PROFILE: 小川光芳/ウエルシア薬局取締役商品本部長
国内最大規模のドラッグストアチェーン、ウエルシア薬局は2024年2月期の売上高が1兆195億円、ビューティ領域の売り上げのシェアは15.7%と、化粧品業界のドラッグストアチャネルを大きくけん引する。2月末時点で2199店舗を展開するウエルシア薬局の小川光芳取締役商品本部長に、得意とするプレミアムヘアケアブランドやプライベートブランド(以下、PB)などビューティ領域の戦略を聞いた。
WWD:ウエルシア薬局において、ビューティ領域はどのような位置付けか。
小川光芳ウエルシア薬局取締役商品本部長(以下、小川):ウエルシアグループでは2030年に「地域No. 1の健康ステーション」になることを目指している。お客さまが健康で美しく、楽しく、をモットーに取り組み、健康において欠かせない医薬品はもちろん、美しくありたいという気持ちをサポートするためビューティ領域は重要なカテゴリーだ。食品や雑貨も主力ではあるが、昔から薬局という業態だったことからヘルス&ビューティに注力してきた。化粧品の売り上げシェアは15.7%(24年2月期)を占めており、堅調に推移している。
WWD:好調なカテゴリーやアイテムは?
小川:メイクアップが復調しているほか、スキンケアも伸びている。スキンケアではシートマスクの伸び率が非常に高い。「ルルルン(LULULUN)」や「クオリティファースト(QUALITY 1ST)」“ダーマレーザー”シリーズなどがけん引して、これまで設けていなかった常設の棚を新店ではゴンドラ3台分設置している。特に日常使いのできる大容量のものの動きが良い。また、毛穴ケアを訴求する商品が好調だ。コーセーの高効能ブランド「ワンバイコーセー(ONE BY KOSE)」の“クリアピール セラム”“ポアクリア オイル”などを筆頭に、男性の購入も増えている。「成分美容」の波が来ていて、「毛穴ケアにはビタミンC」など、認知も広がっている。
「無言の販売部員」ポップによる「お客さまが買い物に失敗しない」売り場作り
WWD:成分買いのニーズに応えるためにどのような施策をしているか。
小川:ウエルシアの四大方針の一つにカウンセリング営業がある。しかしそれができない状況に合わせて店頭ではポップでカバーしている。これまでは手書きだったがどうしても手間がかかってしまうため、現在は本部で薬機法のチェックも併せて制作している。対応している成分はビタミンCのほかにもヒアルロン酸やアゼライン酸など数えられないほど。特にシートマスクやスキンケアは成分を書いていないと伝わりづらいので表記している。
WWD:ポップを活用した取り組みは奏功しているのか。
小川:消費者の得られる情報が増えている中、カウンセリングの代わりとしてポップが無言の販売部員になっている。この流れはお酒や食品にも及んでいて、産地や原料を記載している。おでんにはカロリーをポップで表記し、プロテインなどの商材も詳しく明記する。コンセプトである「お客さまが買い物に失敗しない」売り場作りが軸になっている。キャプションが多かったり細かすぎたりすると読まない。社内でもポップのデザインの規定を設けて分かりやすさにこだわっている。
WWD:デジタルでの施策は?
小川:メーカーと従業員が商品を紹介するウエルシアテレビという取り組みがある。1カ月かけて同じブランドを紹介したり、デジタルサイネージで訴求したりする。この取り組みの有無で売り上げに倍以上の差が出てくる。特に新商品はいち早く知ってもらうことが鍵だ。
「プレミアムシャンプーといえばウエルシア」な豊富な品ぞろえ
WWD:コロナ禍を経てヘアケアカテゴリーの注目も高まってきた。
小川:ウエルシアでは1700〜1800円前後のプレミアムシャンプーが好調だ。「ボタニスト(BOTANIST)」がシェアを取り始めた19年ごろから市場は盛り上がりを見せているが、ウエルシアはその前から先行して注力していた。今はプレミアムシャンプーの売り上げのシェアはウエルシアのシャンプー全体の6割を占める。その結果、多くのブランドでウエルシア先行発売を実施している。
WWD:プレミアムシャンプーを顧客に浸透させる施策は?
小川:1回使い切り分のサシェを用意すること。価格にハードルがある分、買って合わなかったら、と躊躇するお客さまもいる。しかしサシェを3つ使うと本体の購入につながるというリサーチ結果があり、3個パックを作って販売するなどしている。はじめはウエルシア側からサシェを作るように依頼していたが、今ではサシェがないと売れない傾向があるため、メーカー側がサシェを用意することが多くなった。
PBは新時代に突入 「クリーンビューティ」に果敢に挑戦
WWD:6月には新オリジナルヘアケアブランド「イッツ ワッツ インサイド ザット マターズ(ITʼS WHATʼS INSIDE THAT MATTERS. )」(以下、イッツ)を、7月には「からだウエルシア」から“集結!ほぼ植物の原液美容液”シリーズを発売した。PBの商況は?
小川:ウエルシアホールディングスのPBの売り上げは全体の8.4%を占める。26年度には10%まで拡大する計画だ。今はPB新時代に入った。価格訴求から品質重視への変化があり、今後はナショナルブランドとPBの垣根がより低くなる。品質に加えて多様性といったお客さまが求めるクオリティーを網羅しなければ、売れない、リピートされないと、変化していくだろう。
WWD:求められるクオリティーが上がっている。
小川:PBでは「クリーンビューティ」をコンセプトに掲げ、環境配慮やクルエルティフリーに取り組んでいる。全てのお客さまがクリーンビューティを重要視しているわけではないが、万人ウケを狙っても他のナショナルブランドと差別化はなされない。原料探しから処方まで自社で取り組み、OEMメーカーに全て委ねることもしない。だからこそ自信を持って販売している。また、ウエルシアでは日々お客さまの声を吸い上げて対応する。ホームページ上のお客さま投稿フォームから毎月1000件ほどのご意見があり、店頭のハガキやコールセンターの声も含め、AIで分析してコメントを整理し商品開発に生かしている。
WWD:今後注力するカテゴリーや施策は。
小川:トライアル品を活用した本体への引き上げ施策やSNSで販促を強化していく。得意とするヘアケア、そして機運が高まるアジアコスメの品ぞろえも充実させる。冒頭話したような「地域No. 1の健康ステーション」を目指し、「ウエルシアに行けばきれいになれる」と思ってもらえるような店作りと接客で他社と差別化を図りビューティ領域を拡大していく。