三越伊勢丹ホールディングス(HD)は、2021年に就任した細谷敏幸社長による「マスから個へ」の号令のもと、アプリ会員、カード会員、外商会員といった識別顧客への対応を強化している。オンライン(デジタル)とオフライン(店舗)を通じて得た識別顧客のデータを分類・分析し、個人の潜在ニーズに適した商品やサービスを提案する。伊勢丹新宿本店が31年ぶりに過去最高売上高を更新(23年3月期、3276億円)したのも、この戦略によるところが大きい。(この記事は「WWDJAPAN」2023年7月24日号からの抜粋です)
伊勢丹新宿本店の婦人服フロアでは、パーソナルカラー診断や骨格スタイル分析などの資格を持つ専門販売員がブランドの垣根を越えて、服選びを手伝うサービス「スタイリングローブ」を展開する。料金は2時間2万円。予約がなかなか取れないほどの人気だが、上位の識別顧客には優先的に割り当てられる。似た内容のサービスは昔から存在した。それが識別顧客のデータに基づいて薦めると、提案された服をまとめ買いしたり、その助言をもとに再び買い物に訪れたりする人が明らかに増えた。担当の林部真希子マネージャーは「データで抽出した上で、人(スタッフ)の力をかけると顧客満足がぐんと高まる」と自信を深める。
潜在ニーズの“見える化”をもたらした識別顧客の取り組み。百貨店が年間購入額のステータスでポイント付与などを行うこと自体は昔からの手法だ。変化のきっかけは20年6月に本格始動したアプリだった。コロナ禍で店舗営業の制限が続く中、ECやオンライン接客の機能も搭載したアプリへの登録は増え続け、現在では200万以上ダウンロードされている。伊勢丹新宿本店および三越日本橋本店では売上高に占める識別顧客の割合が20年3月期の約50%から23年3月期には約70%に上昇した。もともと顧客比率が高い伊勢丹新宿本店の婦人・宝飾時計・雑貨・子供営業部(同店の売上高の約6割を占める)では、識別顧客が85%に達した。同営業部の櫻井俊晴部長は「店舗やオンラインに集客し、ステータスや購買志向に基づき識別化し、LTV(顧客生涯価値)を高める。特選でも婦人服でもこのサイクルがうまく回るようになった」と話す。
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