このブランドに周囲が期待するものを全部携えて「クロエ(CHLOE)」が戻ってきた。新クリエイティブ・ディレクター、シェミナ・カマリ(Chemena Kamali)が就任した「クロエ」2024-25年秋冬コレクションのフィナーレにはそんな、安堵とも取れる空気が流れた。カマリによるディレクションは明快で、パリらしさ、フェミニニティ、軽やかなホーボーシックなど、多くの人が思い浮かべるブランドイメージをふんだんに取り入れたもの。アクセサリーもかつて一世を風靡した“イットバッグ”をアップデートするなど、わかりやすく素直な選択だ。
バックステージのムードボードには、セピア色の「クロエ」のアーカイブ写真や、ブランドを彩ったアイコン女性たちの写真がびっしりと飾られた。コレクションはそのムードそのままに、創業者のギャビー・アギョン(Gaby Aghion)に始まり、メゾンを大きく飛躍させたカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)、その後続いたステラ・マッカートニー(Stella McCartney)、フィービー・ファイロ(Phoebe Philo)といった歴代の「クロエ」のデザイナーたちのエッセンスが随所に見られた。
「クロエに戻ってくるのはとても自然なことで、まるで新しいスタートのために故郷に帰ってきたような気分」というカマリの言葉に説得力があるのは、彼女自身のキャリアがここ「クロエ」でスタートしているから。ビッグメゾンを任された大役にも気負うことなく、これまで自分が見てきたもの、作ってきたものを2024年流に取り入れている。
「大切にしたのはメゾンにおける自由の精神、女性のエネルギー」と語るコレクションのベースは1970年代後半のムード。空気をはらむ柔らかなシルクやレースのブラウスに、裾を切りっぱなしにしたデニム、フリンジを飾ったレザーのコートに、ヴィンテージゴールドのアクセサリーなど肩の力が抜けた自然体で女性らしいアイテムがそろう。スモーキーで柔らかいトーンのカラーパレットもまた実に「クロエ」らしい。若々しい印象だが、フロントローにずらりと座ったシエナ・ミラー(Sienna Miller)、ジェリー・ホール(Jerry Hall)、リヤ・ケベデ(Liya Kebede)といった90年代、2000年代を彩ったアイコンたちが今着てもまた似合う。
「クロエ」が忘れてはならないのが、前任者、ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)が推し進めたサステナビリティの取り組みだ。リサイクル素材使いといったクリエイション面に加えて、貧困地域の女性支援を目的とした手仕事の採用やBコープ認証を取得するなど企業のあり方を含めてアグレッシブにサステナビリティに取り組み、業界を牽引してきた。新生クロエのビジネスにおけるサステナビリティ方針の詳細は明らかにはされていないが、ショー後のインタビューで「サステナビリティに関する考え方は?」とカマリにたずねると「継続する」と即答。「ここ数年、『クロエ』は大きな功績を残してきて、それはビジネス、仕事の進め方に浸透している。環境負荷が低い素材使いや、私たちの価値基準に沿ったサプライヤーやパートナーと取り組みなど、基本的に全て継続する。本当に、信じられないくらいの成果を出しているから」。毛皮に見える素材は人工ファーを使用したという。今後は取り組みをどうアウトプットするのか、また新しい考え方や技術が次々登場しているサステナビリティだけにどうアップデートを続けるのかが注目だ。