「アパレルビジネス=作って売ったら終わり」からの脱却に向けて、行政が本気のアクションを起こしている。経済産業省は、繊維製品の資源循環システムを確立するため、リサイクルなどに関した新たな制度や、技術や事業者支援の検討を進めている。2023年9月には「繊維製品における資源循環システム検討会」の最終報告書を公開し、続けて同年11月から産業構造審議会の繊維産業小委員会を再開して議論を重ねている。また、繊維関連製品の製造に関して、リサイクルしやすい設計やCO2排出抑制、水資源への配慮などを規定した「環境配慮設計ガイドライン」の策定を進めており、今年度中に公表予定だ。
「WWDJAPANサステナビリティ・コネクト」は1月19日、経済産業省製造産業局の田上博道生活製品課課長を招き、検討会の報告書について解説を聞き、参加者との質疑応答を行った。田上課長は冒頭、日本における衣料品のリユースやリサイクルが約35%にとどまり、繊維から繊維へのリサイクル1%未満である現状に触れ、今後需要拡大が見込まれる海外市場において日本の繊維関連産業が競争力を維持・確保するためには、繊維製品の資源循環システム構築が重要であると訴えた。また、その資源循環システムを確立するためには大きく「回収」「分別・繊維再生」「設計・製造」「販売」の4つのフェーズで課題が存在し、並行的に解決してゆくことが不可欠であるとしたうえで、欧州など海外の動き、国内の現状と課題を解説した。(資料を用いた解説は上の動画で見ることができます)
参加者からの19の質問・意見への全回答
質疑応答では質問や意見が多くあがり、田上課長がひとつひとつに回答をした。参加者の所属企業は、繊維メーカー・商社、アパレル・スポーツメーカー、SPA、デベロッパー、セレクトショップ、外資ブランド、ビューティ関係者、デジタル関連、大学関係者など多岐にわたる。社内でサステナビリティ推進を担当するなど、日々課題と向き合っているメンバーなだけに質問は具体的だ。
参加者1:資料を見ると、循環における、「回収」「分別・繊維再生」「設計・製造」「販売」の4つの柱の課題が明確で、タスクが多いことも理解できる。4つのセグメント中のプレーヤーは異なる。それぞれに審議会やワーキンググループが動いているのか。また、そこに民間は参加しているのか?
田上博道製造産業局生活製品課長(以下、田上):「回収」の部分は環境省で廃棄物処理法等の取扱いに関して審議会が行われている。「分別・繊維再生」については、NEDO(ネド、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)から企業へファンディングして、技術開発が行われている。「設計・製造」は、ものづくりに関わる分野であり経産省が、販売や表示にかかわる部分は、経産省や消費者庁で行なっている。検討に際しては、民間企業も参画してもらっている。例えば、経産省の「繊維産業小委員会」には、日本繊維産業連盟や一般社団法人日本アパレル・ファッション産業協会にも参画いただいている。なお、審議会での議論は、YouTubeなどで公開しているので、気づいたことがあれば御意見をいただきたい。
参加者2:自分は欧州に本社がある企業で働いている。ヨーロッパの場合は、ガイドラインを発行する際にそれぞれのセグメントのトップ企業が5、6社入り、月に数回議論をしている。だから、スピード感を出せていると思う。それらの意見を日本にフィードバックしたいが、外資が議論に入ることはできるのか?
田上:外資の企業には、むしろ議論に入ってもらいたい。日本の繊維企業にグローバルで通用するものづくりをしていただきたいと考えており、そのために必要な人権や環境の基準を一緒に作っていきたい。来年度(2024年度)は、基準や仕組みを設けることを検討しているが、グローバルでより求められる、より高い人権・環境基準を知ることで、日本企業の人権・環境対応の底上げ期待できる。そのためにも直接意見をいただきたい。
廃棄衣料の再資源化で世界一を目指すくらいの集中とスピードが必要
参加者3:私は素材開発や、繊維循環のための設計を進めているが、日々海外産地の現状を見る中で、日本はかなり出遅れ巻き返しができないところまできていると感じている。中国では廃棄衣料の再資源化の最新設備が国の助成金で次々建てられている。インドも豊富な資源を生かす設備投資が盛んだ。日本は今から設備投資に助成金を出したとしても、繊維産業を再び盛り上げることなどもはやできないのでは?と現場でヒシヒシと感じている。今は選択と集中が必要。日本が競争力をつけるためには廃棄衣料の再資源化の技術と設備に集中し、世界一を目指すくらいの集中とスピードが必要だろう。今回の話でそこへ向かっていることは理解したが、何をいつまでに、がわかりづらいのでロードマップを具体的に教えてほしい。
田上:日本の繊維産業が世界で戦っていくためには、繊維リサイクルは不可欠であり、補助金などでしっかり投資を支援していく。今後のスケジュールについても明確化してゆく。グローバルでは、例えば2030年にはリサイクル繊維がどのくらい普及するかは試算されているので、そこから逆算して30年までに日本で出揃っているべき技術や、日本でのリサイクル繊維の使用比率などを提示するなど、年内にはロードマップを示したい。
参加者3:衣類の混紡率の高さがリサイクルの課題のひとつ。自動分別技術はすでに実用化している国があり、精度はまだ低いが課題の抽出が始まっている。すでに実証段階に入っているから、日本に仕組みができたとしても時すでに遅しの可能性がある。資源としての廃棄物が海外へ出てしまうこともあり得る。実際、弊社も使い道がない素材を国内でリサイクルしたいと思いつつ、海外へ送ることを検討している。民間は、現地の調査をして現状を見ているので共有の場を設けて欲しい。
プロパー販売と生産の適量化の課題に規制はあり得るのか?
参加者4:商品単価が下がっているという話が出たが、弊社ではシーズン末のバーゲン期間の再設定が議論に上がることがある。フランスのように政府がバーゲン期間を定めている国もある。その方が供給量も計画を立てやすいのでは?日本でもバーゲン期間を統一する議論はあるのか?
田上:(ご指摘のように)衣料品をできるだけプロパー価格で売ることは重要。業界として正式に要望をいただければ、関係部署と連携し適切に検討したい。
参加者5:フランスでも実際には各店や商業施設が「シークレットバーゲン」を行うなど、骨抜きになっているのが現状。そういった事情も知るインポートブランドの日本法人はモノを作るわけではなく、サステナビリティの専門部隊が国内にいるわけではないが、サステナビリティ基準は公開しており、必要あれば本国の専門家をつなぐこともできる。国を超えたネットワークの中で議論を進めてほしい。
大量生産を規制することは難しい
参加者6:大量の売れ残りが発生している現状から考えると、生産の適量化は重要なことだと思う。それが実現した場合、海外ブランドの輸入規制も考えるか?
田上:現地点では、海外ブランドの輸入規制は考えていない。国内に流通しているアパレル製品の98%以上が海外輸入なので、そこを規制するのが果たして国民の利益になるのかよく考えなければならない。一方で、欧州はSDGs等の観点から、人権・環境に配慮していない商品に対する域内マーケットへの輸入を厳しくしようとしている。今後、国内企業に対して人権・環境への配慮をお願いしていくため、輸入される衣料品にも何らか対応を考えなければいけない可能性もある。現状、日本企業は先行する海外規制への対応が求められているので、この状況を変えて、欧州と連動して制度を作っていきたい。
田上:現状、繊維製品の生産を規制する法律はないため、大量生産を規制することは難しいが、繊維・アパレル業界に対してはこうした現状認識を踏まえた対応を検討してもらっている。
参加者8:以下は厚生労働省の管轄になるが、日本にはベビー用品・衣類の販売には家庭用品規制法によるホルムアルデヒドの規制がある。「(プラ袋で)個包装しなければならない」という規制ではないものの規制に反しない販売法として、当たり前のように丁寧にすべてプラ袋入りになっており、コストもかかる。過去にカナダ大使館、フランス大使館からこの規制緩和への問題提起が提出されている。日本は、見直しを検討してほしい。品質表示に「洗ってから着用してください」と記載すればよいことであり、必要なら店頭での販売時に喜んで一言添える。20年経って変わっていないのが非常に残念だ。
また、プラスチックバッグの有料化により、エコバッグという新しい産業が生まれている。エコバッグが特典として自動でついてくるサービスも出てくるなど、新たな作りすぎの負の遺産が発生している。ルールを決めた後の、マイナス面を追って調整する仕組みはあるのか。
田上:一般的には、政策を作って終わりではなく、その政策の効果等を評価する仕組みがある。ご指摘のあったベビー衣料等の問題は確認する。
製品の長寿命化は「環境配慮設計ガイドライン」に入るのか?
参加者9:サプライチェーン全体のエコデザインを策定する場合、リサイクル素材を定義付けるなど企業間が共通認識を持てるよう、進めてほしい。
田上:「環境配慮設計ガイドライン」については、一般社団法人繊維評価技術協議会が、関係団体と検討作業を進めているので、議論の過程で関係者からも意見を言ってほしい。また、「環境配慮設計ガイドライン」は日本だけでなく、海外でも通用する制度としていくべき。また同ガイドラインは、海外のエコデザイン規則のようにリサイクルをする前提での服作りだけでなく、エネルギーや水の使用量などを明示させ、削減を促していくもの。4月には間に合わない可能性もあるが、エネルギー使用量等の計算方法については、第2版以降で間に合わせたい。繊維企業にしっかり使ってもらうことが前提なので、足りない点等はご意見をいただきたい。
参加者10:質問ではなく、現状を理解してほしいので伝えたい。弊社は中規模のブランドで、環境配慮に対する定義を自主定義しており、お客さまに届ける建て付けは完了している。また、田上課長が先ほど「日本のファッション産業の分業制が昔は強みだったが、今はそれが弱みになっている」とおっしゃったように、デザイナーや生産担当は分業制の中でお客さまに製品を届けるための最適解を日々導き出そうとしている。自分のようなサステナビリティ担当は社内の現状をヒアリングしつつ、お客さまに届ける道筋を作っているが、何を持って環境配慮なのかは学べば学ぶほど難しい。自社の環境配慮の定義を、ウォッシュを怖がらずに、お客さまに伝えるのは難しく試行錯誤している。ガイドライン制定の際には、こういった、すでに自主定義を設けている企業との情報交換も設けて議論を進めてほしい。
田上:わかりました。受け止めて議論を進めます。
参加者11:ガイドラインの中に、長く使えるための設計は入っているのか?「サステナビリティ」に関して、お客さんに対してはリサイクル素材を使った商品が伝えやすく、わかりやすい。だが、リサイクル素材はCO2排出を伴うから「長く使える」方がいいと思う。我々は「定番を長く売る、長く着る」ための商品開発に注力しており、リペア、リセールなどを推進している。
田上:(ご指摘のように)CO2排出量が一番少ないのは、長寿命化であり、まず推進していくべき取組は、長く使ってもらうこと。その上で、反毛を含めたマテリアルリサイクル、それでもどうしても残るものはケミカルリサイクルとしていくのが理想。古着市場などの二次マーケット作りと併せて検討すべき。長寿命化が重要であることのメッセージは、ガイドラインに盛り込む。
参加者12:長寿命化できても消費者の考え方が変わらない限り、来年には新しいトレンド、新しい商品を欲しくなる。そのように楽しみたいと思う自分自身もいる。新品が次々2次マーケットに流れるだけでは意味がない。そういう文化の醸成が必要なのでは?
田上:長寿命化を含め衣料品のサステナビリティをどう確保していくかの教育等については、消費者庁において進められている。
参加者13:教育は変わってきていると思う。子どもが図画工作で余った材料でお守りを作ってくれた。ゴミでも人の思いが入ると豊かになる。
参加者14:2次マーケットの政策を検討とは具体的に?
田上:衣料品の2次マーケットづくりの政策は今後検討していく。ご意見を聞きながら、進めたい。
商業施設における不用衣類の回収の壁は自治体ごとに異なるルール
参加者15:商業施設が資源循環に関わる方法をどう考えるか。消費者との接点は強みだが、自治体によっては廃棄物処理法に引っかかるため回収ができない。年間49万トン廃棄されている衣料品の、46万トンは家庭からと聞いたので、そこをどういうふうに改善していけるか意見が欲しい。
田上:廃棄物処理法における「専ら物」の解釈は、環境省においても問題意識を持ちながら、自治体におけるグットプラックティスの整理などを行っている。手放された服をどう循環させるか仕組み作りは、環境省などと進める。
参加者16:不要衣類の回収について。消費者に衣類を店に持ってきてもらうためには動機づけが必要。企業がインセンティブを出すことに対しての判断や解釈が自治体ごとに異なるから一本化してほしい。また、衣類は複数素材が混紡されている製品のリメイクをする際の品質表示が難しく、現状はルールも厳しいため単一素材に仕分けてからのリメイクし実現できていないのが悔しい。リメイク、アップサイクル製品の販売をしやすい環境を整えてほしい。
田上:インセンティブの付与に係る古物商資格に関しては十分把握していなかったので、まずは自治体の状況について把握したい。衣料品の品質表示については消費者庁の管轄であるが、具体事例を御紹介いただきたい。
産地が元気になる政策のアイデアとは?
田上:日本の繊維産業は歴史があり、ファッションは人の個性を表す大切なものであるので、しっかり残していきたい。産地が元気になるような政策やアイデアがあれば教えてほしい。
参加者17:一つは、サステナブルに関する認証取得の財政サポートだ。せっかく再生技術を持っているのに資金不足で認証が取得できない企業がある。アパレルとしては海外で販売するには認証素材が必要で、結果、中国製素材に切り替えざるを得ないことがあった。
田上:中小企業を対象にした補助金があり、GRSやGOTSなどを取得するための設備投資等も支援できる。
参加者18:認証制度はかなり抜け穴が多い。認証機関によって意見が異なり、一企業が抗議をしても相手をしてもらえない。認証をしかるべき目的を果たすためのものに変えなければ。
田上:イニシアティブ等によって監査要求事項が違うため、認証団体が認証する項目等は違う。現場の中小企業が「監査疲れ」を起こさないよう、対応について議論しているところ。外国人技能実習生の人権・労働環境の適正化をきっかけとして、監査要求事項を策定中であり、うまく仕組みを作りたいと思っている。
参加者19:技術者や教育現場の充実が重要だ。ファブシティの中で、その技術を広める人たちが足りていない。土地の特色を生かした日本らしい文化、地産地消の技術はこれからの日本の強みだと思う。