ファッション
連載 韓国ドラマをおもしろくする脚本家たち 第1回

自由な精神を感じさせるストーリー作り「梨泰院クラス」原作者チョ・グァンジン

PROFILE: チョ・グァンジン/脚本家

チョ・グァンジン/脚本家
PROFILE: 大人気ドラマシリーズ「梨泰院クラス」原作者。22年に日本でも「六本木クラス」というタイトルでドラマがリメイクされている。「梨泰院クラス」の原作であるウェブ漫画も大ヒットしカカオページの「スーパーウェブトゥーンプロジェクト」の第1弾として発表され、連載当時(17~18年)に有料売上1位、総閲覧数2億2千万ビュー、平均評価は10点満点中9.7点を記録した PHOTO:KIM JINSU

第5次と呼ばれる韓流ブームが到来している。もはや一過性のブームではなくスタンダードであり、日本のZ世代の「韓国化」現象にもつながっているのは明白だ。その韓流人気をけん引してきた1つが韓国ドラマ。本企画では有名韓国ドラマの脚本家にスポットを当て、物語の背景やキャラクターからファッションに至るまでの知られざる話を紹介する。

まずは「梨泰院クラス」の原作者でドラマ化にあたり脚本も手掛け、ウェブトゥーンアーティストとしても進化を続けるチョ・グァンジンにインタビューを敢行。韓国と日本のドラマそれぞれの特異性から、新しい感覚と「自由」を追求する脚本作りへの思いまでを尋ねた。

――日本のドラマが好きだと伺いました。韓国と日本のドラマのそれぞれの魅力についてはどのように考えていますか?

チョ・グァンジン(以下、グァンジン):まず、感性の違いがあります。日本人は感情表現が豊かというイメージがあり、韓国人はもっと冷めた印象があります。言語や文化の違いもあると思いますが、以前の日本のドラマは韓国のものよりも話の展開が早かったですね。「リーガルハイ」や「半沢直樹」「天国と地獄 〜サイコな2人〜」から、漫画原作の「凪のお暇」などの漫画や小説が原作のドラマもたくさん見ました。「リーガルハイ」は韓国でもリメイクされ、演技派の人気俳優が出演したものの、日本版の評判が高く、どちらかというと韓国版は失敗に終わりました。この点においても日本と韓国の感性や文化の違いがあると感じます。

その違いの1つは、キャラクター性。日本にもさまざまなテイストの作品があると思いますが、感情を全面に出す登場人物たちを見て、そういったキャラクターが許容される土壌があるのだと思いました。最近、韓国では“オグルコリンダ(오글거린다)“という言葉が新しい口語として、ネット辞書に加えられるほど頻繁に耳にします。元々は湯がぐらぐらと沸き立つ、小さい虫などが1カ所に集まりうごめくという意味なのですが、今は激しい感情表現や熱く何かを語る人を冷笑する時に使われます。そういった、他者を揶揄する言葉や社会の目線に対する作家たちの思想のようなものが、韓国の脚本には反映されていると感じます。ある意味で洗練と言えますが、冷たい印象を与えることに対して疑問に思うこともあります。一方で日本の作品には、そうした他者の視点やシニシズムによって、気分や感情表現が抑制されないイメージがあります。

ドラマの構成の違いについては、以前の日本のドラマは10話程度で完結する作品が多かったと思いますが、韓国はもう少し長く16話程度ありました。ただ最近は、OTT(動画配信サービス)などの影響で、韓国ドラマも8〜11話とストーリーの数が少ない作品も増えています。

――「梨泰院クラス」のキャッチコピーは“根性と血の気に満ちた若者が、理不尽な世の中で巻き起こすヒップな反乱“。ファッションも大変な話題を集めました。脚本を書く上でファッションはどのように考えていますか?

グァンジン:「洗練されている」「他とは違う個性的な強さ」「若さを感じる」。これらの意味を包括的に兼ね備えているものだと思います。ファッションはキャラクターの性格や志向が現れるものであると同時に、自分のアイデンティティーを表現するものです。「梨泰院クラス」の主人公パク・セロイの場合は、男性的な坊主頭に、韓国の軍隊の人たちが着るようなミリタリーアイテムを着せてマッチョなキャラクターを際立たせました。漫画の原作がある場合は、多くのファンたちに「イメージが違った」という思いを抱かせたくないですから、原作に忠実な衣装選びをすることが多いです。あと、キャラクターを書き分ける意味で、一番目立つ部分であるヘアスタイルやヘアカラーは特に重要視しています。原作がない作品の場合は、自分で衣装を考えることもありますが、ほとんどの場合は衣装チームや俳優たちと話しながら決めています。

――作品を作る上で、韓国の20〜30代前半のMZ世代を意識されますか?

グァンジン:MZ世代には「正直」「若々しい」「自分の意見をしっかりと主張する」というイメージがある一方で、上の世代からは「自己中心的な行動をとる」「社会性に欠ける」というマイナスのイメージを持たれることが根強くあります。ですが、私はMZ世代に対してマイナスのイメージをも持っていないですし、社会性に欠けるような行為も見たことがありません。自分自身は30代後半ですが、若い世代と大きなマインドの違いがあるとは正直思っていませんので、特定の世代を意識した物語を作りたいとは考えませんし、自分が見たいと思う物語を描いています。

――ご自身が見たいと思う物語はどのようなものですか?

グァンジン:自分が見たいものと多くの人たちが見たいものものが合えばヒットもするので1番良いのですが、なかなか難しいですね。私が人間にとって一番大切な価値観は“自由“だと思っていますので、見ている人たちが自由を感じる、あるいはそういった感性に響くような物語を描いているつもりです。その意味で最近、1番楽しかった作品は日本の漫画「進撃の巨人」です。

――自由の定義を教えてください。

グァンジン:人は誰しも社会に属しているため、どうしても他人に気を遣ったり、関係性を意識せずには生きられません。そういった部分を大前提として、他人を傷つけることは避ける。一方で家族や親友、周りの人達に気を配り過ぎてがんじがらめになって生きるのではなくて、本当に自分がやりたいことに集中できる状態こそが自由なのだと思っています。

――最後に現在進行中のプロジェクトについて、教えてください。

グァンジン:1、2年後に公開を予定しているドラマが2つあります。1つは「マエストロ」で、テレビ局のプロデューサーがドラマを作っていくという物語です。もう1つ、アメリカ人の女性作家ジーン・ウェブスターの小説「あしながおじさん」に着想を得た「足長悪魔(キダリ アンマ)」の制作も進んでいます。「あしながおじさん」のおじさん役を悪魔に変えています。闇金で働く主人公の悪魔が、暗躍しながら心が折れてしまった債務者の女性を陰で助けていく物語です。

TRANSLATION:HWANG RIE
COOPERATION:HANKYOREH21,CINE21,CUON

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