「WWDJAPAN」ウイークリー(紙面)2月12日号は「デスティネーション化する地方セレクトショップ」と題し、北海道から熊本まで22店舗を取材した。都市部では味わえない濃密な接客や、オーナーのこだわりをダイレクトに映した世界観、顧客と共に作り上げるコミュニティーなど、各ショップが支持される理由も複数掲載した。読者や顧客から多くのリアクションをもらい、デジタル(WEB)では、これを継続・連載化する。
1点アレンジするのは、デザイナーの声を反映させること。心血を注いだクリエーションを卸す先には、デザイナーの意志も強く働く。そこで、デザイナーが考える「この店のここがすごい!」を聞き取り、現地を取材。
第1弾は森永邦彦「アンリアレイジ(ANREALAGE)」デザイナーが推す、長野県松本市の「セルティ」だ。
オーナーの熱量 この店のここがすごい!01
「セルティの宮下慎司オーナーは、かつて松本にあった『アンリアレイジ』をデビュー2シーズン目(2004年春夏)から買ってくれていたセレクトショップ『ロネ』で働いていて、11年に自身のショップをオープンしてからも関係は続き、もう16年の付き合いです。
宮下オーナーのすごいのは、信念がぶれないこと。ストイックというか。展示会には必ず本人が来てくれて、全ての服を試着をするんです。バイヤーとして当たり前といえばそうかもしれませんが、なかなかできることではありません。
また、バイヤーはシーズンごとに買ったり買わなかったりするものですが、宮下オーナーは個人オーダーを含めて『アンリアレイジ』を買い続けてくれています。15年春夏シーズンにパリコレデビューした際も、とんぼ返りで観に来てくれました。そんなアクションの1つ1つに彼の“覚悟”が見えるし、だから僕も倍の熱量で返さないと失礼だと感じています。
店名のセルティは、Selfish(わがまま)をもじった造語です。良い意味でわがままを貫き通しているからこそ、多くの顧客が彼をフォローするのだと思います」。
圧倒的顧客目線 この店のここがすごい!02
「宮下オーナーは、コレクションごとに僕に熱い言葉を贈ってくれます。そこには顧客の声も含まれます。同時に、展示会や僕から受け取った熱を、彼らに伝えてくれています。
作り手としては当然励みになり、なんとか応えたくなります。そんなわけでセルティとは(ほぼ)毎シーズン、別注商品を製作しています。今季は“ポケット”(1万3200円)を作りました。持ち込みを含めて、好きな服やバッグに取り付けてもらいました。
別注商品の中には50万円近い高価なものもありますが、セルティだと売れるんです。オーナー自ら購入・着用して接客するから説得力があるし、顧客の声が反映されたものなので、特別感を感じてもらえているのかと」。
一緒に挑戦したくなる この店のここがすごい!03
「セルティの“わがまま”に応える形で(笑)、今年1.5×3.5mの“絵画”を3カ月かけて製作しました。アーカイブのさまざまな素材の黒い生地を使ったパッチワーク作品で、よく見るとセルティのロゴが隠れています。『アンリアレイジ』としてこういったスペシャルオーダーを受けたのは、後にも先にもセルティだけです。
セルティの顧客の中には松本からショーを観に来てくれる人も多く、やっぱり応えたくなる熱があるんですよね」。
■セルティ
時間:11:00〜18:00
定休日:水・木曜日
住所:長野県松本市中央2-5-13 2階
森永デザイナーからのラブコールを受けて
「人生が変わる服か否か?——僕がバイイングする際の唯一のポイントです。その点、『アンリアレイジ』は間違いなく“人生が変わる服”であり、前職のロネから継承した数少ないブランドです。
森永さんからは手紙のほか、藤子・F・不二雄の漫画をもらったり、子ども宛てにギフトをいただいたり、その全てにメッセージがあると思っています。同志として認められ、世界観を共有してもらっているというか。ですから今回、全国から1店に選んでいただき大変光栄ですが、なんとなくそうしてくれるだろうなと思いました(笑)。経営的に厳しい時があったり、コロナ禍があったり、セルティも決して順風満帆ではありませんでしたが、『アンリアレイジ』があったから乗り越えられたのだと心から感じています」。
PHOTOS : NORIHITO SUZUKI