「WWDJAPAN」恒例の販売員特集は、今回30人の販売員を紹介する。コロナ禍が明けて、あらためてリアルの場の価値が見直されている。顧客の支持を集めるトップ販売員は何が違うのか。(この記事は「WWDJAPAN」2023年11月6日号からの抜粋です)
「WWDJAPAN」による販売員特集は2011年以来、13年続く人気企画だ。過去の特集記事を読み返すと、販売員の仕事内容がかなり広がっていることが分かる。そして販売員を取り巻く環境も様変わりした。
最初の11年の特集では、店頭のスペシャリストというべき販売員が、消費者との印象深い接客エピソードを語っていた。14年、15年あたりからインスタグラムなどのSNSを介した顧客コミュニケーションの話題が急増する。販売員の活躍の場が所属する店舗だけでなく、デジタルを通じて全国へと広がる時代が到来した。EC(ネット通販)の拡大と足並みをそろえ、SNSを武器にする販売員がクローズアップされるようになった。コロナ禍でその流れが加速する。店舗の営業が制限される中、たとえ店舗が閉まっていてもSNSやライブコマースで顧客とつながれる手段を持つことの重要性を関係者は痛感した。コロナが収束して日常が戻ると、改めてリアルな場でのコミュニケーションが評価されるようになった。
新しい販売スタイルの象徴がバニッシュ・スタンダード(VANISH STANDARD)によるオンライン接客ツール「スタッフスタート」である。事業開始から7年で、約2600ブランドの23万人の販売員が活用し、年間の流通額は1748億円の規模になった。9月にはデジタル活用に優れた販売員を表彰するコンテスト「スタッフ・オブ・ザ・イヤー2023」を盛大に開催。「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」新宿店の仲希望さんがグランプリに選ばれ、賞金300万円を獲得して話題になった。ちなみに仲さんは昨年の販売員特集に登場している。
仲さんを輩出したユナイテッドアローズは10月から社内制度「DXセールスマイスター」を新設した。自社ECのスタイリング投稿数やフォロワー数、スタイリングを経由した売り上げへの貢献が指標になる。仲さんや栗本朋香さんが初代DXセールスマイスターになり、ロールモデルとなって活動する。同社にかかわらず、ファッションやビューティの販売員は店頭とデジタルの両輪で活躍する個人がますます増えていくのは間違いない。
とはいえ、販売員に求められるコミュニケーション力の本質にはあまり変わりはない。ユナイテッドアローズ創業者の重松理氏も「お客さまと販売職の方との信頼感を醸成しながらお客さまに買っていただく行為は、やはり店頭でしかできない」と話す。本特集では23歳の新卒の和装の販売員から、この道47年の76歳の美容部員までバラエティーに富んだ人たちが登場する。その仕事術にはさまざまなヒントが隠されている。