和歌山のテキスタイルメーカーエイガールズのインナーウエアブランド「マル(MALU)」が好調だ。2021年に“Your Personal Luxury(自分だけの贅沢・自分にしか味わえない贅沢)”をコンセプトに6型で始動。手編みのような膨らみと柔らかさのあるカシミヤ100%のインナーウエアがウケて、22年秋には型数を10型に増やし、23年にはシルク100%9型をラインアップに加えた。23年の売上高は前年比140%増、24年の現時点でも前年比150%増と好調だ。リピーターが多く、人気デザイナーズブランドのデザイナーが何着もまとめ買いをして愛用するなどプロからの支持が厚い。販路は自社ECに加え、セレクトショップでのポップアップストアや店舗は限られるが卸売りも始めた。
24年には米国ニューヨークのセレクトショップで「マル」のポップアップストアを開きテストマーケティングを行った。山下装子エイガールズ副社長は「伸縮性があるニットとはいえサイズ展開が求められる米国でワンサイズ展開は難しいかもしれないという不安があったが、『One size fits all(全てのサイズに対応)』と好反応をいただきタンクトップやオープンネックが特に好評だった」と話す。25年1月からは台湾でもポップアップストアを開くなど販路を海外にも広げる。
「マル」で用いている生地はもともとエイガールズとしてさまざまなブランドに提案していたものだった。「筒状のインナーを作ってみてはどうかと提案していたが売れなかった。そもそも10年前はブランドがインナーを手掛けることはほとんどなかったし、下着ではなくインナーに特化したブランドもなかったことも理由だろう」と振り返る。カシミヤやシルクを100%使用し繊細に編み上げた生地は高価でもあった。「素晴らしい生地だから自分たちでブランドを始めようと決めた」。
ファクトリーブランドの成功が意味すること
好調の理由を装子副社長は「ファッションブランドではなくプロダクトプランドだった点、他にはない肌触りのインナーウエアだったという点がよかったのではないか」と分析する。
「マル」を編む小寸のビンテージ丸胴機械はシルクとカシミヤ用にそれぞれ2台。編み上がった生地をそのままボディに用いるためロスが少ない。この機械は最大18本の糸から編み上げることができるが、「マル」で用いるカシミヤ糸もシルク糸も極細のため、糸への負担をできる限り抑えながら2本の糸でゆっくり編み上げる。「1年で作ることができる枚数は限られているため、1年中編み機を回している」。
「用いるカシミヤやシルクの糸は引っ張るとすぐに切れるほど細い。世界でもこの極細糸を編み上げることができるのはおそらく当社だけだ」と「マル」を手掛けるニッターの南方俊二コメチゥ社長は胸を張る。コメチゥには他のニッターが根を上げたような難しい依頼が集まるという。装子副社長も「機械を理解している俊二さんだからこそできる唯一無二の製品だ」と語る。余談だが、南方社長は100年前のベントレー社製のチェーン編み機を、廃業を決めたニッターから譲り受け、全て分解して組み立て直すことで構造を理解して使い続けている。「約1500のパーツがあり3カ月かかった。構造を理解することでトラブルに対応できる」と南方社長。
「売上高の上限が見えた」と装子副社長はいうが、「マル」を始めて「単純に利益を上げることだけではない利点があった。例えば異業種への販路が広がった」という。「自社ブランドを運営することで今まで接点がなかった人とつながることができた。正直ファッション産業だけで商売を続けていくのは厳しい。レストランのリニューアルにあわせてクッションカバーやタペストリーの依頼があるなど、販路が広がっている」と話す。
エイガールズはラグジュアリーやデザイナーズ、カジュアルまで幅広いブランドから支持を集め、生地を販売しOEMも手掛ける。すでに多くのブランドが認知する有力テキスタイルメーカーではあるが、「最近では一度取引がなくなったブランドから『マル』を手掛けていることを知ってもらい、そのクオリティを評価してもらい『もう一度生地を見たい』とアプローチがあるなど相乗効果が生まれている」。