デザイナーのステラ・マッカートニー(Stella McCartney)が5月16日、東京藝術大学で特別講義を行った。東京藝術大学美術学部デザイン科准教授を務めるアーティストのスプツニ子!がモデレーターとなり、デザイナーとして大事にしている信念や学生時代の過ごし方などついて語り、次世代を担う学生たちにエールを送った。後半の質疑応答の時間には、学生たちから多くの質問が上がった。
常識を疑いポジティブな変化を起こす
スプツニ子!:まず、今回のイベントポスターにも掲げる“チェンジ・ザ・ヒストリー”というスローガンに込めた思い、奈良美智さんとのコラボレーションのきっかけについて教えてください。
ステラ・マッカートニー(以下、ステラ):奈良さんと私は、常識を疑いポジティブな変化を起こすという共通の信念を持っています。それが今回のコラボレーションが実現した背景で、私が奈良さんのファンである理由です。“チェンジ・ザ・ヒストリー”というテーマは、そんな私たちの共通点を表したもので、私自身もたくさんのインスピレーションを受けました。「ステラ マッカートニー」は、過去の慣習にとらわれがちなファッション業界を疑い、より良い変化を生み出すことがファッションを前進させる方法だと考えます。私たちもどのように歴史を変えていきたいのか日々自問しています。
スプツニ子!:ステラさんは常に未来を見据えている方なのだと思います。これまでにも世界の学生たちとアースデーにデモ活動などをしていますが、学生たちとの交流を大事にしている理由は?
ステラ:この教室を見渡して思うのは、皆さんはファッションの未来であり、希望だということです。皆さんがクリエイションを通して歴史に変化を起こす当事者なのです。私にとっては、種まきの時期です。ファッションは世界で2番目の汚染産業といわれていますが、これまでそうした部分があまり語られてきませんでした。皆さんが新しい考え方を持たなければ、今のシステムは変わりません。強い気持ちで行動を起こすアクティビストであってほしいと思います。
スプツニ子!:今でこそサステナビリティが重要なスタンダードになりました。それにはステラさんの貢献が大きかったと思いますが、どのようなきっかけで今のパッションを持つようになったのか教えてください。
ステラ:私はイギリスのオーガニック農園でベジタリアンとして育ちました。幼い頃から人間と動物、そして地球のつながりを意識していました。ファッションデザイナーを夢見ると同時に、自分の倫理観や信念を妥協したくないとも強く思っていました。幸いにも、デザイナーとして仕事を始めた当初から、レザーやファー、羽毛などの動物由来の素材を使用しない選択ができる環境に恵まれていました。また、(2006年に)国連が発表した「畜産業の環境負荷報告書」では、動物を殺すことがあらゆる点で自然破壊につながっていることが報告されています。これはサプライチェーン全体を見直すきっかけにもなりました。ファッションは夢のある業界です。ファッションの持つ力を信じる気持ちは全く変わっていません。責任のあるモノづくりは、夢のあるファッションをつくり出すことと同様に人々に感動を与えるものだと思います。
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