
Z世代などの商品の購入動機として、自分が手に取りやすい価格であることも重要だ。社会性と事業性のバランスを取るのは難しいが、生産者や関連企業と直接つながり、実現する企業がある。(この特集は「WWDBEAUTY」2023年5月29日号からの抜粋です)
たかくら新産業(TAKAKURA NEW INDUSTRIES)
「ありがとう」のために全工程を足で稼ぐ
1993年の創業時は「『日本にまだないもの』をコンセプトに、世界中の商品を日本に導入してきた」と語る高倉健たかくら新産業代表取締役。その中で、家族や自分の病をきっかけに「西洋医学は対症療法で、それ以前に病気にならない体作りが必要だと感じた」ことから、オーガニックブランド「メイドオブオーガニクス(MADE OF ORGANICS)」を2008年に立ち上げた。取り扱うアイテムは経皮吸収率の高い体の部位に合わせたもの。腕の内側を1とすると、頭皮は3.5倍、脇は3.6倍、下顎は14倍、デリケートゾーンが42倍となっている。それらに対応するべく歯磨き粉やデオドラントなどをそろえる。またオーストラリア発「パーフェクトポーション」のオーガニック虫除けスプレーもロングセラー商品に育て上げた。
いずれも、ナチュラルとオーガニックをデイリーユースにすることにもこだわる。日本の化粧品市場の中でオーガニックシェアは1%程度。市場が拡大するためには、“6つの約束(イノベーティブ、エビデンス、プレミアム、リーズナブル、エココンシャス、アップデート)”をクリアする必要があると考える。その一つであるリーズナブルは、高品質で効果実感が高い「プレミアムリーズナブル」をコンセプトに掲げる。多くの人に継続して使用してもらうのが目的だ。それを実現するため、モノ作りにおいては商社を一切活用しない。「工場やパッケージ・ラベル・原料メーカーも全て自分たちで探し、取引価格も交渉する。お互い利益率は低いが、販売価格より価値を見いだしてもらい、お客さまに『ありがとう』と言ってもらえる商品を手掛けたい」という思いに賛同してくれることを願う。また、農家など1次産業に従事する人には「ありがとう」が届きにくいため、新商品発表会で登壇してもらい、モノ作りの思いを伝えてもらっている。
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価格は価値のバランスで決めている。パッケージにオーガニック成分の配合比率をパーセント表示したり、第三者機関で効果を実証したりと高品質な商品であることを透明性をもって伝える。一例としてデオドラントは1760円、携帯用の歯磨き粉は990円などだが、「実は22年9月に原材料費の高騰と円安により販売価格を平均10%程度アップしたため、自分としてはリーズナブルと言うことに少し抵抗を感じている」と胸の内を明かす。
血縁関係だけでなく周囲の人を含めた「“かぞく”に安心して使ってもらえる“だいじょうぶだよ”と手渡せる商品」を提供し続け、オーガニック・ナチュラルな商品がスタンダードになるためには、販売量を増やす必要がある。そのため、インスタグラムやティックトックなどSNSを活用した情報発信や、同志社大学で設けたゼミで学生にモノ作りの仕組みなどを伝えている。「商品を購入する際に価格は大事な要素。みんなで“だいじょうぶなもの”を探ってもらいたい」。
GENERATION Z COMMENT
浅野凜々子
慶應義塾大学発の学生服飾団体
「ケイオウ ファッション クリエイター」ディレクターチーフ
金銭的に余裕がない私たち若者は、安くて効果実感の早いものをまず手に取る。オーガニック商品は「体に優しいが効果がない」という印象を持つ人もいるが、価格だけを理由に選んだものが「安全なのか、本当に効果があるのか」と考えることは少ない。経皮吸収や価格へのこだわりを聞いて、より多くの人に使ってほしいと思った。普段の生活で物事を疑わず生きてしまうことも危険だ。「病気になってからでは遅いから」という高倉社長の言葉を思い出す。