナーのブランドとして19年に立ち上げた「ヴェイン」からスタート。明暗が不定に変化するランウエイで、ドローコードによって形状が変化するアウターやパンツ、ファスナーが縁を沿うニットウエアなど、シンプルなストリートウエアに、シェイプやディテールで少しの違和感を加えていく。今季は画家ピエール・スーラージュ(Pierre Soulages)の多彩な黒の表現にヒントを得て、毛足の長いニットや、ウールとポリエステルのファー、光沢を放つレザーという素材感の緩急でブラックに奥行きをもたらせた。また光を取り込む彫刻家アニッシュ・カプーア(Anish Kapoor)の作品にも着想し、鏡のようにクラッキング箔プリントしたシルバーのスエットやシューズ、さらにその鏡に映る空をシュリンクさせたブルーのシャツや、カラーのグラデーションをジャカードで表現したデニム、ニットで表現する。デザイナーの感性を主導させた構造のアプローチに、作家のクリエイティビティを融合させていった。

 後半の「アタッチメント」では、会場の全照明が灯った光の空間に一変した。クリーンでミニマルなテーラリングを軸に、ビジュアルアーティストのロニ・ホーン(Roni Horn)が思い描く“人と自然の距離感”をコレクションに取り込んだ。自然を想起させるグレイッシュなニュアンスカラーや木目調のヘリンボーンといった直接的な引用もあれば、合繊と天然繊維を混ぜた生地、服と肌の距離感を意識したボックスシルエットのトップス、フレアするパンツなど、多角的な視点で“人と自然の距離感”の視点を盛り込んでいく。得意とするイージーフィットのソフトテーラリングはややクラシックにシフトし、直線的なショルダーラインのジャケットはコートが、ほどよくモードな色気を演出する。“着る人の内面を引き立てる付属品”に徹しながら、感情に訴えるデザインも榎本デザイナーらしいバランス感覚で随所に織り交ぜていく。

 フィナーレでは2ブランドの服をまとった40人のモデルが並び、2ブランドの世界観がシームレスにつながった。“ファッション”の「ヴェイン」と、“服”の「アタッチメント」の構造や素材感の差を感じさせながら、榎本光希という一人のデザイナーのクリエイションを表す一筋のラインだった。

自身の個性とは何か
試行錯誤でたどりついた答え

 榎本デザイナーはフィナーレに登場すると、シートの愛する家族に微笑みかけ、来場したゲストに感謝し、長いトラックを軽快に走り去っていった。その堂々とした姿に、かつての“できるナンバーツー”の面影はなかった。アシスタント時代は、トップに信頼され、チームを動かす“ナンバーツー”の立ち位置を「自分にしかできないポジションだと思い込んでいた」と振り返る。組織にとっては重要なポジションという自負を持ちながら、「自分の個性って何なんだろう」という思いも同時に抱えていた。そしてブランドを突然引き継ぐことになり、1年が経った。「『アタッチメント』を引き継いで、自分の個性を前に出さないとという意識になったのかは正直分かりません。それよりも、周囲の意識が変化したんです。『アタッチメント』が榎本らしくなったね、と言われることもあり、周りが僕の個性を見つけてくれる。それが自信につながっているのかもしれません」。

 また、ビジネスで結果を残したことも手応えをつかんだ要因の一つだ。この1年で「アタッチメント」と「ヴェイン」合計の年間売上高を約6億円規模に成長させ、海外の売り上げは約140%伸長。自身でも探っていた榎本光希という個性は、今後も着実に浸透していくだろう。本人もそこに手応えを感じている。1年の試行錯誤を経て、リーダーとしての自覚と責任はさらに強くなった。「始まっちゃうんだ」とつぶやく姿からは、ショーのひりつく緊張感をもっと楽しみたいというたくましさも感じた。インタビューに的確に答える様子は“黒子”ではなく、オールブラックを貫くリーダーの存在感。今後は自身の個性をさらに前面に押し出していくのかと聞くと、少し見上げて考えた後に「本当はそういうタイプじゃないんですよね」と表情を崩した。

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