松屋は27日、デジタルプラットフォーム「マツヤギンザドットコム(matsuyaginza.com)」を本格始動させた。OMO(オンラインとオフラインの融合)の新サービスで、国内客と訪日客の客動線をデジタル上に設ける。利用者は商品を直接購入したり、松屋銀座本店に取り寄せたりできる。同店は訪日客の急速な増加に伴い、ラグジュアリーブランドや化粧品は行列や混雑が常態化し、ゆっくり接客ができない状況が続いている。デジタルの客動線を設けることで、待ち時間なしで買い物したい客の要望に応えつつ、混雑を緩和してていねいな接客ができるようにする。
国内客も訪日客もID顧客に
国内客はマツヤギンザドットコムを通じて、自宅配送か松屋銀座本店のピックアップカウンターで受け取るかを選べる。訪日客はピックアップカウンターで商品受け取り、決済、免税手続きを完結することができる。注文確定後、1〜5日で店頭受け取りが可能になる。
スタート時点で約50ブランドの約1500アイテムを扱う。ラグジュアリーブランドと化粧品が中心で、「プラダ」「ミュウミュウ」「ロジェ ヴィヴィエ」「イソップ」「トムフォード ビューティ」などの顔ぶれが並ぶ。松屋銀座本店と扱いがない「セルジオ ロッシ」「ジョーマローン」も販売する。1年後には約150ブランドの約5000アイテムに広げる計画だ。
新しい顧客を囲い込む手段としても活用する。カード会員や外商などのID顧客は約27万人。マツヤギンザドットコムを通じて、新しいID顧客を増やし、密接なコミュニケーションを行う。年に何度も来日する訪日客も少ないないことから、彼らもID顧客になってもらう。店内には海外富裕層をもてなすVIPサロンを10月に設けた。
サービス開始にあたり、松屋は会員制通販サイト「ミレポルテ」を運営するB4F(東京)のEC事業を買収し、デジタルの人材と知見を取り込んだ。松屋の商品や営業部門などの人材も合流し、新会社MATSUYA GINZA.com(東京、横関直樹社長)を設立して運営にあたる。
ストレスなく買い物を楽しめるように
立ち上げの背景には、同店ならではの事情がある。
訪日客のショッピングは特に銀座に集中している。松屋銀座本店の上期(2024年3〜8月期)の総額売上高は、前年同期比32.3%増の631億円で過去最高を更新した。訪日客による免税売上高が同2.2倍の314億円に拡大し、全体に占めるシェアは約49.6%(前年同期は約29.2%)に上昇した。
訪日客の恩恵で売り上げが拡大する一方で、課題も浮上した。人気のラグジュアリーブランドは入店待ちの行列が絶えず、タッチアップを行う化粧品売り場も大混雑が常態化した。結果、国内客の接客機会が奪われてしまった。上期の国内客の売上高は同6%減で終わった。放置すれば、国内客が松屋から離れてしまう懸念がある。混雑を緩和する客動線を作ることが、国内客、訪日客双方のロイヤルティを高めるために不可欠と判断した。
松屋の古屋毅彦社長は「デジタルの客動線を作ることで、日本のお客さまも海外のお客さまもストレスなく買い物が楽しめるようにしたい」と話す。適度な行列は人気のバロメーターとして許容できるものの、現状は度を超えているとの認識だ。マツヤドットコムによって顧客の利便性を高めるとともに、百貨店らしい接客とサービスが提供できる環境を確保する。