「パタゴニア」の2024年春夏シーズンは、新製品と型数を絞りつつクオリティーの追求に重点を置いた。例えば、メンズライフアウトドアの新製品はさまざまなシーンや気候に対応する多機能な“ノマダージャケット”と快適で多用途に使える日常着として提案した“メンズエッセンシャルポロ”のみ。代わりに、異なるカテゴリーでも同型の製品を提案しており、色や柄、タグを変えることで鮮度を出している。例えば、「ウォーターピープル」ラインの“スカイセルジャケット”は、ウィメンズのライフアウトドアでタグやストリングスの柄を変えて提案した。
ポイントはさらに“クオリティー”を追求したことにある。パタゴニアのいうクオリティーとは、単に耐久性のある機能的な製品を作ることではなく、人と地球への影響を第一に考えて製造することを指す。さらにより少ないものでより質の良いものを選択・購入する責任あるコミュニティを発展させることで、必要なモノが減り、それらをより長く使い続け、人や環境への総体の影響も軽減させることを目指している。例えば、リジェネラティブ・オーガニック(RO、環境再生型有機農法)認証のコットンや廃漁網を活用したリサイクルナイロン「ネットプラス」の割合が増えている。ROコットンは南インドに加えて、新たなにペルーにもサプライヤーが加わったことでこれまでよりもサプライチェーンが安定したという。
新体制によってスピード感ある投資が可能に サプライチェーン変革を加速
2021年に創業者とその一族が全株式を新たな事業体に譲渡したことで、スピード感を持って投資できるようになったことが、サプライチェーン変革を加速している。パタゴニアが推進する廃漁網や廃棄ペットボトルなど二次廃棄物を活用した素材開発に取り組むスタートアップやROに取り組む農家への投資が増えているという。二次廃棄物の活用はクオリティーを担保した上でスタートアップが開発した素材を試験的に製品に活用していたりする。デザインのマイナーチェンジはある。例えば人気アイテムの“フリートウィズジャンプスーツ”は汎用性を考慮し、ドローストリングスで多様なシルエットを楽しめるようにした。
今季の色や柄は「どうしたら製品を通じて搾取資本主義を解体できるか」という問いから始まり、イメージを広げた。インスピレーション源はパタゴニアのベンチュラ本社か見えるチャンネル諸島。同諸島は生態系が豊かで、“北米のガラパゴス”と呼ばれることもある場所だ。搾取資本主義から離れて機能する仕組みの一つの縮図で、生物が生き抜くために互いに依存し、必要な協力をして資源管理をする営みから着想を得た。例えば、ハクトウワシとシマハイイロギツネのような生物の種の間の関係や、バランスを必要とするウニと海藻とラッコの関係をパターンや抽象的な形で表現した。
パタゴニアが提案するアロハシャツ“パタロハ”は、人間が解決策の一部になり、大地を助ける取り組みにフォーカス。例えば柄に採用した植物の一種、「アルラ」は花粉を運ぶポリネーターが絶滅した、現在は科学者たちが断崖に上り手作業で受粉を行い、野生の個体数の生存を手助けしている植物。「アイランド・シーズ」は、ハワイで重要な生態系の一つである乾燥地帯にある森林で、90%以上が人為的影響で破壊されているというが、人間の手によって種子の保存や再植などで回復していることを表現した。「カロ(タロイモ)」は、ハワイの農業社会や経済、政治、精神の中心にあり、ハワイの人々の生存と繁栄に非常に大切である。その、「カロ(タロイモ)」の柄を通じて、人間と植物の共生関係を表現した。