毎週発行している「WWDJAPAN」は、ファッション&ビューティの潮流やムーブメントの分析、ニュースの深堀りなどを通じて、業界の面白さ・奥深さを提供しています。巻頭特集では特に注目のキーワードやカテゴリー、市場をテーマに、業界活性化を図るべく熱いメッセージを発信。ここでは、そんな特集を担当記者がざっくばらんに振り返ります。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月2日号からの抜粋です)
林:最近、いろいろな取材先で「港区の購買力がすごい」と聞くようになりました。六本木ヒルズや麻布台ヒルズにラグジュアリーブランドが集まるだけでなく、銀座や新宿の商業施設でも上位顧客の港区民比率が高いと聞きます。実際どうなっているのか。そこに向けて小売企業がどんなことをしているのかを特集しました。
佐藤:六本木ヒルズができて、街のイメージも変わりましたよね。
林:夜の盛り場だった街が、昼夜関係なく老若男女が集まるようになりました。われわれは商業的な視点で街づくりを見てしまいがちですが、森ビルはまず働く場所、住む場所、文化を楽しむ場所、いずれもクオリティーの高い施設を作って、そこに商業施設を作り、その結果、金銭的に余裕のある人が集まる街ができています。統計によると港区の成人住人の6.6人に1人は社長だそうです。自営業もいればフリーランスもいるとは思いますが、平均年間所得も1人約1400万円とダントツです。ここだけまるでドバイの様相です。
「区」で語れるのは「港区」くらい
佐藤:アートシーンでいえば、森ビル前社長の森稔さんが「経済は文化のパトロンであり、文化は都市の魅力や磁力を測るバロメーター」という考えのもと、六本木ヒルズの中心に森美術館を設けたことが大きな転換点になりました。国立新美術館の存在も大きいです。今や大小さまざまな美術館やギャラリーが六本木に集まり、街としてアートを盛り上げています。
林:美術館といえば、かつては上野だった。
佐藤:そうですね。森美術館は学校に無料でツアーを提供するスクールプログラムを実施していて、参加率が高いのはやはり港区の小学校だそうです。小学校で6年間本物のアートに触れ続けたら、間違いなく文化資本が高くなるでしょう。そういう子どもたちが港区で育ち、事業を行い、富と文化が再生産される構図が見えました。「東京カレンダー」の編集長の取材も面白かったですね。
林:「東京カレンダー」が果たした役割は大きいね。六本木とか渋谷とかのくくりでなく、「区」で語れるのは「港区」くらい。彼らの発信によって「港区」が記号的な意味合いを持つようになってきた。作家の麻布競馬場が描くような、格差社会のマウントの取り合いや憧れ、ルサンチマンも含め、ギラギラキラキラの象徴になったよね。興味深いエリアだなと改めて思いました。