サステナビリティ

動物も人も愛護、「セーブ・ザ・ダック」CEOが語る「ビジネス、規制、ESG」

PROFILE: ニコラス・バルジ/セーブ・ザ・ダック最高経営責任者

ニコラス・バルジ/セーブ・ザ・ダック最高経営責任者
PROFILE: 1970年イタリア・フィレンツェ生まれ。バイリンガル教育を受け、経済学の学位を取得後、ミラノで10年間PRマネージャーとして勤務。家業にも携わった後、2012年にセーブ・ザ・ダックを設立。趣味はサーフィン

伊「セーブ・ザ・ダック(SAVE THE DUCK)」は帝人フロンティアと共同出資して5月にセーブ・ザ・ダック・ジャパンを設立した。日本での事業拡大に向け来日したニコラス・バルジ=セーブ・ザ・ダック最高経営責任者(CEO)に日本でのビジネス戦略やブランド設立の経緯、動物・人・環境に配慮したビジネスについて聞いた。

WWD:ジャパン社設立にあたり帝人フロンティアと組んだ理由は?

ニコラス・バルジ=セーブ・ザ・ダックCEO(以下、バルジ):帝人フロンティアは2012年の創業当初から生地や素材の供給を受ける、最も重要な素材サプライヤーの一つだった。帝人フロンティアとはESGの観点から同じコンセプトやアイデアを持っていた。日本市場の開拓の際にも、まずは代理店として2020年秋冬物から協業した。ビジネスが順調に成長したため共同出資によるジャパン社を設立した。出資比率は本国が51%、帝人フロンティアが49%だ。

WWD:日本事業の今後の計画は?

バルジ:これまで日本では伊勢丹や高島屋といった主要百貨店を中心に50~60平方メートルのポップアップストアを開きビジネスを成長させてきた。秋冬期間は42カ所、春夏は20カ所程度、期間は長いところで10カ月、短いところは1週間程度。今後、この規模の店舗を5店舗程度オープンする予定だ。現在注力しているのは来冬に路面店を開けること。銀座エリアを検討しているが、場所が見つからなかった場合は表参道エリアも候補に入れる。

WWD:現在のビジネスの状況を教えてほしい。

バルジ:42カ国に販路を持ち、昨年の売上高は6400万ユーロ(約105億6000万円)。今年は7200万ユーロ(約118億8000万円)を予定している。本来はもう少し高い数字を掲げていたが欧州の状況がかなり厳しい。特にドイツ、オーストリア、スイス、フランス、北欧が厳しく卸売事業は昨年比12%減だった。一方直販事業は同30%増。今年は過去2年に比べて、欧州の冬の始まりが早く天候が味方している。

成長しているのは米国で全売り上げの20%を占めるほどに成長した。現地法人を設立し、ニューヨークのソーホーに直営店を構えた。ブルーミングデールズ(BLOOMINGDALE'S)やサックス・フィフス・アベニュー(SAKS FIFTH AVENUE)、ノードストローム(NORDSTROM)など有力百貨店全てと提携している。

日本は全売り上げの8%だが、1年ごとに50%ずつ成長しておりさらなる成長が期待できる。米国、日本いずれも直販チャネルが成長に貢献している。

「動物と人の扱われ方にショックを受けた」

WWD:そもそもなぜ羽毛の代替品を作ろうと思ったのか。

バルジ:ファミリービジネスに参画し、約3年間で荷物運びから物流部門、出張販売などあらゆることを経験し会社の全行程を学んだ。その後、デザインやモノ作りに興味が芽生え、多くの国々を飛び回り、良い工場も悪い工場もさまざまな工場を見た。私が働き出した1990年代は今とは全く異なりかなりひどい状況。非常にショックを受ける出来事を何度も目にした。

WWD:具体的には?

バルジ:特に動物と人、2つについて話したい。90年代のダウン工場に行ったときのこと。臭いが強く死んだアヒルが床に転がっていて、実際にアヒルを殺しているのも目にした。別の工場ではアヒルの毛を何度も利用するために生きた状態で毛をむしり取り、再び毛が生えるのを待ちまたむしり取っていた。それを3~4回繰り返すとアヒルは病気にかかって死んでしまう。これを目にすると二度とダウン製品を着たくなくなるだろう。

もう一つは児童労働だ。90年代の話だが、父の会社ではある大きな工場に注文していて、その工場は下請けを使い下請けはさらに下請けに注文していた。最終検査に行ったときのこと。全ての商品がひどい出来で「どうしたんだ」と尋ねると、下請け工場では子どもたちを働かせていることがわかった。その工場に赴くと子どもたちがミシンで縫製作業をしていたが、賃金は支払われていなかった。子どもたちは私に「工場に支払いがなければ私は給料がもらえない」と泣きながら訴えてきた。本来だったら品質に問題があったので突き返すこともできたかもしれないが、私は代金を支払い修理をしてその商品を販売した。この一件で私は生産工程の全てを確認することが重要だと学んだ。これは子どもたちだけの話ではなく、労働者が一日に何時間働いているか、快適なベッドはあるか、食べられているか、どんな生活をしているか、その全てを知る必要があるろいうこと。

WWD:今以上に90年代は搾取工場が多かった。

バルジ:その頃すでにアウトドア業界は地球に目を向けていたが、ファッション業界は気にしておらず、イメージに集中していた。どちらも衣類を生産するのになぜこんなに違うのか――私はファッション業界に身を置いていたので、ファッション業界に一ひねり加えてアウトドア業界がすでに着手していたことを応用しようと考えた。つまり、動物、人、自然に敬意を持った方法で、ファッション業界に変化をもたらすためにビジネスをしようと決めた。

WWD:羽毛の代替素材についての優位性や機能性について教えてほしい。

バルジ:倫理的な問題だけでなく、技術についてもメリットしかない。合成繊維は通気性がある。ダウンは着用したときからとても暖かく感じるが、汗をかくと湿気がこもりさらに汗をかく。「プラムテック(PLUMTECH、ペットボトルをリサイクルした微粒子をポリエステル繊維と配合したもの。軽量で通気性、速乾性、保湿性などに優れており、家庭用洗濯機で丸洗いもできる)」は、通気性があるため湿気を放出でき暖かさだけが体を包み込む。最初はダウンに比べて暖かく感じないかもしれないが、数時間着て動き回ると合成繊維の方がずっと快適だと感じられる。

もう一つの利点はメンテナンスだ。ダウンは時間が経つと羽根が抜け落ち劣化する。洗う回数にもよるが、少なくとも「プラムテック」はダウンよりも2倍以上は長持ちするし、10年は着られる。

eBayと連携した再販プログラムを提供

WWD:いわゆる羽毛の代替品の提案だけではなく商品カテゴリーが増えている。カテゴリーを増やしながらビジネスを拡大していくのか。

バルジ:温暖化の影響によりアウターウエアは、シェルとウォーマーのレイヤードが重要になってきており、シェルとウォーマーの組み合わせに注力している。例えば旅行者は軽量のこの2つのアイテムで雨や寒さに対応でき、単独で使用すれば雨や暑い日、寒い日にも対応できる。これが春夏コレクションにおけるアウターウエアの方向性だ。

また新しいレジャーの形として「スマートレジャー」を提案している。機能繊維を用いて軽量で通気性があり、手入れも簡単で速乾性があり汚れが付きにくく型崩れをしないものを提供している。これも旅行者向けで特に若い世代をターゲットにしている。合成繊維を使用すると衣類のメンテナンスが簡単になり、長持ちもするからエコデザインと言える。

WWD:ブランドとして地球環境への敬意を掲げているが、地球環境を思えば商品カテゴリーを増やしてたくさん作ることは反しているのではないか。

バルジ:われわれの広告キャンペーンを見ればわかると思うが、常に環境保護を目的としており公平な視点を盛り込んでいる。例えば、動物、人々、水、CO2、化学物質といった特定の事柄で、その重要性を理解してもらうよう努めている。もちろん洋服も取り上げてはいるが、「購入することは責任を負うということ」であるという説明を加えている。

もう一つはデジタルプロダクトパスポートの活用だ。全製品に付いているQRコードをスキャンすると、衣類がどこでどのように作られたかや、生地やファスナーがどこから来たかもわかるようになっている。工場名は公表していないが地域は公表している。

さらに再販ボタンも用意しており、このシステムを使うことでeBayのプラットフォームとつながり、写真と価格を入力すれば出品できる。これが生産量を減らす最も倫理的な方法だ。洋服を捨てずに済むし洋服に第二の命を与えることができる。リセールによる唯一の影響は輸送だが、その影響は非常に小さい。

WWD:PFASフリーを達成できた理由は?欧州や米国では法規制も進んでいる。

バルジ:当初は完全にPFASフリーと言っていたが、現在は基本的には使用していないが非常に限定的に存在していると表現している。というのも、今後法規制ではPFASの使用をある程度認めることになると思う。なぜならPFASは触れた瞬間に汚染されるから。例えば、PFASを使用した生地と同じ工程でそのままPFASフリーの生地を処理するとたちまちPFASに汚染されてしまう。つまり、PFASの現実は使用しないように管理は必要だがある程度許容されるべきであること。PFASを100%除去することはできない。私の考えではあるが、最終的には10を1に減らす法律ができると考えている。ただし許可される「1」は、誰にも害を与えないものである必要はある。

私はこれまでESGを学んできたが、ESGに関しては極端であってはならないと考えている。ESGに取り組むと必ずプラス面があるが常にマイナス面もある。そのバランスを見つけなければならない。

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