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特集 日本一売れる「港区マーケット」 第7回 / 全8回

森美術館・片岡真実館長インタビュー 現代アートが港区にもたらしたもの

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PROFILE: 片岡真実/森美術館・館長

片岡真実/森美術館・館長
PROFILE: (かたおか・まみ)東京オペラシティアートギャラリー・チーフキュレーター等を経て、2003年から森美術館勤務。20年から現職。23年4月より国立アートリサーチセンター長兼務。第21回シドニー・ビエンナーレ(18年)や国際芸術祭「あいち2022」(22年)などの芸術監督ほか、委員や審査員なども多数務める PHOTO:KENTARO OSHIO

2003年の森美術館開館以来、アートを中心とした独自の連関と文化が醸成されてきた港区。アートはこの街に何をもたらし、どんな化学反応を起こしてきたのか。開館準備から森美術館に籍を置き、アートを通して20年以上六本木の街を見つめてきた片岡真実館長に話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月2日号からの抜粋です)

WWD:森美術館設立の経緯について。

片岡真実館長(以下、片岡):1986年に開業したアークヒルズは、サントリーホールを併設し、商業、ビジネス、文化の融合という新しい都市開発のモデルケースを示した。80年代後半以降の文化施設の新設ラッシュも重なり、多様な用途を融合させた「複合開発」という言葉が浸透した。一方で森ビルの森稔(社長・当時)、佳子夫妻には、音楽ホールの次は美術館を作りたいという思いがあり、東京の「文化都心」として六本木ヒルズを作る構想をかかげ、その目玉として森美術館の創設を決めた。

WWD:なぜ現代アートなのか?

片岡:「人々が同時代の文化を体験し、検証することができる現代アートの美術館を文化都心の中心にすえる」と創設者の森稔が語ったように、現代アートを通して新しいアイデアや価値観、同時代の人々の考えを発信する場所として森美術館を構想していた。またそれを建物の最上層部に象徴的に置くことで、先進的な文化都心のシンボルになった。

WWD:開館当初からのキュレーションのこだわりは?

片岡:開館当初からの重要なキーワードは「国際性」と「現代性」。過去や現在のグローバルな表現や潮流をいかに東京に持ち込み、そこにどう「今」の視点で光をあてるのか、を考えて展覧会を企画している。

WWD:現代アートの「新しさ」と興行的成功との両立の仕方は?

片岡:現代アートの展覧会で興行的成功にこだわり過ぎると、エンターテインメント性が強くなり、批評性や社会性が失われる危険がある。森美術館は、展望台の収益と合わせれば採算がとれるというビジネスモデルで、開館1年目は52階と53階の2フロアを森美術館として活用していたが、2年目からは52階を展望台に加えて、森アーツセンターギャラリーとして外部に貸し出すなど、時代に合わせてビジネスモデルを変化させてきている。

WWD:都市の価値を考える上で、アートが担う役割とは?

片岡:アートは装飾的に街を美化するだけでなく、鑑賞者が作品の背景にある物語を通して、未知なる人、文化、歴史に出会い、人間の根源的な問いを考えるためのツール。一歩立ち止まり、自分や他者の存在をより深く考えるための入り口だ。それによって私たちはいつもとは違った視点で世界や社会を見られるし、生き方がより豊かになっていく。

WWD:六本木ヒルズ敷地内には、ルイーズ・ブルジョワのクモの彫刻(作品名「ママン」)はじめ、多くのパブリックアートも設置されている。

片岡:パブリックアートの1番の価値はいつでも見られること。日常的な空間に作品が存在し、風景の一部になることで、より豊かな空間体験を提供する。美術館には行かないけど、あのクモを知っている人も多い。「どんな意味があるんだろう?」という疑問を持つところから、アートの深部に入り、世界をより深く知るきっかけになる。

WWD:アートを違う世界と出会う入り口と捉えるならば、戦後から「他者」を積極的に受け入れてきた六本木は、現代アートに適した土壌だった?

片岡:六本木には戦前、陸軍駐屯地があり、戦後に米軍がきて、星条旗新聞社ができ、バー文化が生まれた。異文化を受け入れてきた街の中心に文化都心ができ、その象徴として森美術館がある。今も世界中からいろんな人の表現が集まり、街に新しさや深みをもたらす。そんな場所になれたのは、六本木や港区という街の歴史も関係があるかもしれない。

WWD:「都市を創り、都市を育む」を標榜する森ビル。森美術館に続き、国立新美術館やサントリー美術館などの施設が続々とオープンし、09年からは六本木アートナイトも始まった。六本木で形成される現代アートを中心とした文化は独特なものだ。

片岡:国立新美術館やサントリー美術館が開館した07年頃から、上野などのクラシックな文化が集まる場所と対比して、六本木が新しい文化の中心になってきた、と言われ始めた。当初から現代アートで街をつなげることを構想していたかは分からないが、アートや文化が集合することで、街が育ち続けている。森稔は「経済は文化のパトロンであり、文化は都市の魅力や磁力を測るバロメーター」と語った。元気な都市には、良い文化表現が生まれる。それがまた街の魅力を増大させ、都市としての国際的競争力が高まっていく。開館から20年たった今でも街が成長し続けていると感じる。

WWD:今後地元コミュニティーとの関わりをどう作っていく?

片岡:一般的に敷居の高いイメージがある美術館を街とつなげるため、18年からタウンマネジメント事業部と協働し、街の探策や、アーティストを呼んだ街中でのワークショップなど、アートを通して、街を再発見する試みを開始した。また開館当初から「ラーニングプログラム」も積極的に実施している。児童向けの「スクールプログラム」には港区の小学校など、展覧会ごとに参加してくれる学校もある。


「ヘザウィック・スタジオ展」ラーニング・プログラム トーク「ヘザウィック・スタジオの思想とは? その原点に迫る」

【森美術館 最新展示情報】

■ルイーズ・ブルジョワ展
地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ

六本木ヒルズのクモの彫刻でお馴染みの、20世紀を代表するアーティスト、ルイーズ・ブルジョワ(1911年パリ生まれ、2011年ニューヨークにて没)の日本では27年ぶり、過去最大級の個展を開催。多岐にわたる彼女の作品を3章構成の展示で堪能できる。

会期 2024年9月25日(水)-2025年1月19日(日)
開催時間 10:00-22:00(火曜日のみ17:00まで)
※入館は閉館時間の30分前まで ※会期中無休  
※ただし12/24(火)、12/31(火)は22:00まで
入館料 (平日)一般2000円(1800円)/(土日休日)一般2200円(2000円)ほか
※カッコ内は、前売価格

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