PROFILE: ジャロン・チャン/日本ロレアル ロレアル リュクス事業本部 イヴ・サンローラン・ボー テ事業部 事業部長
「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT、以下 YSL)」の新事業部長にジャロン・チャン氏が8月に就任した。チャン事業部長は2004年にロレアルに入社して以来、19年間化粧品事業に従事する。直近3年間はパリの本部でグローバル メイクアップ製品開発チームのディレクターを務め、商品やブランドへの造詣が深い。全アイテムのストーリーを語れるというほど「YSL」に愛情深く向き合うチャン事業部長に、就任後のミッションや日本市場での狙いについて聞いた。
“クチュールブランド”「YSL」を次のレベルへ
WWD:日本の事業部長に就任し、ミッションをどう捉えているか。
ジャロン・チャン=日本ロレアル ロレアル リュクス事業本部 イヴ・サンローラン・ボーテ事業部 事業部長(以下、チャン事業部長):前任の長谷事業部長(現ランコム事業部長)が育てた「YSL」を次のレベルに引き上げることだ。日本は世界第3位の市場で重視している。「YSL」はラグジュアリーさとシックさを兼ね備えた“クチュール ビューティブランド”だ。パリで商品開発した経験を生かしながら、私自身のブランドへの愛を広く伝えて高みを目指す。
WWD:シンガポールに生まれ、ニューヨーク、上海、パリでキャリアを積んだ。日本に縁はある?
チャン事業部長:個人的にとても親しみがある。仕事では「シュウ ウエムラ(SHU UEMURA)」を担当している時に来日したが、ダンスの交換留学で岩手に訪れた経験もある。幼い頃は母からよく日本の話を聞いていた。母がハネムーンで来日していて、1960年代のモノクロ写真も見た。日本で仕事ができることは光栄で、個人的にも新たな自分を再発見できたらと楽しみにしている。
キャップの音やクッションの弾力まで
細部へのこだわりこそがラグジュアリー
WWD:「YSL」と他のブランドとの大きな違いは?
チャン事業部長:主に、商品の作り方だ。ブランドの遺伝子をひも解くことから始めている。それぞれの商品には核となるアイデアがあり、これがDNAと結びついている。例えば、アイシャドウ“クチュール ミニ クラッチ”の“400 バビロン ローズ”はイヴ・サンローランが住んでいた通りと、彼が好きだったバラから名前を取った。“500 メディナグロウ”は、彼が愛着を持っていたモロッコ西部マラケシュの旧市街、メディナの景色が着想源。彼は旅があまり好きではなかったが、いろいろな旅を想像することを楽しんでいた。その気持ちを反映させた。
WWD:長らく商品開発に携わった。こだわりは?
チャン事業部長:グローバル メイクアップ製品開発チーム ディレクターの時には、デザインと処方の両方にこだわった。特に9月にローンチしたクッションファンデーションは私が手掛けたので、まるで自身の子どものような商品だ。閉める時のカチッという音やバッグの質感を目指した黒いクッションの弾力感まで、何度もやり直したのでぜひ試してほしい。
アイシャドウのアプリケーターにも気を配った。細かい部分にも色をのせられるかを確認したり、消費者の声を反映してチップに使う順番を記載したりと、使いやすいさを追求した。高価なものなので、ささいな瞬間まで楽しんでいただきたい。ほとんどの人が気付かないような細かいこだわりこそが、ラグジュアリーの定義だと思っている。
日本ではメイクとフレグランスに注力
人生を楽しむ後押しを
WWD:チャン事業部長が商品開発を手掛けたコロナ禍以降、商品の魅力が増したように感じる。細部へのこだわりが日本市場に受け入れられている?
チャン事業部長:そう言ってもらえるとうれしい。今年、クッションファンデーションとアイシャドウの2つは発売してすぐ売り切れてしまうほど、日本市場で成功した。日本では特にメイクとフレグランスのカテゴリーを拡大したい。
日本の顧客は洗練されていて、商品の理解度が高い。ブランドに対しての要求も高く、見た目と使用感どちらも重視している。事業部長就任後、店舗のカウンターマネージャーとディスカッションをして、商品がどのように見えるか、どうやって顧客にシェアしていくかを話し合い、理解を深めた。
WWD:顧客とはどうコミュニケーションするか。
チャン事業部長:私の哲学として「お客さまの場所へ行こう」と常々思っている。物理的に足を運ぶだけでなく、心理的にもお客さまの立場に立つことを心掛けている。例えば今朝も「アットコスメ」のランキングを見て171件の口コミをチェックしたところだ。チームでも協力してお客さまの声を集めている。
WWD:顧客は今、何を求めている?
チャン事業部長:“Enjoy my life”、人生を楽しみたいと思っている。ラメが強い“キラキラ”のアイシャドウが売れていることも、その理由の一つだ。リップも大胆な赤を求める人が増えている。赤をまとうと生き生きした気持ちになるので、パワフルで大胆に生きていく力を届けたい。12月にリニューアルする“ルージュ ピュールクチュール”は発色の良い鮮やかなカラーが多く、スキンケア成分が80%で伸びもいい。ルージュミューズやヌードミューズなど4つのカテゴリーで代表シェードがあり、それぞれがまさにファッションアイコンのようにスポットライトを浴びる。ルージュミューズは私のお気に入りで、スタイルを引き立ててくれる理想的なレッドシェードだ。
“R1971”は独特な色だが、これはイヴ・サンローランが1971年に発表し世間に衝撃を与えた“スキャンダル”コレクションからインスパイアされたもの。この解放を意味する言葉はフレグランス“リブレ”の商品名でもある。“今ここで、自由に生きる”というコンセプトが込められている。もし自由でなかったら海外に行くこともできないし、コレクションを見にいくこともできない。自由だから今がある。
WWD:今後、「YSL」をどう成長させるのか。
チャン事業部長:「YSL」はクチュールとビューティのちょうど真ん中の、唯一無二の立ち位置にいる。私自身もビューティには過去19年間商品を作ってきた愛着があり、そしてファッションも大好きだ。「YSL」には商品を求めていらっしゃるお客さまも多いが、ブランド自体を好きになってもらいたい。チームと一緒に愛を広げ、お客さまを巻き込んで売り上げを拡大していく。