ファッション

パタゴニアが注目するオーガニックに代わる新基準 “リジェネラティブ・オーガニック”とは?

 パタゴニア(PATAGONIA)は、リジェネラティブ・オーガニック(RO)農法を日本で普及すべく4月13日に初のカンファレンスを主催した。同社がパートナー企業と協業して2020年に設立した第三者認証機関リジェネラティブ・オーガニック・アライアンスのエリザベス・ウィットロー(Elizabeth・Whitlow)代表をはじめ、原材料生産地でのRO農法を推進する「ドクターブロナー(DR.BRONNER'S)」のゲロ・レソン(Gero Leson)=スペシャルオペレーション・ヴァイスプレジデント、日本で土壌生態学や農業環境工学を研究する専門家らを招き、RO農法の可能性について議論した。

 パタゴニアが「気候危機への解決策」として注目するRO農法は、不起栽培で炭素を固定しながら健全な土壌を構築する有機農法で、土壌の健康に加えて動物福祉と労働者の公平性の3本柱で構成する。ROC認証を監修するエリザベス・ウィットロー=エグゼクティブディレクターに、RO農法に注目すべき理由を聞いた。

WWD:近年、 ファッション業界でも“リジェネラティブ(環境再生型)”という考え方に注目が集まっている。その理由は?

エリザベス・ウィットロー=リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス・エグゼクティブディレクター(以下、ウィットロー):もともとこの言葉は、食品業界で流行ったのが始まりだ。確かにこれまではファッションと農業の関係を意識する人はあまりいなかったが、最近人々は口に入れるものだけでなく、肌に触れる衣服に対しても同様に意識を向け始めている。そこで、自分たちが身につけているコットンやリネン、ヘンプが育てられる過程が、地球に負担をかけていることを意識する人たちも増えている。

WWD:RO認証を設立した理由は?

ウィットロー:ヨーロッパやアメリカでは“リジェネラティブ”がバズワード化する一方で、明確な基準が世の中になかったために、消費者が混乱してしまっていたからだ。畑を耕さない不耕起栽培であれば“リジェネラティブ”とうたうような企業もあった。しかし、作物を育てるのに化学薬品、肥料、除草剤、防虫剤、遺伝子組み換えの種子などを使用していては、たとえ不耕起であっても土壌の劣化は避けられない。そこで私たちは、土壌だけでなく、その土地に住む生物、人々などコミュニティー全体を維持し再生する包括的な基準を設けることにした。

WWD:パタゴニア以外に、どんなアパレル関連企業が興味を示している?

ウィットロー:加盟企業は約100社で、そのうち繊維関連企業は約10社。これまでは原材料に携わる農家からの問い合わせが多かったが、最近はブランドから直接「どこでROC認証を取得した綿花が買えるのか」や「どうやったら農家の支援ができるのか」といった問い合わせも増えてきた。「アディダス(ADIDAS)」や「H&M」といった大手のほか、ラグジュアリーブランドからの連絡もある。「ティンバーランド(TIMBERLAND)」も最初から興味を示してくれているブランドだ。彼らはRO認証済みのゴムの生産に挑戦しようとしている。ゴムの生産工程では、児童労働の問題も隠れており、そうしたリスクから自分たちのサプライチェーンを守ろうとしているわけだ。今は綿花での認証が進んでいるが、シルクやカシミアについても基準を作ってほしいといった要望ももらっている。

WWD:パタゴニアはインドの150以上の綿花農家と提携し、ROコットンの生産を進めてきた。同社のように直接農家を支援したいという企業も多い?

ウィットロー:パタゴニアはインドの農家と5〜6年かけて取り組み、RO農法のノウハウだけでなく、ジェンダー平等に向けた教育プログラムなども実施してきた。私たちもブランドと農家の橋渡し役を目指しており、パタゴニアが良い事例だ。まだ農家の直接的な支援をしたいという声は多くはないが、直近では「アウターノウン(OUTERKNOWN)」がペルーとインドの綿花農家の支援を始めたりしている。

Z世代やミレニアル世代で広がり

WWD:欧米の消費者の間では“リジェネラティブ”の認知度はどれくらい高まっているのか?

ウィットロー:急速な広がりに私たちも驚いているくらいだ。ニールセンによる市場調査では実際に“リジェネラティブ”を基準に買い物する層が一定数いるという結果が出ている。中でもZ世代やミレニアル世代の関心が高い。特に家庭を持ったミレニアル世代は、子どもに安心・安全なものを与えたいと考えたときに“リジェネラティブ”に行き着くようだ。

WWD:これまでのオーガニックでは不十分だと。

ウィットロー:そうだ。近年オーガニックへの基準が下がり、さまざまな問題が指摘されている。2017年に水耕栽培(土の代わりに水と液体肥料を使う栽培法)にオーガニック表記が認められたことも決定的な事例だ。工場畜産にも認可がおりた。動物にオーガニックな飼料を与えてはいるが、狭い劣悪な環境で飼育されており動物福祉の観点は全く考慮されていないといった現状もある。

WWD:パタゴニアは日本でRO農法を推進しようとしている。日本の農業はどんな課題があると考える?

ウィットロー:日本でもRO農法への研究が進んでいて、土壌の質の改善や炭素貯蔵量の増加などが証明されていることに驚いた。パタゴニアが主催したカンファレンスでは、日本特有の生物多様性をどのように維持していくのか、不耕起農業で雑草をいかに減らしていくかがポイントだと学んだ。また全世界が直面している最大の課題が気候変動だ。私が住んでいる北カルフォルニアでは、年々山火事の被害が拡大し、時期も早くなっている。土壌の微生物を増やし、そうした異常気象にも耐えうる土壌を作るためにもRO農法が重要だ。

WWD:日本では具体的にどのようにROC認証を広めていく?

ウィットロー:素晴らしいパートナーであるパタゴニアの日本支社が中心になって進めてくれる。ただ日本のファッション企業に伝えたいのは、自分たちの活動に責任を持ってほしいということ。ROC認証に興味を持ってくれたら、ぜひ私たちに声をかけてほしい。

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