
“更年期”という言葉がいつの間にかネガティブワードとして独り歩きし、更年期症状と向き合うことなく深刻化することもある。“労働時間の規制緩和”などという不穏な動きも聞こえるが、更年期ロスを生まないためにも企業が“自分ゴト化”して取り組める方策は増えている。(この記事は「WWDJAPAN」2024年9月23日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
ライフェム
「ルナルナ オフィス」で
働く女性の健康課題の改善を支援
聖マリアンナ医科大学の現役医師でもあるライフェムの菅原誠太郎代表が、法人向けフェムテックサービス「ルナルナ オフィス」を立ち上げた経緯は極めて分かりやすい。
「医療は本来サービス業であるはずなのに、日本の医療は医者が主体。病院で医者が待つだけでなく、患者の症状が軽いうちに医療が介入できる方法はないかと考え、ビジネススクールで経営を学ぶなどしているうちに、縁があってオンライン診療を運営する会社の代表に就任しました。その後、ホルモンバランスの影響で不調を抱えやすい一方で、病院に行く時間を確保するのが難しい働く女性を対象に企業がサポートする『ルナルナ オフィス』を立ち上げました。当初はPMSや月経困難症をカバーしていましたが、その後ライフステージを進めて妊活と更年期までサービスを拡充しています」。
プログラムの基本的な流れは、正しい知識共有のため専門医師によるセミナーを開催し、解決策のレクチャーと選択肢を提示したのち、希望者にはオンライン診療を実施、処方薬が自宅に配送される。セミナーにおいては会社全体のリテラシーを上げるため、男女問わず全従業員を対象にしている。現在、導入企業はポーラ・オルビスホールディングスや丸紅、日本航空、ニチレイなど数十社。コロナ禍でオンライン診療の認知度が上がった上、ダイバーシティ&インクルージョン、SDGsが問われる現代、多くの企業から引く手あまたかと思えるが、そう簡単な話ではないという。
現在展開している3つのプログラムではいずれもオンライン診療後、薬を処方した人にアンケートを実施し、パフォーマンスや生産性などに関する回答を企業にフィードバックする
「女性限定のサービスということで会社の福利厚生としては難しいと言われたり、診療込みのサービスであることに導入を躊躇される会社も少なくないですね。女性従業員の多い会社に導入されやすいわけでなく、逆に女性従業員の少ない建築会社ですんなり決まるなど、導入企業の特徴もありません。また、現場担当者からトップに上げてもらうまでに半年〜1年かかり、その間に担当者が異動になることもよくあり、日本企業特有の体質を痛感します」。
それでも導入企業の従業員からの評価は高く、現在は女性だけでなく男性の健康課題にも注目し、「男性更年期プログラム」の提供を検討、ポーラ・オルビスホールディングスで実証導入中。
「最近では、採用面でメリットになるからその一環で導入したいという企業もありました。リクルーティングにつながるデータも提示しつつ、将来的には企業のデフォルトにしたいと考えています」。
Case Study:
健康経営宣言のもと、
いち早く「ルナルナ オフィス」を導入
ポーラ・オルビスホールディングス(POLA ORBIS HOLDINGS)
「ルナルナ オフィス」の「月経プログラム」を2021年に実証導入し22年から正式導入、「更年期プログラム」は22年に実証導入し23年から正式導入と、迅速な取り組みを見せているポーラ・オルビスホールディングス。取り組みの背景にはグループ横断で17年に策定した「健康経営宣言」がある。
「17年にグループの理念を『感受性のスイッチを全開にする』に刷新すると同時に健康経営宣言を策定し、18年から具現化しています。これは社員一人一人のQOLが高いこと、自分らしく活躍できる環境を整えていくこと、個性や感受性を最大限に生かした経営を目指すことを企業課題と位置づけ、その最も重要な基盤は健康であるとし、健康経営にかじを切っています」と、HR室 星野祐樹さん。
「グループ全体の7割以上が女性従業員ということもあり、グループ横断の産業保健組織である健康管理センターには婦人科産業医を配置し、女性特有の疾患ケアとしてがん検診やセミナーを実施していましたが、月経や更年期も視野に入れるべきではと考えました。22年に女性従業員に実施した健康に関するアンケートで、それらに対するリテラシーが高い割に治療へのアクセスが少ないことが判明し、『ルナルナ オフィス』の導入に至りました」。
さらにダイバーシティの観点から全従業員のエンゲージメント向上を図るため、24年からさらに「妊活相談プログラム」を導入、「男性更年期プログラム」も現在実証導入中だ。
「プログラムの実証導入中にアンケートを実施し、その結果をもとに正式導入を検討するわけですが、更年期に関しては男女ともに6割近くが不調を感じており、それがパフォーマンスに影響を及ぼしていながら、その半数近くが治療にかかわるアクションに至っていない、という現状が判明しています。また、オンライン診療を受けて薬を服用するなどしたのち、プレゼンティズム(心身の不調が作用して生産性が低下している状態)に一定の効果が見られたという結果も得られています。男性更年期については、女性社員については拡充できたので男性社員に注目した取り組みもやるべきだろうということでアンケートを実施しました。すると『我慢は美徳』と考える世代でもあるためか、女性以上に何も対策せず、実際の数字以上に深刻に悩んでいる男性が多いように感じます。健康課題に対するリテラシーは高い・低いの二極化傾向にあるので、従業員に対してさらにきめ細かくアプローチをしながら、意識の醸成と変容をさらに促す必要があると考えています」。
女性の更年期に関する意識調査結果
Q.更年期症状への対処として、どのようなことを行ったことがありますか。(複数回答:上位4つ)
男性更年期症状に関するアンケート調査
Q.現在、男性更年期症状と思われる不調を感じることがありますか
特に症状は感じない(44.2%)
男性更年期症状かは分からないが、疑わしい不調は感じている(44.7%)
男性更年期症状と思われる不調を感じている(10.8%)
医療機関で男性更年期と診断された(0.3%)