PROFILE: 高木克海さん/「ディーゼル」渋谷店

ディーゼルジャパンの中でも数%というエグゼクティブスタイリストであり、「トップ・オブ・トップの1人」(同社プレス)という高木克海さんは、ファッションの魅力、そして「ディーゼル」の民主性を自身で体感し、発信している。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月23日号から抜粋・加筆しています)
ファッションの仕事を志したのは、高校を卒業した後、カナダで過ごした語学留学時代。バスの車内で、正直少しビビっていた黒人にスタイルを誉められるなどの原体験から「ファッションは、もっと自信が持てるもの。より具体的にファッションが好きになった」。
帰国後は、さまざまなファッションやブランドを調べたり、面接に望んだりしたが、「しっくりくるブランドがなかった」という。そんなときに出合ったのが、「ディーゼル」が寺田倉庫で開催したイベント。2018-19年秋冬キャンペーン「ヘイト クチュールーーヘイトなんて、着ちらそう」にちなんだイベントは、「『ディーゼル』はもうダサい」というブランドがそれまでに受けてきた批判や、「あなたは信用できない」というヘイトメッセージなどをのせたコレクションをインフルエンサーたちがまとったもので、「ビビッときた」という。以降、歴代の広告のメッセージ性などに惹かれて、入社。「『ディーゼル』の洋服は買ったこともなければ、店舗にも行ったことがなかった。完全に広告に惹かれて入社した」という。
以降、「ディーゼル」にはグレン・マーティンスがクリエイティブ・ディレクターとして参画してリブランディングを果たしたが、「メッセージの軸は変わっていない。世の中に対するパワフルなメッセージは健在で、知れば知るほど好きになる。洋服だけじゃない魅力も伝えたい」という。押し付けないように、でもメッセージが詰まった洋服を手にとってくれた時は、その思いを伝えるようにするのが高木さんの接客術だ。
グレンの参画以降、ブランドの顧客は一気に若返った。渋谷の旗艦店には、26歳の高木さんの同年代、もしくはそれより若い人たちが続々来店する。高木さんは、「最初は同年代の方が接しやすく、正直大人の話はわからないときもあったが、今はどんな年齢であれ、お金持ちでも高校生でも同じような接客を心がけている」。そんな境地に達したのも、「ディーゼル」の哲学のおかげ。「『ディーゼル』の魅力の1つは、受け皿の広いクリエイション。器が大きく、どんな『カッコいい』もやらせてくれる。表現は、着る人次第。シーズンごとのメッセージはあるが、そこからの表現方法は任せてくれる」と捉え、年齢も、買い物予算も、嗜好も関係なく、「派手好きな人も、シックなのが好みの人も、ロゴが真ん中に欲しい人も、反対に見えない方がいい人も出迎えたい。お客さまの好みが見つけられるのが、接客で一番嬉しいこと」だ。
「『ディーゼル』の何が好きかを語るディベートがあったら、社内でもかなり戦える自信がある」というほど、ロジカルでもある。休日の買い物では、どこに立つか、どんな言葉を投げかけるか、どう接客するかなどを買い物客の立場になって考え、日々の接客に生かす。例えば、「『今はチェックがトレンドなんですよ』までを話せる販売員はいっぱいいる。でも、『なんで?』と聞かれたときに答えられる人は少ない。そこで、Y2Kのトレンドから1990〜2000年代のクリエイションに注目する流れがあって、普遍的になった過去の要素と今をミックスする流れが強くなっているからと話すことができれば、チェック柄の洋服1着にも愛着を持ってもらえるのでは?」と話し、情報収集は怠らない。
「ディーゼル」は2月に開催した2024-25年秋冬コレクションで、先着1000人をZoomに招待。ミラノ・コレクションのゲストは、彼らがファッションショーを見守る様子を捉えたスクリーンを背景にリアルなコレクションを楽しんだ。高木さんはおそらく、日本で唯一の参加者だったという。「本国からのメールを見た瞬間に応募を決意し、日本時間の深夜1時ジャストに申し込み。1時2分にはソールドアウトになっていたからラッキーだった」と振り返る。当日は、真っ白の全身タイツを着て、真っ赤に顔を塗った日の丸姿でZoomに参加。「日本代表としてミラノ・コレクションに参加したかった」からだ。オンラインの画面は「想像通りのカオスだったが、改めて参加する側にも主導権を与えてくれる器の大きさを体感した」と話す。体感した魅力をまた発信するつもりだ。