ファッション
連載 早稲田大学繊維研究会 ショーまでの道 第1回

同年代のファッション消費に違和感 “映え”じゃない思想ある服作りに挑む早稲田大学繊維研究会

PROFILE: 早稲田大学繊維研究会

早稲田大学繊維研究会
PROFILE: 1949年創立。約100人が在籍する国内最古のファッションサークル。卒業生には「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦、「ケイスケカンダ(KEISUKE KANDA)」の神田恵介をはじめとした多くのデザイナーを輩出。「ファッション業界を取り巻く現状に対して、ファッションを媒体として批評を行う」ことを活動の軸としており、その発表の場として、ルックのデザインから制作までの全てを部員自ら手掛けるファッションショーを毎年行っている

1949年創立の国内最古のファッションサークル、早稲田大学繊維研究会がファッションショーを実現させるまでの道のりを全4回の連載で紹介する。第1回は「ファッションが軽率に消費されているのではないか」と危機感を感じるという小山萌恵さんがコンセプト発案の背景について、代表の井上航平さんがコンセプトを落とし込んだルック撮影の裏側についてを語る。

軽率化するファッション消費に違和感
ショーを通じて「みえないもの」に焦点を当てる

WWD:ファッションショーのコンセプトを決めた背景は?

小山萌恵(以下、小山):今年度は「みえないものをみるとき」というコンセプトを掲げます。2020年以降コロナ禍を契機としたSNSの拡大、通信販売の普及により、発信するのも情報を得るのも、購入するのも誰もが簡単にできる時代となりました。そんな今、一つ一つの消費行動が軽率化しているように思います。特にファッションという分野において、その傾向は著しく、例えば“映え”るかどうかを判断基準に、安易に服を購入するといった人も少なくありません。ネオ・デジタルネイティブとも呼ばれる私たちの世代は、そんな時代の変化から顕著に影響を受け、また体現している世代と言えるでしょう。

WWD:そんな現状をどう捉えているか。

小山:目先の“映え”や安さに目を眩ませ、商品に込められた作り手の意図や生産に至る背景といった部分をおざなりにしながら、消費だけが独り歩きしている現状に危機感を感じています。本来、なぜ、どのようにしてそのプロダクトが生まれたのか、そんな「みえない」側面にこそファッションの本質は宿っているのではないでしょうか。このコンセプトはそんな思いから発案しました。

WWD:コンセプトの「みえないもの」は何を指すか。

小山:ファッションから視点を広げたさまざまなものです。例えば音楽を聴いて、知らないはずの情景を思い浮かべること。思い出の場所で、あの人ときたいつの日かを思い出すこと。いないはずの人の声が聞こえるとき。気配を感じる、感情を汲み取る、直観に導かれる。休符のリズム、余白の美学、行間の意図などです。

WWD:ショーを通じて何を伝えたい?

小山:私たちは日々の中でさまざまな“目には見えない何か”を知覚しながら生きています。表層のその先を見出す想像力を携えている私たちは、それがもたらす力の大きさを知っているはずです。今回のショーはその価値を再認識させるようなものにしたいです。そしてファッションへと視点を戻したとき、本質を捉えた消費のあるべき姿に立ち返る糸口となり得るのではないかと思うのです。

「ぼんやりとしていながらも澄んでいる」
ガラス張りの建築を探し求めたルック撮影

WWD:ショーの開催にあたり、ルックブックとオープニング映像の撮影をした。今年はどんなロケーションを選んだ?

井上航平代表(以下、井上):灼熱の太陽が照り付ける神奈川・江の島です。撮影場所を選ぶ際に重視したのが、①ガラス張りの建築物があるか、②視覚から爽やかな風を感じられるか、の2点でした。ぼんやりとしていながらも澄んでいる、そんな相反する2つのイメージを持つ今回のコンセプトをもとに、この2点を軸として撮影場所を決めました。

WWD:江ノ島のどんなエリア?

井上:江の島に入って左手、この時期でも比較的観光客の少ない穴場エリアに佇む湘南港ヨットハウスです。1964年、最初の東京五輪に合わせて建築し、2014年に流線型の屋根に全面ガラス張りの壁という現在の特徴的な姿に生まれ変わった建物で、思い描いていたイメージにぴったりでした。

WWD:撮影はどんなチームで行った?

井上:今回の撮影では、部員が制作した全7ルックを3人のモデルさんに着用してもらいました。スチール撮影をお願いしたのは、Kazuki Hiokiさん。ショー開演前に会場に投影するオープニング映像の制作は、今年度新たな試みです。こちらの撮影を巻嶋翔さんにお願いしました。以前は失礼ながらクリエイターと言えば寡黙、という勝手なイメージを持っていましたが、僕が繊維研究会に入部してからお会いしたカメラマンさんはHiokiさん、巻嶋さん含めてどなたも気さくな方ばかりで、被写体の自然な表情を作品にするには、単純なカメラ技術だけではなく、その明朗な人柄も重要なのだと気付かされました。

WWD:ヘアメイクはどのように手掛けたか。

井上:作品撮りにおいて衣装と同じくらいヘアメイクも重要です。ショーでもご協力いただくカプラスさんより3人のヘアメイクの方々にお越しいただきました。今回撮影の7ルック、どれも大幅なチェンジを要するヘアメイクだったのですが、タイトなスケジュールの中でそれぞれのルック制作者の要望を完璧にかなえてくださいました。

WWD:次のプロセスは?

井上:この先は、今回の撮影データを使用し、部員自らの手でルックブックのレイアウトや装丁デザイン、オープニング映像の編集を行っていきます。これほど多くの方々にご協力いただいただけに、データから感じる重みはとても大きいですが、この素材の良さに甘えず、最大限活かすことのできる作品作りを目指します。

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