ファッション

元「パープル」「ル・フィガロ」クリエイティブ・ディレクター、クリストフ・ブルンケルが実践するクリエイティブのテクニック

PROFILE: クリストフ・ブルンケル/クリエイティブ・ディレクター

クリストフ・ブルンケル/クリエイティブ・ディレクター
PROFILE: 表現活動はアーティスト、クリエイティブ・ディレクターとして多岐にわたる。23年9月にピカソ美術館で開催されたピカソ没後50周年記念展のアーティスティックディレクタに就任。自身のアート作品を「Le Consortium」等多数のギャラリーで毎年発表。ソフィ・カルなどアーティストのアート・ディレクションも手掛ける。24年7月にアートブック「ラ・ギャー・ドゥ・フ(LA GUERRE DU FEU)」を発表した

パリを拠点とする現代アーティストのクリストフ・ブルンケル(Christophe Brunnquell)が、KOMIYAMA TOKYO Gにての日本初となる個展「フレンチ:メ・ウィ(French: Mai Oui)」を開催し、最新アートブック「ラ・ギャー・ドゥ・フ(LA GUERRE DU FEU)」を発表した。

クリストフはフランスのカルト的ファッション・カルチャー誌「パープル(PURPLE)」と「ル・フィガロ(LE FIGARO)」の全ラグジュアリー部門という、一見アンビバレントな立ち位置でクリエイティブディレクターを15年ずつ務めた人物である。さらにクリエイティブディレクションと並行し、絶えず自らの実験的な創作活動を継続しており、コラージュ、絵画、彫刻、家具デザインなど、ジャンルレスに展開される作品群は膨大な数に上る。

今回はその一部、2008年から23年の15年間にわたって、身体をキャンバスの延長として捉え肌にペイントしたグラフィティーとインスタレーションを組み合わせた作品をフランス人フォトグラファーのエステル・ハナニア(Estelle Hanania)が撮り下ろしたコラボレーション写真集をKOMIYAMA TOKYOより出版した。

個展の開催に際して来日したクリストフに超現実的な表現の背景や最新プロジェクト、若い世代へのメッセージなどを聞いた。

ディレクション経験とイメージの蓄積によってスピードを増し、一層研ぎ澄まされる即興表現

――前衛的ファッション・カルチャー誌「パープル」と伝統ある全国紙「ル・フィガロ」、いずれもフランスを代表するメディアで各15年ずつクリエイティブディレクションに従事されていました。環境や読者層が異なる媒体での経験を踏まえ、アートやファッションをジャーナリズムとして発信するにあたり、重視されていたことを聞かせてください。

クリストフ・ブルンケル(以下、ブルンケル):創作活動、特に雑誌や写真集の制作にはライブ感が重要です。通常、本やアートブックの制作にはもっと時間をかけますが、私の場合は雑誌のようにスピーディに作るんです。そのために必要なイメージの蓄積として、長年ポートフォリオを作り続けてきました。

メディアの特色として「パープル」はパンクでクリエイティブ、「ル・フィガロ」はクラシックだと思われがちですが、実際両者の間にそれほど違いはありません。あえて言えば「ル・フィガロ」の方が多少表現がストレートでしょうか。

ただし、メディアを取り巻く環境の違いはあります。「フィガロ」は“現実“を扱い、クライアントや広告が存在し、記事の内容や写真撮影についてコントロールしなければならない点もあります。メディアの規模が大きいため、プロジェクトはスローペースで進みます。

一方「パープル」は“白紙委任状“のようなもの。アーティストと協働し、彼らに自由な創作の場にしてもらうことを楽しみながら、スケートボードのようにスムーズな疾走感を伴って進行します。

私の場合「パープル」からキャリアが始まりましたが、アンダーグラウンドは10代の若さのエネルギーがなし得ること。一生このフィールドにいることはできません。イギー・ポップ(Iggy Pop)のようにアンダーグラウンドから始まって商業のフィールドに進んでいくのは普通のことでしょう。

自分自身のアート表現は常にアンダーグラウンド的ですが、クリエイティブディレクターという仕事の性質は違います。「ル・フィガロ」で働けば働くほど、このバランスを保つために自らのアート表現を発展させてきました。

――コラージュ作品は「不快感」がテーマでした。今回発表されたフォトプリントも、現実から乖離したような不穏さやグロテスクに近い強烈なインパクトが脳裏に焼き付けられますが、どのようなテーマで創作されたのでしょうか。また、肉体をキャンバスの延長として捉えることをはじめ、写真家やモデルとのコラボレーションによって、コラージュ作品とは異なる表現に挑戦した点を教えてください。

ブルンケル:今回展示しているコラージュ作品は私がこれまで「フィガロ」のオフィスで制作したものです。パリのオフィスでは、机上に毎日置かれるたくさんの新聞の中に豊富な素材があるので、コラージュを作っていたんです。普段は昼食を取らず、ランチタイムを制作の時間に充て、毎日3、4枚のコラージュを制作していました。

フォトプリントのシリーズは、ファッション写真家のエステル・ハナニアと15年ほど継続して取り組んできたプロジェクトで、今回その作品をまとめて「ラ・ギャー・ドゥ・フ」という作品集を作りました。「ギャー・ドゥ・フ」(邦題「人類創生」)という先史時代を描いた残虐で滑稽な映画からインスピレーションを受けたものです。

ベースはコラージュと同様の考え方で、そこに身体表現を組み合わせることでどのような効果が生まれるか、実験的に取り組みました。

私は「メイクアップ」に非常に興味があります。肌に絵を描き、顔を創る行為がとても楽しいんです。紙に絵を描く行為は非生命を扱うこと。紙からのフィードバックはありません。対して身体や顔はよりインタラクティブな存在です。

作品はすべて即興で作っています。私はファッション、アート、コラージュを一種のレクリエーションであると考えていて、この作品でもエステルやモデルのエルガとのコラボレーションを心の底から楽しみました。

――アート創作やディレクションにおいて、自分自身を「不快な状態」に置き、自動書記的に思考するより前に手を動かすスタイルを実践していると伺いました。この姿勢はどのように構築されたのでしょうか。

ブルンケル:フランソワ・トリュフォーの「ランファン・ソヴァージュ(L’Enfant Sauvage)」(邦題「野性の少年」)という映画が大好きで、主人公の少年の精神や感覚にアイデアを得ています。彼は野生味にあふれ、汚れていて、自由です。私自身いつも散らかったカオスな場所で仕事をしているので、この少年の感覚に近いと思います(笑)。

ドローイングを描くときは自分の思考よりも速く手を動かす。年齢を重ねる毎に仕事が速くなり、表現も即興に近付いていきます。若い時は比較的頭も使って仕事をしていましたが、40歳を過ぎてからはより体を使って仕事をしていると感じています。

写真家のグレゴワール・アレキサンドル(Gregoire Alexandre)と制作した作品集「>°GuΣ」も即興表現です。「ヴォーグ(VOGUE)」の20年分のアーカイブを使用したイメージを作り、それを撮影したフォトプリント作品によって構成されています。表現手法はコラージュに近いですが、イメージは全て撮影中にその場で作りました。何も事前準備しない。私はこういう手法やそこで発揮されるエネルギーが大好きなんです。

現在進行形のプロジェクト、機能を有するアートとしての家具デザイン

――あなたが「パープル」で活動していた時期と現在では、雑誌やアート、ファッションを取り巻く環境が変化しています。今、カルチャーやアートに携わる若い世代に伝えたいことはありますか?

ブルンケル:カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、「理想的な人生とは自分の世界を作り、その中心になることだ」と言っています。自分で雑誌を制作することもその1つです。

編集長が自らコンテンツを作り、少人数のチームで運営されている雑誌は、クリエイションに集中できるので理想的だと思います。ギリシャを拠点とする「ケネディ マガジン(Kennedy Magazine)」という非常に優れた雑誌がありますが、編集長のクリス・コントス(Chris Kontos)がすべての写真を撮影しています。「パープル」の創始者オリヴィエ・ザーム(Olivier Zahm)も、現在同誌の写真の多くを自ら撮影しています。

現代の雑誌はより社会に近づいていて、クリエイティブでもあり、以前よりも人々にとって魅力的なものになっています。新しい世代がファッションに夢中になるのもそのためです。

私は若い人たちに、インターネットを使ったメディア制作が主流の時代にあっても、紙媒体のアイデアを持ち続けることが大切だと伝えたいです。

雑誌を出版することと、インターネットやSNSで発表することとの違いは何か。雑誌を印刷するのであれば、細心の注意を払い、非常にレアでオリジナリティーにあふれたものを作らなければなりません。

例えば半年に1度、600ページの雑誌を作るには、毎日3枚の写真をストックしなければならない。毎日小さな奇跡を起こすんです。そうすれば半年後には特別な雑誌を印刷することができる。若い人たちには、ぜひこの方法で何かしら創ってみてほしいです。

――今後の展開として、自身の家具ブランド、「クリストフ・ブルンケル・モビリエ(Christophe Brunnquell Mobilier)」を設立される予定とのことです。すでに発表されているデザインはキュビズム彫刻を彷彿とさせるような質量とフォルムで、巷にあるプロダクトデザインとは一線を画する存在感です。家具デザインはあなたの創造活動においてどのような立ち位置にあるか教えてください。

ブルンケル:家具とは“何かに機能を与えるもの“だと思います。ファッションデザインも同様で、服のデザインは服以上のものを表現しなければならない。アート作品のようでありながら、服としての機能も備えている。そして機能を与えれば与えるほど意味を得る。

私にとって家具のデザインは彫刻のイメージに近いですね。自身のドローイングや抽象画にボリュームを与えて具現化する。家具と彫刻の境界で遊んでいるようなものです。

ブロンズを使って制作し、あるスイッチを押すと、その彫刻がコーヒーテーブルになったり、サイドテーブルになったり、ベンチになったりします。アンティークのような美的かつ歴史的な価値のある質感やフォルムが重要で、モダンという発想はありません。

コラージュのような即興とは正反対で、家具の製作には6〜9カ月ほどの長期間を要します。200枚ほどスケッチを描くこともあります。

家具の仕事は続けるつもりで、今後は日本の職人たちと木彫りの家具を作るプロジェクトも予定しています。

PHOTOS:KAZUO YOSHIDA
INTERVIEW:AKIO KUNISAWA
TRANSLATION:TOBY REYNOLS

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