2024年も残りわずかとなった某日、「WWDJAPAN」の若手記者たちは記者歴約30年のベテランデスクから、「ヒット番付を作るように」と司令を受けた。あの日経MJやSMBCコンサルティングが毎年、年の瀬に発表しているアレだ。
ただ、日々取材現場を回る中でさまざまな“界隈”を目の当たりにしていると、多種多様な商品やサービス、人、イベントに出合う、それらを一括りにしたランキングを作ることは容易ではない。そもそも “個”の時代を担う私たち若手としては、番付のように上下を決めつけるのではなく、フラットな視点でそれぞれのすばらしさを認めることが必要なのではないだろうか、と考えた(デスクごめんなさい)。
そこで、パリ五輪の金メダルラッシュから今年の漢字が「金」になったことにちなみ、「ファッション」「ビューティ」「セレブリティー」の3ジャンルで金メダルを決めた。ただしそれぞれのジャンルで、金メダリストは1人ではない。今年の業界を最も席巻したモノ・コトは「メジャー」部門として文句なしの金メダルだが、一方でまだ局所的なトレンドであっても、今後のポテンシャルに期待を込めて「アップカミング」部門の金メダルを贈呈。というわけで、計6人の金メダリストが誕生した。
審査員は7人の若手記者とソーシャルエディターだ。ファッション分野からは、ウィメンズアパレルや百貨店などを専門にする本橋涼介シニアエディター、ロンドン&ミラノ・ファッション・ウイークを取材する木村和花記者が参加し、ビューティ分野からは韓国コスメを中心にビューティ情報全般をカバーする遠藤里紗記者が参戦。加えて、日頃からSNS起点のブームを追うソーシャルデスクの浅野ひかるとエディターの松村風斗、セレブリティー情報やマストレンドに強い関戸和記者と戸松沙紀記者も交えて1年を振り返った。トークセッションの最後には、25年の金メダルをまとめた。
「ミュウミュウ」「クロエ」強し!
厚底シューズにバリエーション
本橋:僕たちはウィメンズアパレルを取材することが多いですが、木村さんは今年どんなモノ・コトがヒットしたと思いますか?
木村:ブランド力という観点では、「ミュウミュウ(MIU MIU)」や「クロエ(CHLOE)」が強かったですね。特に「ミュウミュウ」はバッグがよく売れています。パンツをレイヤードするスタイルや、下着をあえて見せるコーディネート、ボーホーロマンチックなムードは、「フリークスストア(FREAK'S STORE)」や「シップス(SHIPS)」といった日本のセレクトショップもスタイリングに取り入れているようでした。
松村:欧米圏では、他人の評価を気にせず己を貫く反抗的なスタイル「ブラット(BRAT=悪ガキ)」がトレンドとして浮上する中、それと対極的なミニマルなスタイル「デミュア(DEMURE =控えめ、上品)」も話題になりました。シャツにタイを合わせるといった「ミュウミュウ(MIU MIU)」のグッドガールなスタイルが引き続き人気なのも、「デミュア」の影響だと思います。
浅野:厚底シューズもさまざまなブランドが発売していましたよね。ただの厚底シューズではなく、スニーカーやブーツ、メリージェーンなどとハイブリッドになっていた。
戸松:坂部三樹郎デザイナーのスニーカーブランド「グラウンズ(GROUNDS)」の人気も、その影響が顕著な例として考えられるのではないでしょうか。日本人だけでなくインバウンド需要も高く、街のあちこちで履いている若者を見かけました。今年だけで実店舗が3つオープンしています。
本橋:となると、ファッション・メジャー部門の金メダルは「ミュウミュウ」や「クロエ」、変化系厚底シューズで決まりですね。アップカミング部門はどうでしょう?
関戸:日本の若者の間では、昨年からY2Kトレンドが継続しています。古着を今っぽく着こなしながら、自分の好きなスタイルを取り入れている。
浅野:Y2K文脈でギャルカルチャーが再注目されているからか、制服っぽいスタイルをしている人も少なくなかったです。特にグレーのプリーツスカートをレイヤードしている男女はホットアイテムだったと言えるかもしれない。
本橋:僕はガジェットが好きなのでつい目についてしまうのですが、「コス(KOSS)」や「マーシャル(MARSHALL)」のヘッドフォンを付けた人も多かったです。レトロブームを象徴した現象のように思えました。
松村:若者の好みは細分化していますが、アップカミング部門には「ジョーツ」(デニムショーツ)が当てはまるのではないでしょうか。昨年から引き続きの流行ではありますが、ストリートスナップでも見かける場面が激増した。男女問わず幅広い年代の人がスタイリングに取り入れていました。ストリートにもきれい目にも着こなしやすいのがポイントです。「シーイン(SHEIN)」も、いろんなジョーツを販売していました。
木村:この流れを汲むと、来年はやはり「インディ・スリーズ(indie sleaze)」が勢いを増すのでは。古着をうまく取り入れつつ、さまざまなジャンルをミックスする“ヒップスター”のようなスタイルで、1980〜90年代にロンドンで流行ったものがリバイバルしています。
コスメはアクセとして持ち運ぶ!
じゃら付け文化がカムバック
遠藤:ビューティ分野では、やはり韓国コスメがとどまるところを知らない人気でした。メイクアップでは分かりやすいコントゥアリングではなく、さりげなく陰影を仕込んでメリハリをつけるためのアイテムが目立ったように思います。今までは血色感を持たせるために濃いピンクやオレンジが主流でしたが、頬に乗せているかどうか分からないような淡いカラーの“ステルスチーク”が話題になりました。皆さんは今年のコスメ事情をどう見ますか?
戸松:個人的には、韓国コスメの「フィー(FWEE)」を推したいです。キーリングでカバンなどにつけて持ち運べるリップ&チークの“プリンポット”が大ヒット。新大久保に旗艦店「フィーアジト東京」がオープンしたのは記憶に新しいですし、日本の芸能人の使用率も高いイメージがあります。
本橋:確かに、チャームをじゃら付けするなど、バッグをデコる文化が再燃していますね。コスメがアクセサリー化している。
浅野:きっと「タンバリンズ(TAMBURINS)」が火付け役でしょう。コロンとした卵形のリップバームを付属のシリコンケースに入れて持ち運ぶのがブームになりました。同様の商品として、「ブレイ(BRAYE)」も大ヒットしていた印象です。リップやチークがスライド式のメタルケースに入っており、チェーンをつけるとチャームになる。今年のビューティ・メジャー部門は、現象としての“コスメのアクセサリー化”が金メダルと言えそうですね。
他の動きとしては、成分ブームが美容医療領域まで近づいたことが挙げられます。これまでは、シカやレチノールなどが配合されていることが謳い文句になっていましたが、今年は美容医療レベルのPDRNやグルタチオンといった玄人受けする成分を使ったアイテムが多数発売されました。
戸松:「メディキューブ(MEDICUBE)」の“ピンクペプチドアンプル”とか、「ナンバーズイン(NUMBUZIN)」の“白玉グルタチオンC美容液”とか。
浅野:日本上陸済みの売れている韓国コスメブランドは、ほとんどそういった成分を配合していますよね。「ランコム(LANCOME)」も成分ブームに注目しているようなので、2025年はこの波がさらにラグジュアリーブランドまで波及すると思います。
XGとMrs.GREEN APPLEが大躍進
ジャパンカルチャーの逆輸入が加速
関戸:2024年はジャパンカルチャーが再注目された1年だったと思います。これまでは、“カワイイ”文化やアニメなど、いわゆる日本的なサブカルチャーを海外に輸出してきましたが、今年はその毛色が変わり、Netflixの時代劇「SHOGUN 将軍」や、ミーガン・ザ・スタリオン(Megan Thee Stallion)に見出されたラッパーの千葉雄喜などが飛躍しました。中でも特筆すべきはXG。彼女たちが日本のアーティストが世界進出するための道を作ったように感じています。その世界観は若者のファッションにも影響を与えていますし、セレブリティー・メジャー部門で文句なし金メダルです。
浅野:SNS担当としてはロックバンドのMrs. GREEN APPLEもそこに加えたいです。昨年、「GQ MEN OF THE YEAR」でベスト・アーティスト賞を受賞し、若い人を中心に高い支持を得ているとは知っていたのですが、「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」のジャパンアンバサダーになったニュースをSNSアカウントで取り上げた際、インプレッションが爆発的に伸びた。楽曲の良さだけでなく、メンバーのルックスを推す女性ファンが多くアイドルに限りなく近い存在になっている気がします。
本橋:25年春夏(9月開催)ニューヨーク・ファッション・ウイークの「トミー ヒルフィガー」のショー会場で、彼らをキャッチしました。その際に撮影した動画も、韓国のセレブを優に超えるような視聴数だったんです。正直ここまでとは思っていませんでした。世間での人気の高まりを実感しました。ロックバンドのメンバーがファッション業界からラブコールを受けるのは、面白い流れですね。
木村:「WWDJAPAN」として忘れてならないのはラウールさんです。Snow Manとしての活躍が世間では取り沙汰されがちですが、ショーモデルを目指してファッションブランドのオーディションを受け、結果的に「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」と「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のランウエイを歩いたことは特筆すべきでしょう。彼のモデルとしたの本気度を深掘りした「WWDJAPAN」2月5日号は、業界外からも反響が大きく、紙面が完売するほどでした。ファッション業界でのさらなる飛躍を期待する意味で、セレブリティー・アップカミング部門はラウールさんに贈りたいですね。
関戸:海外で賞賛を浴びたセレブリティーが日本に逆輸入され、さらに熱狂を生み出す現象は今後ますます著しくなると思います。音楽プロデューサーも世代交代が起き、SKY-HIさんやちゃんみなさんのような若手アーティストが辣腕を振るっていますから、世界で戦えるジャパンカルチャーが育っていきそうです。
ファッション&ビューティトレンド
2024年の金メダルは君たちだ!
・ファッション
メジャー:変化系厚底シューズ
アップカミング:ジョーツ
・ビューティ
メジャー:コスメのアクセサリー化
アップカミング:成分ブームの発展
・セレブリティー
メジャー:XG、ミセスグリーンアップル
アップカミング:ラウール
25年の金メダル候補はキミたちだ!
1. インディスリーズ
2. 成分ブームの波がラグジュアリーブランドにも
3. ジャパンカルチャーの再評価