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オンラインMTGのフィルターに負けないファンデ&リップで回復を狙う「M・A・C」事業部長 ライバルは、AI?

PROFILE: YK・リー/「M・A・C」事業部長

YK・リー/「M・A・C」事業部長
PROFILE: 韓国生まれ。2001年に梨花女子大学校を卒業。マーケティング領域で20年の経験を持ち、マーケティング戦略やイノベーション開発、キャンペーン企画などに携わってきた。02年、石けんを中心とする韓国の中堅財閥・愛敬グループでキャリアをスタートする。07年から10年、ソウル・チョンノグのマクドナルドでコア・メニュー・ブランド・マネジャーを務め、経営の50%の責任を受け持つ。日本の外食チェーン企業のすかいらーくやジョンソン・エンド・ジョンソンを経て、23年エスティ ローダーに入社し、現職 PHOTO : YUTA KATO

エスティ ローダー傘下の「M・A・C」は今年、ブランド設立40周年を迎える。そもそも「M・A・C」は、“メイクアップ・アート・コスメティックス”の頭文字を取ったもの。プロのメイクアップアーティストがカナダ・トロントで設立し、専門知識を強みにメイクアップとスキンケア商品を開発する。“すべての年齢、すべての人種、すべてのジェンダー”を信条に掲げ、ダイバーシティーやジェンダーフリーが叫ばれるようになるはるか前から、多様性と個性を尊重する商品を世に送り出してきた。現在同ブランドの日本における事業部長を務めるYK・リー(YK Lee)は、コロナ禍を通して大きく変化した消費動向と向き合い、「M・A・C」のさらなる成長戦略を練っている。3月に着任1年の節目を迎えたリー事業部長に、「M・A・C」の強みや日本でのビジネスなどについて聞いた。

WWDJAPAN(以下、WWD):事業部長着任後の1年間でどのようなことに取り組んだ?

YK・リー「M・A・C」事業部長(以下、リー):コロナ禍以降、大きく変化した消費動向に応じた商品開発に取り組んだ。コロナ禍は人と会う機会が少なく、オンラインではフィルターに頼れるのであまりメイクをしない人が多かった。一方コロナ禍が明けると、以前のようにまた人に会う機会が増え、人々は自己主張・自己表現をする機会を楽しんでいる。そこで対面で会うときにも、フィルターのようにふんわりした肌をかなえられるリキッドファンデーション“スタジオ フィックス フルイッド SPF25”[SPF25・PA++](全16色、各30mL、各7260円)を開発した。マスクを外せるようになったので、リップスティックの新作“マキシマル シルキー マット リップスティック”(全25色、各4620円)や“グロー プレイ テンダートーク リップ バーム”(全7色、各3960円、7月5日発売予定)にも注力している。

WWD:これまでのキャリアをどう生かしている?

リー:これまで情熱を傾けてきたのは、課題のあるブランドをV字回復させること。成功したときの達成感には、中毒性がある。前職は、外資企業が買収した日本のブランド。親会社の意向と日本独特の文化が折り合わず、売り上げが落ちていた。そこでは、美容エディターや美容賢者らが愛用しているのに認知度が低い商品でテレビCMを打ち、改めて認知度を高め、売り上げを伸ばした。マーケティング領域での20年の経験を生かし、「M・A・C」もさらに成長させたい。

WWD:事業部長に着任した当時は、「M・A・C」も伸び悩んでいた?

リー:カラーメイクアップを主軸とするブランドはどこもあまり好調ではなかったので、声が掛かったときは悩んだ。しかし私自身、リップスティックをはじめとする「M・A・C」の化粧品を使っており、愛着のあるブランドだったので、挑戦してみたいと思った。

WWD:日本の現在の商況は?

リー:日本はリップとファンデーションが好調で、世界でトップ10に入る国だ。日本のお客さまは、買い物における失敗を恐れる傾向が強い。だからこそブランドスイッチが起こりづらく、同じ商品が長く愛されている。メイクアップに関しては、ビフォー/アフターをガラッと変えるものよりも、自分らしさを生かすものが人気だ。

WWD:今後のビジョンは?

リー:韓国コスメやプチプラブランドなど、手頃な価格でメイクアップを楽しめる選択肢が増えた。「M・A・C」だけが持つアーティストリーやストーリーを生かし、品質のさらなる向上に取り組むつもりだ。直近の新商品“グロー プレイ テンダートーク リップ バーム”や“グロー プレイ クッショニー ブラッシュ”、“スタジオ ラディアンス セラム ファンデーション”、“スタジオ フィックス フルイッド SPF25”などはスキンケア成分を高配合し、メイクアップブランドでありながらスキンケア効果にも注力して開発している。また、マイクロプラスチックの使用量を削減し、最先端の技術にこだわって製造している。「M・A・C」の品質の高さを、より訴求していきたい。

改めて「M・A・C」というブランドについて

WWD:「M・A・C」の強みは?

リー:専門家による卓越した技術だ。メイクアップアーティストがお客さまに寄り添って、メイクアップの楽しさを教えたり、悩みを解決したりする。コロナ禍では美容部員の接客に制限が多く、自信をなくしたり、スキルを伸ばせなかったりなどの課題を抱えていたので、事業部長着任後すぐに美容部員の教育チームを強化した。店舗での接客やメイクアップ技術のトレーニングなどを行っている。

また、以前は店舗間のつながりが強かったが、コロナ禍には距離が生まれてしまっていた。コミュニケーションの活性化を目指し、今年は全てのリテール・マネジャー(全国の「M・A・C」カウンターの店長)が対面で集まれるイベントを開催する予定だ。

WWD:「M・A・C」を通してどのようなメッセージを届けたい?

リー:「M・A・C」は、“すべての年齢、すべての人種、すべてのジェンダー”を重視している。今でこそダイバーシティー&インクルージョンは当たり前になったが、ブランドが誕生した40年前から、この価値観を貫いてきたことを誇りに思う。全ての女性と少女の平等な権利と、健康で安心な未来をサポートするビバ グラム基金は、「M・A・C」の価値観を象徴する。売り上げは100%、女性や少女、LGBTQIA+、HIV・エイズとともに生きる人々の支援に充てている。創設以来、世界で総額5億ドル(約780億円)以上を寄付し、今も増え続けている。

店の売り上げにならないので開始当初は百貨店の反発などもあったと聞いているが、「M・A・C」の価値観を根気強くコミュニケーションすることで理解してもらえた。現在は全ての百貨店で受け入れられ、積極的だ。6月には“ビバ グラム リップスティック”をリニューアルし、「M・A・C」のメッセージをさらに推し進める予定だ。

WWD:「M・A・C」の脅威は?

リー:日々進化しているAIだ。フィルターをつけるだけで、メイクの必要がない。メイクアップという行為自体を消し去ってしまうほどの力があるかもしれない。現在では人が提案するようなテクニックも、AIが提案する時代が来るだろう。だからこそ、教育・接客をさらに強化したい。

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