デンマーク発インテリア「フリッツ・ハンセン(FRITZ HANSEN)」は、アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)のセブンチェアやスワンチェアを始めとする多くの北欧名作家具を手掛けている。その中でも、極限まで無駄を削ぎ落とした美しいデザインで存在感を放っているのが、ポール・ケアホルム(Poul Kjaerholm)の家具だ。座面が低く、スチールとレザーだけで構成されたラウンジチェアやサイコロのような小さなテーブルを見たことがあるという人もあるだろう。ヤコブセンほど有名ではないが、そのストイックともいえる完璧な造形美には圧倒されるものがある。今年夏には、パナソニック汐留美術館で展覧会が開催された。そして、「フリッツ・ハンセン」主催で12月21日、「ポール・ケアホルム展 in 京都」が開幕。開幕前日には内覧会が開催され、ケアホルムの子息であるトーマス・ケアホルム(Thomas Kjaerholm)が来日して家族との思い出を語った。
和の空間と見事に調和するケアホルムの家具
会場の両足院は、祇園花見古路を抜けた建仁寺内にあり、毘沙門天堂には舞妓が芸事上達や恋愛成就のお参りにくる場所だという。「フリッツ・ハンセン」は、今まで語られてこなかったケアホルムの家具と和の空間の親和性にフォーカス。祇園と隣接しながらもひっそりと佇む両足院を展示の場に選んだ。方丈の間には、ケアホルムの家具の真髄ともいえる構造を、パーツを分解して作品ごとに展示。極限まで計算し尽くされたフレームなどを見ることができる。広縁には代表的なチェア4点が置かれ、自由に座れるようになっている。大書院は、ダイニングスペースに書斎、ラウンジスペースで構成。
スチールを使用した家具が果たして床の間がある和室に合うのか……と思う人もいるだろうが、不思議と見事に調和している。ホッコリした和モダンではなく、凛とした緊張感のある美しさ。緊張感があると言ってもネガティブな意味ではない、背筋が伸びるような清々しさが感じられる空間だ。茶室には、“PK71”ネストテーブルがさりげなく置かれているが、全く違和感なし。庭を見ながら、デンマーク風の浅煎りコーヒーをいただくお茶室体験は興味深いものだった。
親日家の妻の影響が息づくデザイン
トークショーでは、ケアホルムの息子のトーマスが登場。彼は、「父の家具をこのような環境で見られるのは素晴らしい。来日前に写真でも見たが、実物を見て興奮している」と語った。庭が見渡せる展示は、母親ハンナの家の配置を想起させるようだ。家具と家具の間に余白を持たせて、低い家具で空間に抜け感を作るのがポイントだという。ケアホルムの作品は主張する家具ではないので、家具自体を見るというよりは庭を見ながら楽しめる。
日本との関連性については、「父は来日したことがないが、母は5〜6回来日したことがある」。ケアホルムの妻のハンナは建築家で、彼同様デンマーク王立アカデミーで教鞭を取っており、生徒を連れて研修目的で来日していたようだ。「母方の祖父母が親日家で、デンマーク訛りの日本語を話していた。祖父は、庭好きで日本庭園を作ったりしていたのを覚えている」。共働きでありながらも、「ロイヤル コペンハーゲン(ROYAL COPENHAGEN)」の食器にカトラリー、牛乳はジャグに入れてとテーブルセッティングは完璧だったそうだ。
ケアホルムは、妻や義祖父から影響を受けて親日家だったのかもしれない。ケアホルム作品の一番の魅力は彫刻的で浮遊感のあるデザインだと思っていた。低い座面に直線を多用したデザイン、シンプル極まりない造形と日本建築に合う要素は多い。しかし、ここまで和の空間に馴染む理由は、生活を共にした親日家の妻の影響だと実感するイベントだった。
この展覧会に合わせ、書籍「POUL KJAERHOLM 共鳴する日本の美意識」が登場。写真家の矢吹健巳による撮り下ろしの写真を始め、トーマスと娘のクリスティーヌ・ケアホルムの前書きが収録され、ケアホルム作品が日本の美意識との共鳴を掘り下げた一冊になっている。編集はブックディレクションを行うBACHの幅允孝、ブックデザインは須山悠里、監修・執筆はKIGENZEN手掛けた。価格は、4950円。