ビューティ賢者が
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ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。
今週は、世界最大のテクノロジー見本市「CES」に出展したロレアルなどの話。
矢野貴久子「BeautyTech.jp」編集長 プロフィール
雑誌編集者を経て1999年からデジタルメディアに関わり2017年、アイスタイルで媒体開発に着手。18年2月に美容業界のイノベーションを扱うメディア「BeautyTech.jp」の編集長に就任
【賢者が選んだ注目ニュース】
「ロレアル(L'OREAL)はテック企業である」を強く印象づけた、2024年の「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」。われわれ美容業界の視点からすれば、同社による基調講演は創業以来考え続けている美とテクノロジー、サステナビリティ、多様性と包括性についての集大成のようなプレゼンテーションだった。同時にCESに集まった美容関連とは縁が薄かったビジネスリーダーたちにも、化粧品会社がいかにテクノロジー企業たり得るか、そしてロレアルがビューティテックNo.1企業であるかを知らしめたという点で、エポックメイキングだったと思う。
ただ、この基調講演を聞いて改めてビューティテックという言葉が指す領域がとてつもなく広くなっていることを実感した。美容企業は今、ウエルネスやメンタルヘルス、医療、睡眠、栄養、スポーツ、ゲームなどの領域と融合しはじめており、同時にサステナビリティや多様性・包括性という点でのパーソナライズも推し進めている。テクノロジーはそのあらゆる部分にしみだしており、さまざまな分野とテクノロジーをかけあわせ、どうイノベーションを起こしていくのかにフォーカスする時代に突入したという実感だ。テクノロジーは生成AIの登場もあり、普遍化したのだ。
では、ロレアルをはじめとするビューティジャイアンツたちが、次なるイノベーションの起爆剤と考えているものは何か?それは医療やバイオテクノロジーといったR&D領域だ。
先進国ではレッドオーシャンの化粧品ビジネスは、その機能性がさらに問われはじめている。SNSマーケティングで一時的に注目されても、機能性に満足しなければ続けての購買にはつながらず、LTV(Life Time Value. 顧客生涯価値)はあがらない。実際、中国で好調なのはバイオテクノロジーに強い企業だ。23年後半には資生堂やプーチが皮膚科医らによるドクターズコスメを傘下に収め、ユニリーバやロレアルはバイオテックに強いブランドや企業に投資を行ったり矢継ぎ早に買収したりの動きを見せた。このトレンドは、明らかだろう。
機能性を高めるため、化粧品開発にはサイエンスに裏打ちされたR&Dが必須だ。そのための研究開発期間は、テクノロジーの開発や導入のそれと比べると体感的に5〜10倍の時間を要する。投資も膨大ゆえ、ユニークな医学的見地あるいはバイオテック技術を持ち、すでにブランドとしても確立している企業を買収してグループに入れるのは理にかなっている。傘下に入れずとも投資すれば、協業や知見の共有など受けられる恩恵は大きいはずだ。そして、やはりグローバルNo.1企業のロレアルとNo.2のユニリーバ(UNILEVER)の目のつけどころが鋭い。
ロレアル、ユニリーバの双方が
注目するのはマイクロバイオーム
ロレアルは23年12月、プロバイオティクス(人体に良い影響を与える微生物)およびマイクロバイオーム研究開発企業で、すでに「BAK」というブランドも持つデンマークのラクトバイオ(Lactobio)を買収した。これは、ロレアルが過去20年にわたり進めてきたマイクロバイオーム研究をさら加速させることを狙ったもの。ラクトバイオの専門知識を活用して、生きた細菌を使用した安全で新しい化粧品ソリューションを開発するという。また、24年1月には傘下のCVCを通じてスイスのエイジング研究に強いバイオテックスキンケアブランド「タイムライン(TIMELINE)」に大型投資を行った。
ユニリーバは、自社のアセットを生かせるユニークなヘアケアブランド「K18」を23年12月に傘下に迎えている。「K18」はバイオテック研究を基盤として新しいアミノ酸配列を開発。これが一過性でなく永続的に髪の強度と弾力性を回復するとうたうブランドだ。設立から18カ月で100カ国2万以上のヘアサロンで採用され、現在ではセフォラのベストセラーヘアケアブランドのひとつとなっている。また、同社は同じタイミングで豪州のマイクロバイオーム頭皮ケアブランド「ストランド(STRAAND)」に2回目の投資を行い、同ブランドがグローバルな新市場に進出するためのサポートをするとしている。
ロレアルとユニリーバの動きを見ていると、マイクロバイオームを活用したスキンケアやヘアケア、エイジングがいかにR&D領域でホットであることが分かる。マイクロバイオーム関連企業含め24年は、「R&Dに強いスタートアップ」が美容大手のM&Aや協業先として大きな注目を集める年となりそうだ。