PROFILE: イヴォン・シュイナード / パタゴニア創業者
地球の危機的状況下での適切なビジネスとは何か。従来型のビジネスモデルでは地球環境へのダメージは止まらないが、会社を存続させるためには利益は必要だ。こうした難しい状況にどう立ち向かえばいいのか。営利事業と自然保護を両立するパタゴニア(PATAGONIA)のビジネスと2022年からの新体制からヒントを探る。(この記事は「WWDJAPAN」2023年10月23日号からの抜粋です)
パタゴニアは2022年9月14日、当時83歳だった創業者のイヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard)が同社を手放したと発表した。シュイナード一族は、所有する株を新たに設立した2つの事業体、パタゴニア・パーパス・トラスト(PATAGONIA PURPOSE TRUST)とNPO団体ホールドファスト・コレクティブ(HOLDFAST COLLECTIVE)に譲渡。これにより、パタゴニアの事業に再投資されない資金の全てが地球の自然保護のために配当金として支払われることになった。この時にシュイナードが公表したコメントがこれだ。「資本主義を根底から覆す。パタゴニアの全財産は環境危機と闘うために使われる。パタゴニアの株主は私たちの故郷である地球だけだ」。この言葉は産業界のみならず、多くの人に衝撃を与えた。
“地球が唯一の株主”
新しい資本主義を体現
パタゴニアの現在の売上高は、有力紙が今年シュイナードに行ったインタビューによると約15億ドル(約2235億円)。評価額は「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」紙によると約30億ドル(約4470億円)。理想的な企業に見えるパタゴニアだが、この新組織に至るまでには、紆余曲折があった。シュイナードの言葉「善行をなすことから利益のあがる優良ビジネスが作れることを実業界に示したい」の通り、パタゴニアは実験的なビジネスを行い、責任あるビジネスとは何かを問い続けてきた。製品を通じて環境負荷軽減に向けてサプライチェーンを変革し、消費文化を変えるための行動変容を促す。非常に難易度の高いことに取り組みながら収益を上げ、利益は環境保護団体に寄付して彼らの活動を支援してきた。1985年からは売り上げの一部を毎年寄付し、2011年にはBコーポレーション認証を受けた。18年には自社のミッションステートメントを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に変更して危機感を高め、「環境への悪影響を軽減する以上のことをする必要がある」とスタッフに明示して取り組みを加速した。
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